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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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20話後編 精霊魔法

リュカ視点寄りに戻りました。


「どうしたら……あなたみたいに制御できるようになるの……?」

 

 セラフィナの視線は、リシェルの手の上にいる金色の鳥に向けられていた。

 その声にはもう、先ほどまでの揺らぎはほとんどない。

 迷いは残っているはずなのに、それでも前を見ようとしているのが分かる声音だった。

 リシェルは少しだけ考えるように首を傾け、それから肩をすくめた。

「んー……ここじゃ時間が足りなすぎるなぁ」

 いかにも面倒くさそうに、だがどこか楽しげに続ける。

「こっちはこっちで、やりたくもない仕事を片付けなきゃいけないしさぁ……せっかく良い研きゅ――ごほん、精霊魔法仲間ができたっていうのに」

 

 一瞬、言いかけた単語に全員が反応しかけて、しかし何も言わずに飲み込んだ。

 

 今、絶対に“研究対象”って言いかけた。

 

 空気の中に、そんな無言のツッコミがどことなくと漂う。

「まぁ、今言えるのは一つだけだね」

 気にした様子もなく、リシェルは指を立てた。

 

「君の傍にいる精霊を怖がらないこと。ちゃんと向き合って、受け入れること」

 

 その言葉は意外なほど真っ直ぐだった。

 

「魔力制御と同じさ。理解して、馴染ませていくんだ」

 

「何か進展があったり、困ったことがあったら僕の研究室においで」

「……わかりました」

 セラフィナは、小さく頷いた。その表情に、先ほどまでの戸惑いはほとんど見えない。完全に消えたわけではないのに、それでもしっかりと前を向いている。

 その変化に、リュカはほんの少しだけ安堵する。

 

「あぁ、そうだ」

 ふと思い出したように、リシェルが視線をずらした。

 

「そっちのリュカ君だったね、君にもそそられる」

 

「……は?」

 一瞬、背筋にぞくりとしたものが走る。何か良くないものに目を付けられた気がした。

 次の瞬間、リュカ以外の三人が反射的に立ち上がりかける。

「いやいや違う違う」

 リシェルは慌てたように手を振った。

「魔力量がね、尋常じゃないからさ。純粋に興味深いってだけだよ」

 にこりと笑う。その笑顔が余計に信用ならない。

「僕の魔法研究の一環で、そのうち協力してもらえたら嬉しいなぁって」

「……あ、はぁ……気が向けば、そのうち……」

 視線を逸らしながら、曖昧に濁した。関わりすぎるとろくなことにならない気がする。本能がそう告げていた。

 

「じゃあ僕はこの辺で。グスタフ君、今日は有意義な報告会だったね。管理室に寄って帰るからよろしく」

 満足したように頷くと、リシェルはひらりと手を振り、そのまま軽い足取りで部屋を出ていった。扉が閉まった後、わずかな沈黙が落ちる。

 

「……昔からあいつはああなんだ」

 グスタフが、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

「なんか……すまなかった……」

「……イイエ……」

 ぎこちない空気が、ほんの少しだけ残る。グスタフは小さく咳払いをひとつして、空気を切り替えた。

「報告はこれで終わりだな。ご苦労だった。数日は指名依頼は控える。ゆっくり休んでくれ」

 その言葉に、張り詰めていたものが少しだけ緩む。

「あの、さっきの話は……」

 リュカが遠慮がちに手を挙げる。グスタフはそれを見て、短く頷いた。

「ここで話したことは外には漏らさん。安心しろ」

 それだけで十分だった。

 

「今回の指名依頼の達成報酬は、それぞれタグに振り込んであります」

 マイアが柔らかく微笑む。

「それと、回収していただいた素材については……少々お時間をいただければと……」

 少しだけ言いにくそうに視線を落とす。ユリウスが静かに口を開いた。

「研究所から何か言ってきたか?」

「あ、いえ……その……」

 マイアは一瞬言葉を詰まらせてから、申し訳なさそうに続けた。

「もう少しお待ちください。必ず何とかしますので」

「……わかった。どうにもならなかったら言ってくれ。俺が行く」

 その一言に、マイアはほっとしたように小さく頭を下げた。


  

 会議室を出て、廊下を歩く。さっきまでの空気が嘘のように、静かな時間が流れる。

 誰も何も言わないまま、しばらく歩いているとライラが口を開いた。

「なんか、すごい報告になっちゃったね……でもさ、セラフィナの体質について、原因が分かったのは良かったよね!」

 振り返っていつもの調子で笑う、その明るさに空気が少しだけ軽くなる。

「……うん」

 セラフィナが、小さく頷く。その表情はどこか柔らかくて、ほんの少しだけ嬉しそうだった。

 不安も、戸惑いも、まだあるはずなのに。

 それでも前を向いている。それが分かる顔だった。

「さーて!」

 ぱん、と軽く手を叩いて、ライラが先頭に立つ。

「気を取り直して、お疲れ会しよう!」

 振り返るその顔は、完全に楽しむ気満々だ。

「久しぶりのお酒!美味しいご飯!」

 その言葉に、張り詰めていた糸がほどけるように、自然と足が軽くなる。

 向かう先は、ギルド奥にある酒場。冒険者たちの声と笑いが集まる場所。

 さっきまで触れていた、少し難しい世界の話も、胸の奥に残る不思議な感覚も、ひとまずは全部置いていくように。

 四人は、賑やかな灯りの方へと歩いていった。

変わり者研究者。自由人過ぎる。

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