24話前編 一方で男達は…
セラフィナとライラが帰ったあと、ユリウスはリュカを屋敷の奥へと案内した。
階段を上がり、二階の廊下を進む。客間とは違う、生活の気配が薄い場所だ。案内されたのは、ほとんど何も置かれていない空き部屋だった。
「え、昨日の客間じゃないのか?」
リュカが不思議そうに首を傾げると、ユリウスは当然のように答える。
「それではリュカの私物を置けないだろう。部屋を借りる前に、ある程度ここで配置を考えておくといい」
「ほー……」
部屋をぐるりと見渡す。確かに、何もないからこそ想像しやすい。
「なんかそういうの、よくわからんからさ。良ければ店とかも色々教えてくれないか」
その一言に、ユリウスは一瞬目を丸くした。それから小さく笑う。
「……わかった。任せておけ」
頼られるのは、思っていた以上に悪くない。
「ひとまず必要なのは寝具と魔導ランプだな。机と椅子、棚もあると便利だ」
「そうかぁ……」
腕を組みながら考え込むリュカ。
「ちなみに部屋を借りるならどの辺がおすすめなんだ?」
「そうだな……」
少し考えてから、ユリウスが言う。
「あぁ、そうだ。寝具の買い出しついでに見て回るか」
「いいのか?」
「構わない」
こうして、二人は街へ出ることになった。
グレイスロウの街は、大ダンジョンを中心に広がる都市だ。ダンジョンの正面に位置するのが冒険者ギルド。その周囲には宿屋や飲食店が集まり、常に冒険者で賑わっている。東側には研究施設が並び、学者や魔導研究者が行き交う区域。西側には闘技場や劇場などの娯楽施設があり、昼夜を問わず人の流れが絶えない。
そこから街は扇状に広がっていく。中央には商業街や職人街。さらに外側に一般の住宅街が広がり、西寄りには貴族の屋敷が並ぶ。
そして街の最奥、小高い丘の上にはグレイスロウ領主の館が構えていた。
そんな街の中心を、二人は並んで歩く。
リュカはいつもの服に魔法鞄だけ。深緑のローブは今日は羽織っていない。
ユリウスもまた冒険者装備ではなく、落ち着いた色合いのラフな服装だ。ただし、どう見ても仕立ての良さが隠せない。
「まずはここだな」
ユリウスが入ったのは、商業街にある家具屋だった。店内には様々な調度品が並び、その奥に寝具のコーナーがある。
「俺そんなこだわりとかないんだけど……」
リュカがぼそりと呟く。するとユリウスは当然のように言った。
「休むための物にはこだわった方がいいぞ」
そう言って指差したのは、客間に置いてあったベッドよりさらに大きなものだった。
「……いやいや」
思わず笑ってしまう。
「そんなん置いたら他の物置けなくなるだろ」
結局リュカが選んだのは、客間と同じくらいの大きさのシンプルなベッド。それに合わせた寝具一式だ。
値札を見て渋い顔をしていたが、ユリウスに押し切られる形で魔導ランプも購入することになった。
「他の物はいいのか?」
「まぁ診療所やってた時のがあるしな。残りはおいおいでいいか、と思って」
そう言って二人は店を出た。
商業街の北側には小さな広場がある。ここが北中央広場だ。広場の先には住宅街が広がっている。
「ここより東に行くと一般住民のエリアだ」
ユリウスが説明する。
「新人や下級冒険者が格安で借りられる賃貸も多い」
「え、じゃあ上級だと格安物件借りれないのか?」
「そういう安い場所は出来るだけ下に譲るという、暗黙のルールだな」
「あー……まぁそうか」
リュカは納得したように頷く。
「中級や上級の多くは、もう少し中央寄りのエリアに借りている。西側は貴族街だ」
「なるほどなぁ」
街の景色を見回す。
「じゃあ探すなら中央寄りか」
「そうだな」
ユリウスも頷いた。
「そのうち不動産屋も紹介しよう」
「助かるわ」
しばらく歩いたところで、リュカがふと空を見上げた。
「……なんか腹減ったな……一旦なんか食べないか?」
「そうだな」
ユリウスは懐中時計を取り出す。
「もう昼過ぎか」
「広場の屋台でも行こう……ってあんまユリウスそういうの食べない?」
「いや、何度か行ったことはあるぞ」
「んじゃ決まりだな」
向かったのは南中央広場。ギルドと商業街の境目にある広場で、屋台が所狭しと並んでいる。香ばしい匂いと賑やかな声が辺りに広がっていた。
「何食う?」
リュカは楽しそうに屋台を見回す。
「とりあえず適当に色々買うか」
ユリウスも頷き、二人で屋台を回る。気付けば両手いっぱいに料理を抱えていた。
広場のベンチに腰を下ろし、男二人の昼食が始まる。
「なにこれ美味!」
薄く焼いた小麦の生地に、野菜と肉を巻いた料理を頬張る。スパイスの効いた甘辛い味に、思わず目を輝かせた。
「何の肉だこれ!」
「それはオーク肉だな」
ユリウスは巨大な焼き鳥串を食べながら答える。
「癖になる味でな。時々食べたくなる」
「へぇー……」
リュカは感心しながら、また一口。屋台飯はあっという間に消えていった。
満足そうに息をつき、リュカがふと思い出したように言う。
「そういやさ、そろそろ武器のメンテナンス行きたいんだけど。ユリウス、おすすめの鍛冶屋教えてくれないか?」
友達(初)との交流。




