117話 アルバからの依頼
遅い昼食を食べ終え、リュカ達はアルバと随分と打ち解けた。特にライラの面倒見の良さがアルバにも効いたようで、すっかりライラに懐いているようにも見える。
そしてアルバからグレイスロウのダンジョンについてや、ギルドの制度、冒険者の魔法の使い方等たくさんの質問がリュカ達に飛んで来ていた。
一番詳しいユリウスが主に答えていたが、時々リュカ達に向けても質問があり、それに丁寧に答えていく。その都度アルバは熱心にメモを取り、色んな事を考えていっているようだ。
「なるほど……かつて騎士団所属の者でもいけるかも……」
「女性でも、戦闘が苦手でもこれなら雇用の機会も出来る……」
「そうか……鑑定魔法も…風魔法だってそんな使い方が……」
「あぁ、確かに光魔法使いや神官はそうか……」
「リーダーが女性のパーティも……」
色々と書き込んではうんうん唸り、頭を抱えている。
しばらくすると顔を上げ、ユリウスの方へ顔を向けた。
「上級冒険者である皆様に不躾なお願いがあるのですが……」
「なんだ?」
「私と一緒にダンジョンへ潜って貰えませんか?」
「えっ?ダンジョンに?」
「アストレアのギルドは殆ど活動していなかったのです。せっかく殆ど開拓されてないダンジョンがいくつかあるんですから、これを活用しない手はありません」
「いや、まぁ、ダンジョンに潜るのも仕事だから、別に構わんが……」
「本当ですか!?ありがとうございます!正式な調査依頼として、グレイスロウギルドの方へ連絡をしておきますので、どうか、お願いします!」
「でもなんでアルバも一緒に潜るの?依頼を出すなら私達に任せて待ってても良いんじゃない?」
ライラが首を傾げながら疑問に思った事を口にした。
「現場での冒険者の方々の視点を知りたいのです!……上級冒険者の皆様の中では私が足手まといになるのは重々承知していますが、自分の目でちゃんと見て、聞いて、触れて、分かる事もあると思うので」
「ふぅん。真面目なのね、アルバは。良いんじゃない?多少動けはするのよね?」
「はい。父や軍隊長程出来るわけではありませんが、武術の心得はあります」
「それならまぁ……潜っても大丈夫かしらね」
「ありがとうございます!可能なら早速、明日からお願い出来ますか?皆様が滞在される時間も限られているので……」
「あぁ、大丈夫だ」
こうしてアストレアにある、未だ殆ど開拓されていないダンジョンへリュカ達は潜ることになった。
司令官庁へ戻ると仕事が終わったレンティスと宛てがわれた部屋で合流し、明日からダンジョン開拓へ乗り出す事を伝える。
「んふふ、それは楽しそうだねぇ!」
「兄さんに確認せず話を進めてすまない」
「構わないよ!当然、僕も一緒に行くからね!せっかくの休暇なんだから皆と遊びたいし」
「一応遊びじゃなくてアルバからの依頼なんですけどね」
「皆は冒険者としての仕事で、僕は勝手に着いて行く人だからいいの」
「一応、ダンジョン内では俺の指示を聞いてくれよ……」
「ダンジョン行くんだから当たり前でしょ。ちゃんとユリウスの指示に従うよ!」
ダンジョンへ行くと聞き、上機嫌なレンティスは備えてあったティーセットでお茶を入れ始めた。
リュカがユリウスへ視線だけ向け小さく頷いた。
「レンティスさんも来るならめっちゃ心強いよな」
「まぁ……それはそうだな。アルバの護衛もしないといけないからなぁ」
「それにしてもあんな嬉しそうにダンジョン行く人初めて見たぞ」
「まぁ……レンティス兄さんからしたら何処に行ってもピクニック感覚なんだろ」
「確かに……」
三人分のティーカップにお茶を準備し終えると、レンティスはソファに腰掛けてカップに口を付けた。
「新規開拓するダンジョンかぁ!どんな感じかなぁ!ホント楽しみだねぇ!あ、二人も飲みなよ」
ニコニコと楽しそうなレンティスに促され、二人はカップを手に取った。
——————
翌日、各々冒険者服に身を包みダンジョン前へ集まっており、荷物の準備も整っていた。
「なるほど……!ダンジョンへはこういった物が役に立つのですね……!」
アルバも今日は士官服ではなく、騎士団の訓練服に軽装の革鎧を身につけており、腰に帯剣をしている。今はライラとセラフィナに魔法鞄の中身を見せてもらっていた。
「軍の遠征の持ち物に近い物もありますが、やはり少し違いますね。補給部隊のやる事も全て自分で持っていかねばならないのか……確かに単独で潜られる事もあるし当然ですよね。勉強になります」
「女性の冒険者だと他にも色々持っていかなきゃだから結構荷物多いのよね」
