18話 調査終了
48階層の調査は、残り二日という制限の中で再開された。
未知の状態での探索は、思っている以上に神経を削る。地形の変化、出現する魔物の種類、その挙動。加えて増え続けるトラップの種類と配置、それらの解除方法まで、ひとつひとつ丁寧に記録しながら進んでいく。
戦闘も避けられない。四人は言葉少なに連携を取り、確実に処理していった。
慎重さがそのまま時間を削っていき、この日は結局、下層への入口を見つけることはできなかった。
無理はしない。そう判断し、四人は安全地帯へと引き返す。
そして翌日、残り一日。未確認のエリアを中心に調査を進め、半日ほどが経過した頃。
「……あった」
ライラの声に、三人の視線が集まる。
壁の奥、僅かに開けた通路。その先に続く、下層への入口。
ようやく見つけたそれに、安堵と同時に慎重さが戻る。すぐに進む者はいない。
リュカが少し考えるように言った。
「入口は見つけたけど、下に降りたとして安地がすぐ見つかるとは限らないよな……」
「その通りだ」
ユリウスが即座に頷く。
「今回はこれで調査を切り上げよう。一度戻る」
異論は出なかった。
四人は頷き合い、そのまま安全地帯へと引き返す。
火を起こし、湯を沸かし、簡素な茶を淹れる。
携帯食をかじりながら、ようやく肩の力を抜いた。
「……はー……疲れた……」
ライラが大きく息を吐き、そのまま体を預けるように座り込む。
「こんなしんどい調査依頼、初めてだわ」
「全てが未知の状態だったからな」
ユリウスは落ち着いた口調で答えるが、その声音にはわずかな疲労が滲んでいた。
「休憩が終わったら上へ戻る。それまで、もうひと踏ん張りだ」
「このあとさ……」
リュカがぼそりと呟く。
「ギルドに報告あるんだろ……正直、宿のベッドに飛び込みたい……」
「なんだ、リュカはまだ宿住まいなのか」
少し意外そうにユリウスが目を向ける。
「そうだけど。みんなはどうしてるんだ?」
「俺はグレイスロウ出身だからな。一人で住んでいる家がある」
「へー!いいなぁ、家!」
ライラがぱっと顔を上げる。
「私はエルドリアの隣国から来てるから、部屋借りてるよ」
「セラフィナは?」
問いかけられ、セラフィナは少しだけ間を置いた。
「……私は、エルドリア出身だけど、辺境の生まれで…だから部屋を借りてる」
「しばらくこの街に滞在するなら、宿より部屋を借りた方が安く済むぞ」
ユリウスの言葉に、女性陣がうんうんと頷く。
「マジか……」
リュカは少し驚いたように目を瞬かせた。
「部屋借りるとか、考えたことなかったな……探してみるか……」
その言葉を聞いたユリウスが、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。
そして、少しだけ間を置いてから口を開いた。
「……住む部屋が見つかるまでで良ければ、うちを貸すぞ」
「え?」
「一軒家だ。空いている部屋もある」
あくまで淡々とした口調。だが、わずかにぎこちない。
リュカの表情が一気に明るくなる。
「え!?いいのか!?しばらく居候させてもらえるなら、めちゃくちゃ助かるけど!」
勢いよく身を乗り出した。
「構わない。報告が終わったら案内しよう」
そう言いながら、ほんの少しだけ口元が緩む。
その様子を、ライラは見逃さなかった。じーっと見つめて、にやりと笑う。
「ほー……」
「……なんだ」
「ユリウス、良かったわね」
「何がだ?」
「友達になりたかったんでしょ、リュカと」
「……!」
ユリウスの動きが一瞬止まる。
「え、あ……いや……ちが……」
言葉がうまく出てこない。
「……違わ…ないが……」
小さく、しぼり出すような声。その様子に、リュカが目を丸くした。
「え、俺たちまだダチじゃなかったのか!?」
リュカが本気で驚いた声を出す。
「い、いや……と、友達だ……」
視線を逸らしながら、ものすごく小さな声で言う。
その顔は、焚き火のせいだけではない赤さを帯びていた。
一拍の間が空き、リュカが、にっと笑った。
「良かった!じゃあ改めてよろしくな!」
そう言って、ぱっと手を上げる。
一瞬戸惑ったあと、ユリウスもゆっくりと手を上げた。
「……あぁ。よろしくな」
ぱちん、と軽い音が響く。
それだけのことなのに、妙にくすぐったい空気が流れる。
ライラが吹き出し、セラフィナも小さく笑った。
(いいな……)
セラフィナの胸の奥に、ふわりと何かが浮かぶ。
けれど、それが何なのかは、まだうまく言葉にできない。
ただ、少しだけあたたかくて。
少しだけ、くすぐったい。
焚き火の火がやわらかく揺れる中で、四人の空気はどこまでも穏やかで。
ダンジョンの中とは思えないほどに、あたたかな時間が静かに流れていた。
ユリウスは可愛いヤツなんです(2回目)




