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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
終章 エピローグ
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119話 先生とリュカ

 リュカとセラフィナが席に着き、注文した飲み物が運ばれて来る。

 リュカはエール、セラフィナはシードルだ。

 二人はグラスを合わせ、正面に座る笑顔のローランドに向かってグラスを小さく掲げた。

 

「ダンジョン調査お疲れさん。アルバの我儘に付き合って貰ってありがとなぁ。あいつには幼い頃からずっと我慢ばっかり強いてたから、つい甘くなっちまうんだ」

「いえ、故郷想いの良い娘さんだと思いますよ。こちらこそ未知のダンジョン調査は久しぶりだったんで楽しかったです」

「ははっ……そうか。お前もすっかり冒険者なんだなぁ。しかも上級冒険者だろ?」

「そうですね。仲間に恵まれて何とかやってます」

「そっちのお嬢さんも……セラフィナだったか?上級冒険者とか凄いなぁ。アルバと歳変わんないだろ?」

 話を振られたセラフィナは小さく頷いた。

「でもアルバはやりたい事たくさんで凄いなって。仕事熱心ですよね」

「そうなんだよなぁ。まだまだ立て直しの最中だから理想は幾らあっても良いんだが。少し張り切り過ぎてて親としては心配だよ」

「無理すると倒れちゃいますからねぇ……」

「本人も嫁さんと同じで薬師として体調管理とかは気にしてるみたいだけどなぁ。師匠である嫁さんの言うことなら聞くだろうから、まぁ大丈夫かと思ってる」


 ローランドはジョッキに残ったエールを一気に飲み干すと、酒場の店主におかわりを注文していた。

「そういや話は変わるが、あの四角い魔導具ってお前ら全員持ってるんだってな」

「あ、そうです。まだ試作品の段階なんで、色々検証してくれって言われてて」

「これが実用化すると伝書鳥よりも汎用性高いよなぁ。グレイスロウの研究所は凄い人がいるもんだ」

「……ちょっと変わってますけどね、めちゃくちゃ優秀なエルフの方です」

「ダンジョンと地上では使えないのか?」

 

「まだ使えないんですけど、いずれそれもどうにかしたいって言ってました。伝書鳥は地上でしか使えなかった物ですけど、この魔導具はダンジョンに潜ってる同士だと使用出来る事が分かったので、凄い魔導具ですよ。今回の調査もこれのお陰でめちゃくちゃ早く進んだし……」

 

「そうか……そんな魔導具を……。大事に使わせてもらうよ」

「はい。是非」

「グランスロット家の領主代理にもよろしく言っておいてくれな」

「はい」

 店主が持ってきたジョッキを小さく掲げ、ローランドはエールを思いっきりあおって喉へと流し込んだ。


「……リュカ、俺はなぁ、お前がお前を大事にしてくれる人達に囲まれてて、心底安心したよ」


「安心……ですか?」


「旧アストレアは戦争ばかりしていたろ?戦争孤児だって他所の国に比べたら多くて、お前が幼い頃からずっと未来ある子供達を搾取していた。それが当たり前で育ってしまったお前が、こうやって、穏やかに過ごせてるのが……嬉しかった」


「……先生……」


「俺がリュカに教えた事なんてたかが知れてるのに、俺の教えた事が“原点”だって、そう言ってくれたのが嬉しかったんだ」

 

 視線を机に落としたローランドはどこか泣きそうな顔で笑っていた。しばらく沈黙がその場に流れ、不意に彼は顔を上げた。

「それに、こんな綺麗なお嬢さんとなぁ……お前やるなぁ……まぁ、うちの嫁さんも綺麗なんだけど!」

「そういえば先生の奥さんには会ったこと無いですね」

「表には全然出てこないんだけどな、薬師としてずっと医療班を支えてくれてたんだぞ」

「そうだったんですね……」

 

 スっと視線をセラフィナへ移したローランドは優しい笑みを浮かべていた。

 

「……なぁセラフィナ、リュカは良い男だろ?昔から、ずっと変わら無いんだ。優しくて真面目で真っ直ぐで。オマケに面も良い!リュカと一緒に居てくれて、ありがとうなぁ……」

 

「……はい。リュカとずっと一緒に居るって、約束、したんで」

 

「そうかそうか……そうか……っ…………」

 ローランドは涙が溢れた顔を隠すように、片手で覆った。

 

「……四十も超えると涙腺が馬鹿になっていけねぇなぁ……良いお嬢さんだなぁ……リュカ……良かったなぁ……」

「先生……」

 

 しんみりとした空気を割くように、店主がリュカとセラフィナに飲み物の追加を持ってきて机へ置いた。

「ったくローリーは酒弱ぇってのに飛ばしすぎだぞ」

「うるせぇ……酔ってねぇから」

「酔っ払いは皆同じ事言ってら」

「良いんだよ!嬉しい事があったら酒場で飲んでなんぼだろうが」

「へいへい。毎度ありぃ。兄ちゃんと嬢ちゃんもデート中だったんだろ?おっさんの絡みは無視してて良いんだぞ」

「リュカはそんな薄情な人間じゃねーよ!」

「はっはっはっ!!分かった分かった!悪ぃけどおっさんにもうちょい付き合ってやってな!お詫びでこれオマケだ。甘い物食えるだろ?」

「あ、ありがとうございます」

 店主が置いた皿には黄色い芋だろうか、それが一口大に切られて、揚げた物のようだ。周りにはツヤツヤの飴が絡んでいて、甘い香りが漂っていた。リュカはそれを一つ、口に放り込んだ。 

