26話後編 四人で。
食事はそろそろ終わりに近づいていた。
皿の上の料理も残りわずかで、会話もゆるやかに落ち着き始めている。店の中には昼の賑わいが続いているが、この半個室の空気だけはどこか穏やかで、ゆったりとした時間が流れていた。
その静けさの中で、ふとユリウスが背筋を伸ばした。
「……ちょっといいか」
「改まってどうした?」
リュカがデザートのプディングを食べながら首を傾げる。
ユリウスは一瞬だけ視線を落とし、それから三人を順番に見渡した。
「調査が終わった時から考えていたんだが」
短く息を整え、ゆっくり言葉を選ぶように続ける。
「今までは仮のパーティだったが……良ければこのまま正式にパーティを組まないか」
一瞬、空気が止まったように感じる。けれど確かにユリウスの言葉がテーブルの上の空気を揺らした。
「あ、私もそれ思ってた!」
間髪入れずにライラが声を上げる。
「このまま解散しちゃうの、もったいないなって!」
明るく笑う彼女の言葉に、場の緊張がほんの少しほどける。
リュカは目を瞬かせ、少し困ったように眉を寄せた。
「え、それは嬉しいけどさ……ライラやユリウスなんかは、他のパーティから助っ人で引っ張りだこだろ。特定のパーティになってもいいのか?」
視線をユリウスとライラの間で揺らし、戸惑い混じりの声でそう問う。
セラフィナは驚いたように小さく固まって、まだ言葉が出ないまま、ただ三人の様子を見つめていた。
「俺は構わない」
ユリウスは迷いなく答えた。
「いい加減、どこかに所属しろと周りからもせっつかれていてな」
そこで少しだけ表情が柔らぎ、リュカとセラフィナを真っ直ぐに見つめる。
「……でも一番は、俺がお前たちと組みたいと思ったから提案している」
「私もねー。そろそろ新人とか下級の面倒ばっか見てないで、上を目指してもいいかなって思ってたのよ」
ライラも頷きながら言い、そしていたずらっぽく笑う。
「このパーティが楽しすぎるってのもあるけど!」
その言葉にリュカは思わず視線を落とした。テーブルの木目を見つめながら、小さく呟く。
「……本当にいいのか?」
声が少しだけ掠れている。
「俺、流れの冒険者だったんだぞ。……もしかしたら迷惑かけることになるかもしれない」
その言葉には、軽く笑ってごまかせない何かが含まれていた。長く一人で旅をしてきた時間が、その言葉の奥に影のように残っていた。
「それも承知の上だ」
ユリウスは静かに笑い、迷いのない声でそう告げた。
リュカは何か言い返そうとしたが、真っ直ぐな視線に言葉が見つからなかった。喉の奥が少しだけ熱くなる。泣きそうな顔を隠すように、視線を下へ落とした。
「セラフィナは?どう?」
突然ライラに名前を呼ばれ、セラフィナは少し肩を揺らした。
「……私……は……」
言葉がうまく形にならない。
胸の奥に、いくつもの記憶が浮かんでくる。ライラと出かけたあの日のこと――
『もっと自分の気持ち、出してもいいんじゃない?』
あの時の言葉が、柔らかく背中を押す。
さらに、この場所で交わした別の声が思い出の中から響く。
『セラフィナが楽しいって思う事、やりたかった事も。一緒にやろう』
リュカの声だった。静かで、まっすぐで、どこか温かい声。
セラフィナはゆっくりと顔を上げる。
「……みんなでパーティになりたい」
大きく深呼吸を一回して真っ直ぐ見つめた。
「ライラと、ユリウスと、リュカと……」
「これからも一緒にいたい」
最後に名前を呼んだ時、視線は自然とリュカに止まっていた。
二人の目が合う。リュカの瞳はいつも真っ直ぐだ。迷いなく人を見る、そんな目をしている。
けれど今、その瞳は少しだけ揺れていた。こんな表情を見るのは初めてだった。
リュカはしばらく動かなかった。長い時間、何かを考えるように黙り込む。
やがて、ぎゅっと目を閉じた。まるで胸の奥の何かと向き合うように。
しばらくして、ゆっくりと目を開く。拳を軽く握り、深く息を吸う。
「……………………わかった……これからよろしくな」
そう言って、いつも通りの笑顔を浮かべた。
その瞬間、ユリウスが長く息を吐いた。そして珍しく、机に突っ伏して動かなくなる。
「えっ!?どうしたユリウス!」
リュカが慌てて身を乗り出した。ユリウスは顔を伏せたまま、小さく答える。
「……断られたらどうしようかと考えていたんだ」
声は小さく、少しだけ掠れたような声色。
「良かったよ……」
「……なんか、ごめんな……」
「いや、いいんだ」
ユリウスはゆっくりと顔を上げた。
その時、ライラがぱんと手を打った。
「じゃあこの後はパーティ申請しに行こう!…で、何か結成記念に依頼でも受けよ!」
「結成記念で依頼ってなんだよ」
その言葉に、四人の笑い声が重なった。
店の外ではいつも通り人の流れがあり、ギルドの街は今日も賑わっている。
その中で、新しいパーティがひとつ生まれた。
後に、グレイスロウの冒険者たちの間で少し話題になったらしい。
人気のあったユリウスとライラが、よく分からん槍持ちのヒーラーと、銀髪で黒衣の謎の魔法使いと組んだらしい、と。
もっともその噂がどんな形に変わっていくのかは、まだ誰も知らなかった。
ようやく正式に仲間になりました。
セラフィナは随分心を開いたね良かったね。




