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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
22/55

18話 調査終了

 48階層の調査は、残り二日という制限の中で再開された。

 未知の状態での探索は、思っている以上に神経を削る。地形の変化、出現する魔物の種類、その挙動。加えて増え続けるトラップの種類と配置、それらの解除方法まで、ひとつひとつ丁寧に記録しながら進んでいく。

 戦闘も避けられない。四人は言葉少なに連携を取り、確実に処理していった。

 慎重さがそのまま時間を削っていき、この日は結局、下層への入口を見つけることはできなかった。

 無理はしない。そう判断し、四人は安全地帯へと引き返す。

 

 そして翌日、残り一日。未確認のエリアを中心に調査を進め、半日ほどが経過した頃。

 

「……あった」

 

 ライラの声に、三人の視線が集まる。

 壁の奥、僅かに開けた通路。その先に続く、下層への入口。

 ようやく見つけたそれに、安堵と同時に慎重さが戻る。すぐに進む者はいない。

 リュカが少し考えるように言った。

「入口は見つけたけど、下に降りたとして安地がすぐ見つかるとは限らないよな……」

「その通りだ」

 ユリウスが即座に頷く。

「今回はこれで調査を切り上げよう。一度戻る」

 異論は出なかった。

 四人は頷き合い、そのまま安全地帯へと引き返す。

 

 火を起こし、湯を沸かし、簡素な茶を淹れる。

 携帯食をかじりながら、ようやく肩の力を抜いた。

「……はー……疲れた……」

 ライラが大きく息を吐き、そのまま体を預けるように座り込む。

「こんなしんどい調査依頼、初めてだわ」

「全てが未知の状態だったからな」

 ユリウスは落ち着いた口調で答えるが、その声音にはわずかな疲労が滲んでいた。

「休憩が終わったら上へ戻る。それまで、もうひと踏ん張りだ」

「このあとさ……」

 リュカがぼそりと呟く。

「ギルドに報告あるんだろ……正直、宿のベッドに飛び込みたい……」

 

「なんだ、リュカはまだ宿住まいなのか」

 少し意外そうにユリウスが目を向ける。

「そうだけど。みんなはどうしてるんだ?」

「俺はグレイスロウ出身だからな。一人で住んでいる家がある」

 

「へー!いいなぁ、家!」

 ライラがぱっと顔を上げる。

「私はエルドリアの隣国から来てるから、部屋借りてるよ」

 

「セラフィナは?」

 問いかけられ、セラフィナは少しだけ間を置いた。

「……私は、エルドリア出身だけど、辺境の生まれで…だから部屋を借りてる」

 

「しばらくこの街に滞在するなら、宿より部屋を借りた方が安く済むぞ」

 ユリウスの言葉に、女性陣がうんうんと頷く。

「マジか……」

 リュカは少し驚いたように目を瞬かせた。

「部屋借りるとか、考えたことなかったな……探してみるか……」

 

 その言葉を聞いたユリウスが、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。

 そして、少しだけ間を置いてから口を開いた。

 

「……住む部屋が見つかるまでで良ければ、うちを貸すぞ」

 

「え?」

「一軒家だ。空いている部屋もある」

 あくまで淡々とした口調。だが、わずかにぎこちない。

 リュカの表情が一気に明るくなる。

「え!?いいのか!?しばらく居候させてもらえるなら、めちゃくちゃ助かるけど!」

 勢いよく身を乗り出した。

「構わない。報告が終わったら案内しよう」

 そう言いながら、ほんの少しだけ口元が緩む。

 

 その様子を、ライラは見逃さなかった。じーっと見つめて、にやりと笑う。

「ほー……」

「……なんだ」

「ユリウス、良かったわね」

「何がだ?」

「友達になりたかったんでしょ、リュカと」

「……!」

 ユリウスの動きが一瞬止まる。

「え、あ……いや……ちが……」

 言葉がうまく出てこない。

「……違わ…ないが……」

 小さく、しぼり出すような声。その様子に、リュカが目を丸くした。

「え、俺たちまだダチじゃなかったのか!?」

 リュカが本気で驚いた声を出す。

「い、いや……と、友達だ……」

 視線を逸らしながら、ものすごく小さな声で言う。

 その顔は、焚き火のせいだけではない赤さを帯びていた。

 一拍の間が空き、リュカが、にっと笑った。

「良かった!じゃあ改めてよろしくな!」

 そう言って、ぱっと手を上げる。

 一瞬戸惑ったあと、ユリウスもゆっくりと手を上げた。

「……あぁ。よろしくな」

 ぱちん、と軽い音が響く。

 それだけのことなのに、妙にくすぐったい空気が流れる。

 ライラが吹き出し、セラフィナも小さく笑った。

 

(いいな……)

 セラフィナの胸の奥に、ふわりと何かが浮かぶ。

 けれど、それが何なのかは、まだうまく言葉にできない。

 ただ、少しだけあたたかくて。

 少しだけ、くすぐったい。 

 焚き火の火がやわらかく揺れる中で、四人の空気はどこまでも穏やかで。

 ダンジョンの中とは思えないほどに、あたたかな時間が静かに流れていた。

ユリウスは可愛いヤツなんです(2回目)

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