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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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16話 調査再開①

 四十六階層の調査を再開してから、どれくらい進んだだろうか。

 昨日の時点で安地までの道筋は一通り確認済みだ。残るはその先、階層の奥へと続く半分ほど。薄暗い石造りの通路は、どこか廊下のように整いすぎていて、かえって不気味さを増していた。

 先頭を行くライラが、不意に足を止める。

「……ちょっと止まって」

 振り返りもせずにそう告げると、足元に転がっていたやや大きめの石を拾い上げ、そのまま前方へ放った。

 次の瞬間、乾いた風を裂く音とともに、左右の壁から一斉に矢が放たれる。石はあっという間に貫かれ、床に転がった。

「トラップ……!?」

 ユリウスの声に、三人の視線が一斉に前方へ集まる。

「うわぁ……トラップなんて本来は五十階層からだったのに……」

 露骨に引いた声を漏らすライラに、誰も否定の言葉を返せない。

「攻略難易度が、明らかに変化しているな」

 静かに言うユリウスの言葉に、空気が引き締まる。四人は無言で頷き合い、慎重に歩みを再開した。

 

 少し進んだところで、ふとリュカが何気ない調子で言った。

「……あ、守護結界かけたまま移動する?トラップ当たるのやだし」

 一瞬、時が止まった。

「はぁ!?いやいや、それはちょっとリュカの負担が大きすぎない?」

 即座に食いつくライラに、セラフィナもこくこくと焦ったように頷く。

「そんな負担になることをさせるつもりはないぞ!?」

 珍しく声を荒げるユリウスに、リュカは不思議そうな顔を返した。

「いや、たった四人だし全然大丈夫だぞ?昔はもっと大人数にかけながら一日中移動とか、普通にあったし」

 どこか遠くを見るような目。

(どんな状況……)

 三人の思考が見事に一致するが、誰もそれを口に出さない。

「……そうだったな、リュカ。君はだいぶ規格外のヒーラーだった」

 ユリウスまでもが遠い目をする。

「あ、でもあんまりそれ言わないでもらえると助かる」

 途端に慌て出すリュカに、ライラはため息混じりに肩をすくめた。

「言えるわけないじゃないの……そんなヤバいヒーラー、研究所にでも連れてかれて監禁されるわよ、多分」

 妙に現実味のある言葉に、リュカの方がまた遠い目をする事になった。


 その重さを軽くするように、ライラは肩をすくめて言葉を続ける。

「……でも、かけてくれるなら助かるかな。避けられないわけじゃないけど、痛い思いするのは嫌だし」

 軽く笑って言うと、ユリウスが短く考え込む。

「……では先行するライラだけでいい。かけてやってくれるか」

「了解」

 次の瞬間、ライラの周囲に薄く光が広がり、透明な膜のように彼女を包み込んだ。

「……ほんと、便利よねそれ」

「便利っていうか、先の備えというかなんというか」

 小さく笑い合いながら、再び前進を開始する。

  

 その後、いくつかのトラップを慎重に回避しながら進み、四人は無事に四十七階層へと降り立つ。だがそこもまた、以前とは様子が違っていた。地形も、空気も、出現する魔物さえも。

 変化を一つ一つ記録しながら進むが、道中にはトラップが点在しており、進行速度は明らかに落ちていく。

 ようやく安地へ辿り着いた頃には、全員気を張っていた分疲労が溜まっていた。今日はここまでだ。

 

 各自野営の設営を整えたあと、焚き火の前でユリウスが口を開く。

「厄介だな。ここまで変化しているとなると、平均的な中級冒険者では太刀打ちできないだろう」

「一応、私も中級冒険者なんだけど?」

 ライラが笑いながら言うと、リュカはあっさりと首を振る。

「ライラは上級パーティから呼ばれてるんだろ。どう考えても平均より上だ」

 セラフィナとユリウスも同意するように頷く。

「……私も中級冒険者……」

 ぽつりと呟くセラフィナに、リュカは自然な口調で続けた。

「セラフィナも上級並だと思うけどな。むしろ今まで中級だったのが不思議なくらいだ」

「……ずっと単独でやってたから」

 小さく俯く声。

「あぁ、なるほど。上級昇格にはパーティでの活動実績が必要だからな」

 ユリウスが納得したように頷く。

「じゃあさ、この調査終わったら上級試験受けられるんじゃない?私たち、結構いいパーティだと思うんだよね」

 ライラの言葉に、リュカとユリウスも迷いなく頷いた。

 

 セラフィナだけが、少し遅れてその意味を噛みしめる。

 “私たち”――

 その言葉が胸の奥でゆっくりと広がっていく。理解した瞬間、頬がじわりと熱を帯びた。

 ふと、視線がリュカへ向く。焚き火の向こうで、他愛もない会話に笑っているその横顔。

 そのまま、セラフィナは小さく息を吐いた。誰にも気づかれないように視線を落とす。けれど、胸の内側だけが静かに温かい。

 焚き火の火がぱちりと音を立てる。

 他愛のない会話が続く中、その温もりは消えることなく、夜の中でそっと灯り続けていた。

そろそろ日常に戻りたい…

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