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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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23話後編 女子会


「……す……き?」

 

 セラフィナは、言葉をそのまま口の中で転がすように繰り返した。何を言われたのかすぐには理解できなかった。ただ、その響きだけが妙に残っている。

 隣に座るライラはそんな様子を見てくすりと笑う。

「うんうん。なぁんかそんな気がして。乙女の勘ってやつ?」

 やわらかい声。からかうようでいてどこか優しい。その一言で遅れて意味が追いついた。一気に顔が熱くなる。

 胸の奥で鼓動が強く打ち始め、耳の奥まで響いている気がした。

(すき……好き……?)

 胸の奥で、言葉だけが何度も反響する。

(リュカを……?)

 鼓動がうるさい。指先まで熱が伝わって落ち着かない。

 

「んふふ……わかってないって顔してる」

「……っ……わからない……よ……」

 やっとの思いで言葉にする。

 好きって、なに。リュカのことは、信頼している。一緒にいれば安心できるし、隣にいると落ち着いて少しだけ呼吸が楽になる。

 でもそれはライラやユリウスと何が違うのか。違いなんて…あるのだろうか。

 考えようとするほど、頭の中がぐるぐると回り始める。熱だけが残って、答えには辿り着けない。

「まぁ、セラフィナは今まで人を避けてたんだから、そうなっちゃうわよね」

 ライラはそう言ってゆっくりと紅茶に口をつけた。その仕草は落ち着いていて、どこか安心をくれる。

「でもさ、せっかく原因が分かって人を避けなくてもよくなってきたんだからさ。もっと自分の気持ち、出してもいいと思うのよね」

 柔らかな声だった。押しつけるでもなくただ隣に置くような言い方。

「今日、一緒に出かけて。好きな服着て、美味しいもの食べて」

 テーブルの上の皿と、紅茶の湯気を軽く指で示す。

「こうやってなんでもない話してるのって、楽しいでしょ?」

 セラフィナは、小さく頷く。

 

――楽しい。

 

 その言葉が、こんなにも素直に自分の中にあることが、まだ少しだけ不思議だった。

「それと一緒。好きな人ができたっていいじゃない」

 さらりと言われた言葉に、また少しだけ胸の奥が揺れる。

 

「色んな感情が出てくるのを、楽しいって思えばいいんだから」

 

「ねっ」

 肘をついて、少しだけ身を乗り出すようにして見つめてくるその視線は、優しくて、あたたかい。

 

 色んな感情を、楽しむ。

 

 そんなふうに考えたことはなかった。胸の中で驚きと、なにかがほどけるような感覚。まるで閉じていた扉が静かに開いていくようだった。

「……感情を、楽しむ……」

「そうそう。嬉しいな、とか、楽しいな、とか。これ美味しいな、とか、綺麗だな、とか、可愛いな、とか」

 ライラは楽しそうに指を折りながら並べていく。

 

「好きって、色んな感情があるのよ」

 

 そのひとつひとつが、今日一日の中にちゃんとあったものばかりで。

「今、セラフィナとこうやって出かけられて、私はとっても嬉しいし楽しい」

 少しだけ照れくさそうに、それでもはっきりと伝えてくる。

「また一緒にお出かけしたいなって思うもの。セラフィナはどう?」

自分でも驚くほど自然に言葉が出てきた。

「……私も……嬉しいし、楽しかった。……また、ライラと一緒に……出かけてみたい」

 言葉にするたび、胸の中があたたかくなる。その答えに、ライラはぱっと顔を輝かせる。

「うんうん!もちろん!」

 すぐに返ってきた明るい声に自然と笑みがこぼれる。小さく笑い合う時間が心地よかった。胸の奥がさっきよりもずっと軽い。

「リュカのことに関してもね、焦って答え出さなくていいの」

 首を傾げると、ライラはゆっくりと続けた。

 

「一緒にいて嬉しい、安心する、落ち着く、楽しい、もっと一緒にいたい。そういうのをたくさん積み重ねて、それからゆっくり向き合えばいいの」

 

 ひとつひとつ、言葉がやさしく胸に落ちていく。

「なにかされたら私に言いなさいな。とっちめてやるんだから!」

 ぐっと拳を握って、軽く腕を振るう。

その仕草が可笑しくて、思わずふっと笑みがこぼれる。それはすぐに、抑えきれない笑いへと変わっていった。

 こんなふうに声を上げて笑うのは、いつぶりだろう。

 

 その様子を見たライラは、しばらく固まったあと、なぜか頭を抱えてうずくまった。

「ぐぅぅ……セラフィナ……」

 なにかを堪えるような苦しそうな声。

「ずっと我慢してたことあるんだけど、お願い聞いてくれる?」

「……?なに?」

 顔を上げたライラは、真剣そのものだった。

「頭、撫でさせて……可愛すぎてもう無理……撫でたい……愛でたい……」

 机に突っ伏しながらの懇願。

 頭を撫でる、という行為がまだよく分からない。それでも嫌だとは思わなかった。その必死さに少しだけ戸惑いながらも、セラフィナはそっと頭を傾けた。

 それを見た瞬間ライラは素早く体を起こすと、そっと、セラフィナの頭に触れた。髪を梳くように、やさしく、やさしく撫でてくる。

「……今まで頑張ってきたんだもんね。えらいよ、セラフィナ」

 あたたかい声。胸の奥がきゅっと締め付けられる。

「また二人でどこか行こう。約束ね」

 撫でる手が、あまりにも優しくて。

 どこか遠い記憶がかすかに揺らぐ。もう失くしたと思っていたものに少しだけ触れた気がした。けれど、それはすぐに淡く消えていく。

 残ったのはじんわりとした温もりと、少しだけ熱くなった目元。

「……うん。約束」

 震える声で、それだけを返すのが精一杯だった。

少しずつ、心を修復中。

メンタリストライラさん。

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