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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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14話 休息時間、男達の話

「わ、ご飯できてるじゃん!ありがとー」

 テントの入口から顔を出したライラが明るい声を上げた。その後ろからセラフィナも姿を見せる。湯上がりの二人はどこか空気が柔らかく、ついさっきまでダンジョンの奥深くで戦っていたとは思えないほど穏やかな表情をしていた。

 リュカが鍋をかき混ぜながら振り返る。

「ちょうどできたとこだよ」

 ライラは満足そうに頷きながら、二人の前にしゃがみこんだ。

「あんた達も行ってきなよ。ついでに服洗ってきたら乾かしたげるから」

「……え、そこまで?」

「いいからいいから。あ、石鹸、中に置いてあるから使っていいよ!先食べちゃうけどいいよね?」

 そう言うとライラとセラフィナは焚き火の前に座り、炊き出しを椀によそい始めた。

 二人の様子を見ながら、リュカは少し肩をすくめる。

「……行くか……」

 ユリウスも小さく頷いた。

「……そうだな……」

 二人は立ち上がり、テントの中へ入っていく。

 

 中に入ると、湯気がふわりと漂っていた。さっと服を脱ぎ、簡単に身体を洗う。言われた通り服も軽く洗って、端に置く。それから湯船に足を入れた瞬間だった。

 二人とも同時に息を吐いた。

「……これは……ものすごく良いな」

 ユリウスが思わずそう漏らす。リュカも肩まで浸かりながら天井を見上げた。

「いやほんとにな……ヤバい……疲れが溶けるわ……」

 ダンジョンのど真ん中で風呂に入るなんて、そんな状況は普通ならあり得ない。だが今は、その非常識さすらどうでもよく思えるほど心地よかった。

 

 静かな湯気の中で、二人はしばらく何も言わず湯に身を任せていた。戦闘で張り詰めていた身体がゆっくりと緩んでいく。

 やがてユリウスがふと口を開いた。

「……そういえばリュカ、聞きたいことがあるんだが」

「んー?」

 リュカの返事は、ひどく気の抜けたものだった。完全にくつろぎきっている。

 ユリウスは少し迷ってから言う。

 

「君は、アストレア王国出身なのか?」

 

 その言葉に、リュカの目がわずかに開いた。わずかな沈黙の後小さく息を吐くと、リュカは目を閉じて湯船の縁にもたれかかる。

「……まぁ……別に隠すことでもないか」

 目を閉じたまま、ぽつりと呟いた。

「よく気づいたなぁ……」

 ユリウスは少し気まずそうな顔をする。

「いや……なんとなくだが。戦術の本に書かれていたアストレア王国の戦い方に似ている気がしてな」

 リュカは静かに湯の表面を見つめ、その言葉にリュカは小さく笑った。

 

「……俺にはあの国は合ってなかった」

 

短い言葉だった。それ以上は多く語らない。だが、それだけで十分だった。

 リュカは苦笑しながら手を伸ばし、隣に座るユリウスの肩を手の甲で軽く叩いた。

 

「だからここで冒険者やってる。それだけだよ」

 

 少しの沈黙が落ちる。その時ふと思い出したようにリュカが口を開いた。

「それよりユリウス」

「ん?なんだ」

 

「お前、冒険者なんかやってるけど……どっか良いとこの貴族の坊っちゃんだろ」

 

 その瞬間、ユリウスの肩がびくりと揺れた。

「……! え……いや……そ、それは……」

 あまりにも分かりやすく狼狽える。リュカはその様子を見て笑った。

「所作も言葉遣いも……立ち振る舞い方って言うのか?それがもう上に立つ人間のそれなんだよなぁ」

 ユリウスは視線を落とす。

「……そうか……そんなことで分かってしまうものなのか……」

 落ち込んだように俯く姿を見て、リュカは声を上げて笑った。

 

「ユリウス、めちゃくちゃ頭良いのに馬鹿なんだな」

「なっ……」

「俺は言うなれば他所もんだぞ?」

 肩をすくめる。

「お前がこの国のえらいとこのボンボンだとしても関係ない……ただの冒険者仲間だよ」

 その言葉に、ユリウスが顔を上げた。驚いたような、それでいてどこかほっとしたような表情だった。

「……そうか」

 小さく笑う。

「そうだな」

 しばらくして、ぽつりと言った。

「お前はいいやつなんだな、リュカ」

「え? 今頃気づいたのかよ」

 思わず吹き出してしまう。

「遅すぎるだろ」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 それからもしばらく、どうでもいいような雑談が続いた。ダンジョンの話、戦闘の話、ギルドの話。気づけば、時間が思っていたよりも過ぎていた。

 

 湯船から上がる頃には、二人とも少し顔が赤くなっていた。テントの外へ出た瞬間、ライラが腕を組んで立っている。

「……長風呂しすぎ」

 呆れた声だった。リュカはふらりとよろめく。

「……ちょっと……のぼせた……」

 その様子を見て、焚き火の前に座っていたセラフィナが思わず目を瞬かせる。

 顔を赤くしてふらふらしているリュカ。戦闘の時はあんなに落ち着いているのに、今は少し情けない。

 その姿を見て、セラフィナの口元が小さく緩んだ。

――リュカも、こんな風になることあるんだ……

 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。

 焚き火の火が静かに揺れている。四人の夜は、まだゆっくりと続いていた。

ユリウスは実は可愛いヤツです。

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