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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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20話前編 精霊魔法

セラフィナ寄りの視点です。

「魔力ねぇ……」


 ぽつりと落ちた声と共に、リシェルは椅子にもたれながら、視線がまっすぐセラフィナへと向けられる。観察するような、どこか試すような眼差しだった。

 その視線に、わずかに肩が強張る。その視線に晒されるだけで、胸の奥がわずかにざわつく。見透かされているような、そんな居心地の悪さ。

「これまでの調査で、セラフィナは異常があった箇所にだけ反応してたんです。魔力が濃い場所……というか、歪んでる場所で」

 リュカが間を埋めるように言葉を続ける。その声は落ち着いているが、どこか確信を探るようでもあった。

「彼女の魔力が高すぎて、ダンジョン異常で発生している膨大な魔力に勝手に反応しているんじゃないかと。普段は四属性すべて安定して使えていますし、制御が出来ていないわけではないはずです」

 リシェルは何も言わない。ただ、指先で顎を軽く叩きながら、考えるように目を細める。沈黙が数秒、いやそれ以上に感じられた頃。

「……うん」

 短く息を吐いてから、彼は言った。

 

「その仮説は半分正解、半分ハズレってところかな」

 

 その言葉に、空気がわずかに揺れた。

「……どういう事?」

 自分でも驚くくらいすぐに言葉が出た。不安が胸の奥で小さく波打っている。リシェルはわずかに目を細める。

「セラフィナ君と言ったね」

 その声音は淡々としているのに、妙に核心を突くような声色だった。

 

「君、自分のことを全然理解していないでしょう」

 

 心臓がひとつ強く跳ねた。静かな断言に言葉を失う。

「……君はどうして四属性すべて扱えると思う?この世界の人間は、多くても二属性が限界だというのに」

 問われても答えは浮かばない。考えたことすらなかった。使えるものは使える、ただそれだけだったから。

「……わかりません……」

 小さく答えるとリシェルは一度頷いた。

「まず前提として、人は皆、生まれた時から精霊の恩恵を受けて魔法を扱っている。もちろん本人の資質も大きく関わるが……」

 そこで言葉が一拍置かれる。再び向けられた視線は、先ほどよりも鋭く、深く、何かを見透かすようだった。


  

「君は、精霊に好かれすぎている。異様なまでにね」


  

――意味が、すぐには理解できなかった。

「……は?」

 思わず漏れた声は、自分のものとは思えないほど軽かった。隣でリュカが息を呑み、ライラが「え、どういうこと?」と戸惑いを隠せない声を上げる。ユリウスもまた、黙ったまま視線を落としていた。

 精霊。聞いたことはある。だが、それが自分に関係するものだとは思っていなかった。

「じゃあ確認しよう。“普段の魔法”と“精霊魔法”の違い、分かるかい?」

 リシェルの問いに、ユリウスが静かに答える。

「……精霊魔法は、精霊と契約を結ぶことでより強力な力を得るもの、と聞く」

「その通り」

 軽く指を鳴らすような仕草で肯定する。

「基本はそれでいい。本人の資質に応じて、精霊が力を貸す。だがそれは本来、双方の合意があって初めて成立するものだ。契約には精霊を視認する必要もある。僕も風の精霊と契約しているが……」

 言葉がそこで区切られ、再びセラフィナへと向けられる。

「君の場合は少し違う」

 静かな声音が、妙に重く響く。

 

「本人の意思に関係なく、契約が成立している状態と言った方が正しいね」

 

 胸の奥が、わずかにざわつく。

「……精霊と、契約……?」

 理解が追いつかないまま言葉を繰り返す。そんなもの、した覚えはない。望んだ記憶もない。

「さっき言っただろう。“好かれすぎている”と」

 リシェルは穏やかに続ける。

「君の魔力に惹かれて、四属性の精霊が常に君の周囲にいる。いわば勝手に寄ってきて、勝手に力を貸しているようなものだ」

 思わず周囲を見渡す。だが、そこには何もない。空気は変わらず、ただ静かにそこにあるだけだった。

「……見えません……」

 

 正直にそう告げると、リシェルはわずかに口元を緩めた。

「見えるはずだよ。…少しだけ訓練をしよう」

 ゆっくりと手のひらが差し出される。

「この上に、今僕が契約している精霊がいる。目に魔力を集めるよう意識して、集中して見てみなさい。……何が見える?」

 言われた通り、意識を目へと集める。魔力の流れを調整するのは慣れている。だが、それを“視る”ために使うのは初めてだった。最初は何もない。ただの手のひら。けれど、じっと見つめ続けるうちに、わずかに揺らぎのようなものが見えた気がした。

 

――そこに、何かが“いる”。

 

 ぼんやりとした輪郭が、次第に形を持ち始める。風のように揺らぐ魔力の塊が、やがてひとつの姿へと収束していく。羽。光を帯びた、小さな体。

「……っ……」

 息が止まる。

「……金色の、鳥……」

 思わず零れた言葉に、リシェルが満足そうに頷く。

「うん、よくできました。その状態を維持したまま、今度は自分の周囲を見てごらん」

 言われるままに視線を動かす。

 

――その瞬間、世界が少しだけ変わった。

 

 今まで何もなかった空間に、淡い光が浮かんでいる。

赤、青、緑、黄。

 小さな光の粒が、静かに漂っていた。

「……あ……」

 それは、ずっとそこにあったのだと気づく。自分が見えていなかっただけで、確かにそこに存在していた。胸の奥が、ゆっくりと震える。

「見えたようだね」

 リシェルの声が、静かに重なった。セラフィナは言葉を返せなかった。ただ、その光から目を離せずにいた。

――自分の知らない“何か”が、ずっと傍にあった。

 それを、今初めて知ったのだと、遅れて実感が押し寄せてきた。

世界が一変する瞬間。

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