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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
27/58

21話 酒場にて

 ギルド奥にある冒険者酒場“深層の灯”は、今日も賑わっていた。木造りの店内には笑い声と食器の触れ合う音が満ちていて、熱気すら心地いい。

 広いホールにはオープンな席が並び、その奥には仕切られた半個室。打ち合わせにも使われるその席は、喧騒から少し距離を置ける分、落ち着いて過ごせると評判だ。

 同じくギルド直営の“竜骨亭”が腹を満たす豪快な料理で人気を集めるなら、ここは酒と時間を楽しむ場所。甘味やカクテルが評判の“蒼の酒場”とはまた違った、程よいざらつきと温かさがある。

 四人はその半個室の一つに陣取っていた。

 テーブルの上には、料理と酒が所狭しと並んでいる。

 焼きたての肉料理に香草の香りが立ちのぼり、揚げ物の衣は軽やかに色づき、湯気の立つスープが食欲を誘う。

 席順は自然と決まった。リュカの隣にセラフィナ、向かいにユリウス、その隣にライラが座る。

「そんじゃまぁ、無事の帰還に――」

 ライラがグラスを掲げる。

「かんぱーい!」

 軽やかな音が重なり、四つのグラスが触れ合う。ライラはそのままエールを一気に流し込み、勢いよく息を吐いた。

「……っはーーー!生き返ったーー!」

 体の芯から満足がにじみ出ている。

「仕事後の一杯は最高ね!あ、エールおかわりくださーい!」

 その勢いに、思わず笑いが漏れる。リュカとユリウスもそれぞれグラスを傾け、喉を潤す。セラフィナの手元には、透明なグラスに注がれたりんごソーダが静かに泡を弾いていた。

 依頼を終えたばかりの解放感が、空気をやわらかくする。料理も酒も自然と進み、会話も弾む。

 半個室という空間の安心感もあってか、セラフィナはフードを外していた。その横顔はどこか穏やかで、ほんの少しだけ表情が柔らかい。

 

「そういえばさ」

 食事もひと段落したところで、ライラが思い出したように顔を上げる。

「セラフィナ、お酒飲んでないわよね。飲めないの?」

 問いかけられて、セラフィナは少しだけ肩をすくめた。どこか照れたように視線を落とす。

「……えっと……飲んだことなくて……」

「えぇ!?一回も?」

「うん……こういうところに来たのも初めてで……」

 言いながら、グラスを両手で持ち、そっと口をつける。

「……楽しい……」

 頬がほんのり赤く染まり、そのまま小さく微笑んだ。

――その一瞬で、空気が止まる。

「……っ」

 ライラはそのまま机に突っ伏した。

「ちょっと待って無理……かわいすぎる……」

 完全にやられている。

 リュカは思わず笑い、ユリウスはどこか保護者のような眼差しでその様子を見ていた。

 かつては魔力の暴走を恐れて、人との距離を避けていた彼女が今、こうして同じ卓を囲んで、楽しそうに笑っている。

 その事実だけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

「これからさ、たくさん来ようよ。みんなで。せっかく仲良くなれたんだし」

 セラフィナの方を見て、少しだけ笑う。言葉を選ぶようにゆっくりと、ほんの少しだけ声が柔らかくなる。


 

「楽しいって思うこととか、セラフィナがやりたかったこととか。一緒にやろう」


  

 その言葉は、静かに、けれど確かに届く。胸の奥に、じわじわと染み込んでいくように。セラフィナは目を見開き、そして小さく息を吸ってから、頷いた。

「……!うん!」

 今までで一番、はっきりとした綺麗な笑顔だった。


  

「……お酒……飲んでみようかな……」

 ぽつりと呟いたその一言に、ライラが即座に反応した。

「よーし来た!任せなさい!」

 勢いよく立ち上がり、店員を呼ぶ。

 ほどなくして運ばれてきたのは、淡い色の液体が揺れるグラス。りんごの香りがふわりと広がる、軽い口当たりの酒――シードル。

 他の三人も、それぞれスパークリングワインを手に取り、改めてグラスを掲げる。

「じゃあ改めて」

 ライラがにやりと笑う。

「セラフィナのお酒デビューに、かんぱーい!」

 軽く触れ合う音。セラフィナは少しだけ緊張した様子でグラスを持ち上げ、そっと口をつける。

 一口。

「……美味しい……」

 目を丸くして、素直にそう呟いた。

 その後も、口当たりの優しい酒を少しずつ。新しい味を知るたびに、表情が少しずつほどけていく。

 初めての酒の時間は、ゆっくりと、楽しい記憶として積み重なっていった。


――

  

「おーい、セラフィナー、起きてー」

 リュカが横から声をかける。しかし、返事はない。こくり、こくりと小さく頭が揺れている。

「……あれぇ?」

 ライラが首を傾げる。

「そんな強いお酒じゃなかったんだけどなぁ……」

 ユリウスが静かに言う。

「今日は色々あった。疲れていたんだろう」

 その言葉に納得しつつも、リュカは困ったように笑う。

「どうしようか……運ぶにしても、セラフィナの家わかる?」

 二人は同時に首を横に振る。

「だよなぁ……セラフィナー……起きろー」

 もう一度呼びかけるが返事はない。完全に眠っている。三人で顔を見合わせた。

「……あっ!」

 その時ライラがぱっと顔を上げた。

 

「ユリウス!あんたの家にみんなで行けば解決じゃん!」

 

 名案、と言わんばかりに手を叩く。ユリウスが目を見開く。

「……は?」

 リュカは苦笑しながら横を見る。

「部屋余ってんでしょ?」

 ライラの目は完全に好奇心で輝いていた。

「まぁ……余ってはいるが……」

「でしょ!?決定!」

 元気よくそう決めた後のライラの動きは素早かった。

「リュカ、セラフィナ落とすんじゃないわよ」

 すでに会計を済ませ、出口へ向かっている。程よく酔っているせいか、足取りも軽い。

「…………ユリウス、いいのか?」

「…………こういう時はな」

 遠い目をしながら呟く。

「女性陣に逆らわない方がいいと聞く」

「……そっかー……」

「……行くか」

 諦めたように立ち上がった。

 

 リュカはそっと、セラフィナを抱き上げた。

 軽い。――思っていたよりもずっと。

 腕の中で、彼女は静かに寝息を立てている。頬は酒の影響かほんのりと赤く、無防備なほど穏やかな表情。

 

――こんな顔、初めて見た気がする。

 

 守るべき対象として抱えるのとは、どこか違う感覚。妙に意識してしまう距離。

「……」

 思考が、少しだけ追いつかない。

(……かわいい)

(無防備すぎる)

(……え、なにこれ)

 そんな言葉が、頭の中でぐるぐると答えの出ないまま巡る。

 

 腕の中の温もりと、微かな重みが、やけに意識に残って離れなかった。

こういう話が1番楽しい!


編集してたつもりがされてなかった(´・_・`)

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