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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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13話 休息時間、女の子の話

セラフィナ視点寄りです。

 四十五階層での戦闘を終え、四人は下層へ続く入口を見つけていた。

 慎重に降りた先は、第四十六階層。

 足を踏み入れた瞬間、セラフィナはわずかに眉を寄せた。

 見慣れたはずのダンジョンの空気が、ほんの少しだけ違う。石の配置、壁の崩れ方、足元の地形。大きく変わったわけではないのに、どこか歪んでいるような感覚がある。

 現れるモンスターも、今までの階層とは少し様子が違っていた。数は多くないが、明らかに種類が変わっている。

 それを確認しながら慎重に進んでいくと、やがて広い空間に出た。

 中央には古びた転送陣。周囲にはモンスターの気配がない。ライラが周囲を一周して戻ってくる。

「……うん、転送陣もあるし、ここ安全地帯っぽいね。モンスター寄り付いてない」

 その言葉にユリウスが頷いた。

「今日はここで野営にしよう」

 

 四人は手際よく準備を始めた。簡易テントを設営し、荷物を整理し、火を起こす。ダンジョンでの野営は慣れているが、今日の調査はさすがに消耗が大きかった。

 そんな中、突然ライラが立ち上がった。

「……もう限界だわ」

 深刻な顔でそう言う。リュカが不思議そうな顔でライラを見た。

「え、何が?」

 ライラは拳を握りしめた。

「どうしてもアレを作りたい……!!」

「アレって?」

 リュカの問いに、ライラの目がきらりと光った。

「せっかく四属性魔法に光魔法が揃ってるのよ!?作るって言ったらあれしかないでしょ!!」

 三人はぽかんと口が開いてしまう。そしてライラは声高らかに宣言した。


「お風呂よ!!」


 一瞬静まり返り、その直後、三人の顔に同時に驚きが浮かぶ。

 だが勢いに押される形で、なぜかお風呂作りが始まってしまった。

 ライラが土魔法で地形を整え、広い窪地を作る。ユリウスが水魔法でそこへ水を溜め、リュカが浄化魔法をかけていく。セラフィナが火魔法で水を温めると、湯気がゆっくりと立ち上り始めた。

 最後に、リュカが持っていた大きめのテントを周囲に張る。簡易診療所用のものだが、目隠しとしては十分だった。

 完成した瞬間、ライラの顔がぱっと輝く。

「出来た……出来たわ!!」

 そして勢いよく振り向いた。

「セラフィナ!入るわよ!!あんた達は後よ後!!」

 鬼気迫る勢いに押され、セラフィナはそのままライラについて行く。

 テントの中へ消えていく二人を見送りながら、リュカがぽつりと呟いた。

「……なんか……言われるがまま作っちゃったな……」

 ユリウスも少し苦笑する。

「……こういう時、女性陣には逆らわない方がいいと聞くぞ」

「そっかぁ……」

 しばらく沈黙が流れた。リュカが立ち上がる。

「……炊き出しでも作るか……」

ユリウスが頷いた。

 

 ――一方、テントの中。

 そこには露天風呂のような湯船が広がっていた。五、六人は余裕で入れそうな広さだ。湯気がゆらゆらと揺れている。

 ライラは迷いなく服を脱ぎ捨てると、さっさと身体を洗い始めた。

「ほら、セラフィナも。石鹸使っていいよ!」

 セラフィナは少し戸惑いながら頷いた。ゆっくりと服を脱ぎ、タオルを身体に巻く。恐る恐る石鹸を手に取り、身体を洗い始めた。ついでに服も軽く洗う。

 そのまま湯船へ足を入れると、温かい感触が足先からゆっくり広がっていった。

 二人は湯の中に腰を下ろす。

 ライラはセラフィナに触れないよう、わざと一人分の距離を空けて座っていた。

「……っあー……染みるぅ……」

 思いきり伸びをする。

「やっぱり浄化魔法だけじゃスッキリしないのよねぇ」

 セラフィナは湯に肩まで浸かりながら、ぼんやりと湯気を見つめていた。 

「……ダンジョンでお風呂入るなんて……考えたことなかった」

 いつもどこか張り詰めている表情が、少しだけ柔らいでいる。それを見て、ライラが楽しそうに笑った。

「ねー、あんまりやんないんだけどね。でもさ、せっかくみんな揃ってるし、絶対やらなきゃって使命感出ちゃったわ」

 

 湯気の中で、しばらく静かな時間が流れる。やがてライラがセラフィナを見て言った。

「ずっと思ってたんだけどぉ」

 セラフィナが顔を上げる。

「セラフィナってさ、めっちゃ可愛いよねぇ」

「……? え!?」

 思わず声が裏返る。ライラはくすっと笑った。

「私こう見えて可愛いもの好きでね。この調査始まってからずーっとセラフィナと仲良くなりたいなって思ってたんだぁ」

 セラフィナは少し俯く。耳がほんのり赤い。

 

「……ライラも……キレイ……だよ?」

 

 小さな声で言う。セラフィナから初めて名前を呼ばれた事にも気づいたライラは楽しそうに笑った。

「ははっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん!」

 少し身を乗り出す。

「で、もっと仲良くしてくれる?」

 セラフィナは少しだけ迷ってから、小さく頷いた。

――なんか……お姉さんってこんな感じなのかな……

 不思議と、胸のあたりがぽかぽかする。

 ライラが嬉しそうに笑った。

「やったね!調査終わったら一緒に甘味処いこう!楽しみぃ」

 そのあともしばらく、二人は他愛のない話を続けた。のぼせる前に上がり、服を風魔法で乾かして着替える。

 テントの外へ出ると、ダンジョンの冷たい空気が少しだけ気持ちよく感じられた。

勢いのライラ姐さん。

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