15話中編 情報整理
ちょっと早めに投稿します。説明回。
焚き火の火が、静かに揺れている。
先ほどまでの緩んだ空気は残しながらも、四人の表情はどこか引き締まり始めていた。
ユリウスが火を見つめたまま、ゆっくりと口を開く。
「では最後に、これまでの異変について、各自の意見を聞きたい。些細なことでも構わない。気になったことを、順に話してほしい」
その声は落ち着いているが、どこか探るような響きがあった。
最初に口を開いたのはライラだった。
「そうねぇ……」
少し考えるように視線を上げ、それから指折り数えるように続ける。
「四十階層あたりから、モンスターの傾向が変わってたよね。それに地形も。それまではある程度、階層ごとの“らしさ”があったのに、あそこから急に混ざり始めた感じ」
焚き火の向こうでリュカが頷く。
「確かに」
ライラはさらに続けた。
「今のところ、一番変化が大きかったのは四十五階層。地形もモンスターも、あそこが一番おかしかった。……まるで別の場所みたいだったしね」
焚き火の向こうを見つめながら、リュカが思い出すように言う。
「その前の40階層の中ボスも変わってたな。マンティコアだったはずのやつが、ドラコリスクに変わってた……単純に難易度が上がってる感じだ。あれは偶然じゃないと思う」
リュカが少しだけ目を細める。
「段階を踏んでるっていうより、“跳ね上がった”みたいな」
「……ああ」
ユリウスが静かに頷く。
「その前、三十五階層あたりから、逆に静かすぎる気もしていた。妙に魔物の気配が薄かったな。あれも今思えば違和感だ」
「それな!嵐の前の静けさってやつ?」
少しだけ軽い空気が戻る。その流れで、ライラが思い出したように言った。
「あ、二十九階層のスケルトンの大量発生もあったよね。普通あんなに群れないでしょ、あいつら」
「……確かに」
リュカが小さく頷いた。
そのまま何かを思い出したように、視線をセラフィナへ向ける。
「セラフィナ」
優しく呼びかける。
「四十階層より前で、何か気になったことなかったか?……三十階層くらいまではほぼ駆け足で降りてきたから、あまり細かくは見てなかったけど……」
一度言葉を切り、少しだけ考えるように続ける。
「四十階層の前にも、魔力が乱れてた時あったよな」
その言葉に、セラフィナがゆっくりと顔を上げた。そして少し迷うように視線を落とし、小さな声で言葉を選ぶように話し始める。
「……あの時……魔力暴走が起きる前みたいな感じだった……三十一階層に降りてから……」
焚き火の火が揺れる。
「リュカが落ち着かせてくれたから、治まったけど………ずっと、ザワザワするというか……」
言葉が詰まる。うまく表現できないもどかしさがそのまま声に滲む。
「どう言っていいか、分からない……ごめんなさい」
「謝る必要はない」
すぐにユリウスが穏やかに言った。
「その時点では、まだセラフィナの魔力感知について仮説も立てていなかった。分からないのは当然だ」
その言葉に、セラフィナがわずかに顔を上げる。ユリウスは思考を整理するように続けた。
「現時点での前提をひとつ置こう。異変の影響は、四十五階層を中心に広範囲に及んでいると仮定する」
指先で地面に軽く線を引くような仕草をする。
「セラフィナの魔力暴走が最初に起きたのは四十五階層、次が四十階層だ。……つまり中心から外側へ、影響が広がっている可能性がある」
「……なるほどな。ダンジョン内で急激な変化があった場所、って考えれば…その変化の時に発生した異常な魔力に、セラフィナが反応した……ってことか」
「そうだ」
ユリウスは短く肯定する。
「変化が起きるということは、それだけ膨大な魔力が動いている。本来四十五階層に現れるはずのないオルトロスがいたことが、その証左だろう」
焚き火の火がぱちりと弾ける。
「これまでダンジョンには、十階層、三十階層、六十階層にフロアボスが存在し、それが昇級の目安とされていたが……」
そこで一度言葉を切り、リュカを見る。
「リュカが言っていたな。“ダンジョンのランクが変わった”と」
「ああ」
リュカは静かに頷く。
ユリウスはその言葉を引き継ぐ。
「四十五階層にもフロアボスが誕生したと仮定する。そこを中心に、ダンジョン全体の構図が一変している……と考えれば、これまでの異変はある程度説明がつく」
「……じゃあさ」
ライラが顎に手を当てながら口を開く。
「二十九階層のスケルトンの大量発生は?……そこも繋がるのかしら」
ユリウスは少し考えるように目を伏せ、それから答えた。
「現在も変化し続けている下層の魔力にあてられて、集まっていたと考えるのが自然だろう。……魔力の流れに引き寄せられた、あるいは活性化されたか……。もう一度二十九階層に行けば、多少は落ち着いている可能性もある」
「なるほどねぇ……」
ライラが小さく頷く。
「じゃあ確認のために、もう一回潜り直しとかもアリ?」
少し軽い調子で言うが、その目は真剣だ。ユリウスはすぐに首を横に振った。
「それは、四十六階層以下の調査が一段落してからだな。ギルドへの報告も必要になる。…順序を間違えると、全体の判断を誤る可能性がある」
「それもそうね。了解」
ライラが軽く頷く。セラフィナも小さく頷いた。
焚き火の炎が、静かに揺れ続ける。断片だった情報が、少しずつ形を持ち始めていた。
四人の視線が、無意識のうちにダンジョンのさらに奥へと向いていた。
少しづつまとまってきた。




