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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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15話後編 情報整理

 焚き火の炎が、静かに揺れている。

 ユリウスは一度視線を巡らせると、小さく息を整えた。

「では、ここまで整理したことをまとめる」

 その声音は落ち着いていて、自然と三人の意識が集まる。

 

「ダンジョン内で異常な魔力が検知されたこと。それは四十五階層にフロアボスが誕生した可能性を示す。それに伴い、上層および下層を含めた大規模なダンジョンの再編成が起きている」

 

 焚き火の光が、ユリウスの横顔を照らす。

 

「明日からはこれを前提として調査を進める。期間は最長で五日。その後は一度ギルドへ報告。……要請があれば、準備を整えた上でもう一度潜る」

 

 話し終えると、わずかに肩の力を抜いた。

「他に何かあるなら言って欲しい」

 ユリウスが三人を見渡す。

「うーん……」

 ライラが腕を組みながら空を見上げる。

「随分長期の依頼になりそうね」

「まぁそこは仕方ないだろ」

 リュカが軽く笑う。

「ここまで潜れる冒険者も、そう多くないってのもあるしな」

「そうなんだけどさぁ……」

 ライラはちらりとユリウスを見て、にやりと笑った。

「ユリウス、絶対研究所から依頼料の大幅な上乗せ、ぶんどって来てよね」

「……あぁ、わかった」

 苦笑しながらも、ユリウスはしっかりと頷いた。

 そのやり取りに、小さな笑いが生まれる。

 張り詰めていた空気が、少しだけほどけた。

 

 ユリウスはそのまま、静かにセラフィナへ視線を向けた。

「セラフィナ」

 呼ばれて、彼女はゆっくりと顔を上げる。

「今いるこの階層では、何か感じるか?」

 セラフィナは少し目を閉じ、意識を内側へと向ける。

 静かな時間が流れる。

「……少し、ざわざわしてる」

 慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。

「でも……四十階層の時みたいに、強い異音とかがあるわけじゃない」

「そうか」

 ユリウスは短く頷いた。

「無理をさせたいわけではない。しんどくなったら、すぐ言ってくれ」

 そう言って、軽くリュカの肩に手を置く。

「今このパーティには、優秀なヒーラーがいるからな」

「ユリウス……お前もそれかよ」

 リュカが苦笑する。

「まぁいいけど」

 その言葉に、セラフィナがふっと小さく笑った。

「……うん、わかった」

 その声は、どこか柔らかい。

 やがて見張りの話になり、配置が決まる。

 前半はユリウスとライラ、後半はリュカとセラフィナ。

 四刻交代。

 全員がそれぞれ頷き、夜はゆっくりと更けていった。

 

 ――後半の見張り。

 焚き火の前に、二人並んで座っている。

 セラフィナは珍しくフードを外していた。

 ゆっくりと湯気の立つ茶を口に運ぶ姿は、どこか無防備で、静かな時間に溶け込んでいる。 

 リュカは何となく、その横顔に視線を向けていた。

 整った輪郭、柔らかなまつ毛、火の光に揺れる赤い瞳。

 こんなふうに落ち着いた表情を見るのは、初めてなんじゃないだろうかと、ふと思う。

 視線に気づいたのか、セラフィナが小さく首を傾げた。

「……なに」

「いや」

 リュカは少しだけ笑う。

「最初の頃と比べて、表情が柔らかくなったなと思ってさ」

「……そう?」

 セラフィナは不思議そうに顔を傾ける。

 自覚がないらしい。

「ははっ、やっぱり気づいてないか」

 肩をすくめて、穏やかに続ける。

 

「今の方がいいよ。可愛くて」

 

 その一言で、時間が止まったようだった。

 セラフィナの目がわずかに見開かれ、次の瞬間、みるみるうちに頬が赤くなる。

 慌てて視線を逸らし、手に持っていたコップをじっと見つめる。

 何も言えない。ただ、鼓動だけがやけに大きく響く。

 リュカはそんな様子を見て、少しだけ楽しそうに笑った。

 無理に言葉を重ねることはしない。

 ただ、静かな空気がそこにあった。

 

 少しして、リュカがふと思い出したように口を開いた。

「……そうだ、ちょっと考えてたんだけど」

 視線は焚き火へ向けたまま。

「セラフィナの魔力のこと」

「私の……?」

 セラフィナはゆっくり顔を上げる。

「うん」

 リュカは静かに続けた。

「魔力が高すぎて、ダンジョンの魔力と親和性が高い。だから異常を感知してるんじゃないかって、仮定しただろ」

 言葉を選んでいるような仕草でリュカは顎に手を当てる。

「それをちゃんと調べるというか……本当の原因を知っておいた方がいいと思うんだ」

「本当の……原因……」

 その言葉が、胸の奥に落ちる。

 セラフィナは少し考えるように目を伏せた。今まで考えたことのなかった可能性。

「原因が分かれば、魔力暴走にも怯えなくてよくなるだろ」

 リュカの声は、どこまでも自然だった。

「原因が分かるまで、付き合うからさ」

「俺がいれば、何があっても抑えられるし」

 当たり前のように言うその言葉は、強くもなく、軽くもなく、ただまっすぐだった。

 セラフィナはしばらく黙っていた。

 胸の奥で、何かがゆっくりほどけていくのを感じながら。

「……私」

 言葉を探す。

「自分が……ちゃんと魔力制御できてないからだって……ずっと思ってた」

「他に原因があるかもしれないなんて……考えたことなかった」

 ゆっくりと顔を上げる。

「……本当にいいの?……一緒に……」

 声が震えて最後まで言い切れない。

 迷うことなく、穏やかにリュカは安心させるように笑った。

 

「もちろん」

 

 それだけで、十分だった。

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

(この人は、いつも……)

 言葉にならない想いが浮かぶ。

(私が欲しい言葉を、くれる)

 セラフィナは小さく笑った。今にも泣きそうな顔で、それでも確かに笑っていた。

「……ほんとに、ありがとう……」

 その声は、夜の静けさに溶けていく。焚き火の火が静かに揺れる。やがて空の色がゆっくりと変わり始め、長い夜が終わり朝が訪れようとしていた。

主人公は無自覚たらし。

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