「……!美味っ!これマジで芋?甘いしデザートみたいだ」

「ホントだ……美味しいね」

「普通ならおかずにする物を甘味にするなんて……」

 二人は初めての甘味に感動して口元を綻ばせていた。


「その芋な、やせ地でも育つって言うんで作付けしてみたものでな。それが随分上手いこと育ってくれてなぁ。たくさん採れるし腹も膨れるし、甘みがあって美味いから皆から好評だったんだ」 

「へぇ、それは良いですね!芋類は保存が効くし」

「そうなんだよなぁ。他の物も色々試してる最中なんだ。それと————」

 

 ローランドとの思いがけない飲み会は、他愛もない話からこういった現在のアストレアの現状の話まで、月が高く昇る頃まで続いた。最後にはベロベロに酔っ払ったローランドを家に送り届ける事になった。


 その時に初めて会ったローランドの奥方はアルバによく似た顔立ちで、青緑の長い髪を一つに結んで白衣を羽織っている、優しそうな女性で、ヒルダと名乗った。

 泥酔したまま眠ってしまったローランドをソファに転がすとリュカへ向けて深く頭を下げた。

 

「今まで、このクソみたいだった国の民の為に尽力してくれた“アストレアの英雄”に、深く感謝を」


「……止めてください、感謝される事なんて何も……」

 

「いいえ、これまでの国の在り方が異常だったのだと、革命を起こした民衆は理解しているの。貴方が救った命が、次世代に繋いだ命が前を向けるのは、貴方がそうやって何気なくやって来た事の積み重ねだから。革命軍の兵士達の中にも、貴方に救って貰った人が沢山いるわ」


 困惑しているリュカを見て、ヒルダは眉を下げて笑うと、リュカをそっと抱き締めた。


「二度とこんな所に帰りたくなかっただろうに……アストレアまで来てくれてありがとうね……。あの人も、ようやく救われたから。アルバと変わらない歳の子に酷い仕打ちをして本当にごめんなさい……」


「いえ……先生にも、たくさん謝罪を頂きました。先生のお陰で、今の俺が有るのには変わりないので……」


「……本当に、貴方は根っからいい子なのね……あの人が可愛がってたのが良く分かるわ……」


 ヒルダはリュカの背中をポンポンと幼子をあやす様に叩き、滞在中にまた家に来てね、と笑顔で見送られた。

 


 ローランドと飲んだ夜から、リュカは毎日のように彼と話す機会を作っていた。リュカが作っていたというよりは、周りが機会を作ってくれていた、と言った方が正しい。

 ある時はユリウスと三人で、ある時は更にレンティスを交えて四人で、ローランドの側近達やアルバと一緒の事もあった。もちろん二人でサシ飲みをする事もある。

 その中で、自分がアストレアを離れてからの出来事や、グランスロット家との出会い、養子になった経緯等も少しずつ話していく。

 ローランドも、リュカが離脱してからの聖白騎士団の内情や、前団長の処分について、クーデターを起こすきっかけになったグランスロット家の影との接触。

 今までの空白を埋めていくように、二人は色々な話をしていった。

 

 穏やかに、緩やかに、アストレアでの時間はすぎていくが、その中で、レンティスによる警備兵候補への地獄の訓練にユリウスと共に巻き込まれ、革命軍の兵士達と共に地面に転がる事になるのはまた別の話である。

 この訓練により、ローランドはエルドリア王国だけは絶対に敵に回してはダメだと悟る事となった。


 そして、新生アストレア王国へ到着してから一ヶ月が経ち、とうとうエルドリアに向けて帰る日がやって来た。

 ルクシアの郊外にある、最初に飛竜で降り立った場所へと一行は集まっていた。現在はレンティスとローランドが話をしている。

「長期に渡っての滞在を許可してくださってありがとうございます。総司令官殿」

「いや、こちらこそ要人に大したもてなしも出来なくてすまなかったな」

「とんでもないですよ。では、何かあればいつでもご連絡ください」

「あぁ……そうさせて貰うよ」

 そう言って二人は握手を交わす。


 ローランドはそのままリュカの方へ歩み寄ると、リュカの肩に手を置いた。

「元気でやれよ」

「ヒルダさんに怒られるんで先生も飲み過ぎないでくださいね」

「嫁さんの話は良いんだよ……ったく。相変わらず生意気な奴だな、お前は」

「俺結構素直だと思いますよ」

「ははっ!違いねーな!……じゃあまた、連絡入れるからな」

「はい。何時でも……って言ってもダンジョン潜ってたら連絡つかないんで、それはすみません」

「おぅ、そんときゃそん時だ。グレイスロウからは離れちゃいるが、いつでも遊びに来てくれ。そん時はもうちょっと、マシな国になってるはずだから」

「はい。……先生も、いつかグレイスロウにも来てくださいね。ヒルダさん連れて」

 

「そうだなぁ……お前がセラフィナと式でも挙げんのなら末席にでも座らせてもらうよ。それか孫でも産まれたらか?」

 

 その言葉にリュカは目を丸くして一拍置くとみるみる顔が赤くなってしまう。片手で顔を覆うとポツリと呟いた。

「いや……それはまだ早いです……」

「はっはっはっ!!なんだぁ?今更照れんなよ」

「それとこれは話が別ですよ……」

「そうかそうか!んじゃ先の楽しみに待ってるな!」

 バンバンと肩を叩くと豪快に笑い、一歩後ろに下がる。

「気をつけて帰れよ」

「はい」


 それぞれ背中へと飛び乗ると、三体の飛竜は羽ばたきあっという間に空へと飛び去っていく。


 ローランドはそれを眩しそうに、姿が見えなくなるまで眺めていた。

気の良い親戚のオジサンになる先生。

ヒルダから、母に抱き締められる愛情表現を貰う。

アストレア訪問はリュカにとっても先生達にとっても救済と未来の成長へと繋がっていきました。


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