「そうだね。だから魔法鞄も容量大きめのやつがオススメ。ドロップ品も入れなきゃだし、採集した物も入れなきゃだし」
「うんうん。まぁ浅い層の薬草採取だったら麻袋とかに突っ込んで帰っても良いんだけど、ダンジョンってモンスターが出るから両手は空けときたいのよ」
「それはそうですね!」
楽しそうな女性陣を見守っていたユリウスが声をかけた。
「そろそろ向かいたいが、大丈夫か?」
「あ、はい!すみません。行けます!」
「よし。ならこれから新規開拓するダンジョンへ潜るが、先行はライラ、その後ろから俺、アルバ、兄さん、セラフィナ、リュカの順で進む。戦闘になった場合、俺とリュカが前衛、中衛でライラが周囲の警戒、後衛でセラフィナが援護してくれ。兄さんはとにかくアルバの護衛を頼む」
「うん。了解」
「情報が殆ど無いダンジョンだ。油断せず攻略しよう。違和感があればすぐ共有してくれ」
「「「了解」」」
ユリウスの言葉にリュカ達三人が同時に頷いた。
アルバとレンティスも頷き、六人は未知のダンジョンへと足を踏み入れた。
そこからの調査はスムーズに進んで行く。
どうやら今回入ったダンジョンは森林タイプのダンジョンだった。採取依頼に出されるようなポーションの材料になる薬草や、香辛料等が自生している。
だが下層に進む度、照明を落とすように徐々に薄暗くなっていき、それに伴って気温も下がってきて、採取出来る薬草の種類も変化していた。
出てくるモンスターも上層部は一角うさぎや大ネズミ、コカトリス等新人冒険者でも倒せる食用にもなるモンスターが出現。五階層以降はゴブリンやオーク、キラービー等、森林のダンジョンでよく見かけるものが出現したが、戦闘になってもリュカ達の敵ではなく、前衛だけで全て討伐を終えてしまう。
調査をしながらの攻略だったが、あっという間に十階層まで辿り着いていた。
十階層まで降りると森の景色は一変し、雪が積もっていた。
そこでは雪国で採れる、スノードロップと呼ばれる香料になる貴重な薬草がある事も確認出来た。
だが、出てくるモンスターの難易度が上がっており、ジャックフロストにスノーウルフ、更にスノーベア等中級冒険者でも単独での討伐は難しいとされている大型のモンスターも出現していた。
今日のところは十階層の安全地帯になっていた洞窟で野営をする事になり、各自簡易テントを設営すると、焚き火の前へ集まっていた。
ライラがセラフィナと寄り添いながら座り、ローブの前を握り締めて肩を竦めている。
「うぅっ寒い……ローブだけじゃどうにもなんないわね」
「雪のダンジョンはグレイスロウじゃあまり見かけないタイプのダンジョンだよね……」
レンティスが二人が寒さに震えているのを見て眉を下げて笑って言った。
「エルドリアは比較的温暖な地域だからねぇ。雪なんて標高の高い山の上ぐらいだよ」
リュカも思い当たる事があったのか、小さく頷いている。
「そういやそうだ。グレイスロウじゃ冬になっても街に積もってるの見た事無いわ」
「アストレアは平地でも雪が積もるの?」
「そうですね。冬になると平地でも足首ぐらいまで積もる事もあります……あ、そうだ、少々お待ちください」
アルバが魔法鞄を漁ると白い物を取り出し、ライラとセラフィナへ差し出した。
「お二人共良かったら使ってください」
「これ何?」
「凄いモフモフしてる……」
「山中に生息してるノーザンスノーフォックスの毛皮です。ルクシア周辺にしか出てこない魔物なんですけど繁殖期になると爆発的に増えるので、定期的に駆除しないと農村部に被害が出るんです。でも良質な毛皮が取れるので、ルクシアの特産品でもあるんですよ。寒さ耐性が付いてるので首元に巻くだけでもかなり温かいんです」
「へー、良いの?」
「はい。是非お使いください」
「アルバのは?」
「私はこのぐらいの寒さならまだ平気なので」
「強い……」
「じゃあ遠慮なく……」
毛皮を受け取った二人は早速巻くと、目を丸くして首元を撫でていた。
「めっちゃあったかーい!凄いわね!全然違う!」
「手触りも凄い滑らかでふかふか……!」
「気に入って頂けたなら良かったです」
楽しそうに交流している女性陣を横目に見ながら、リュカ達は炊き出しの準備を始めていた。
「ノーザンスノーフォックスかー。そういやいたな。そんな魔物」
「ってかあれで毛布とか作ったら気持ち良さそうだねぇ」
「何体倒せば作れるんだ……?毛布なんて……」
「二十体ぐらいあればいけそうだけどねぇ……あ、せっかくだし狩りに行っちゃう?」
「いやいや、兄さんなら狩り尽くしてしまいそうだから止めておいて欲しい……」
「流石に生態系の破壊するまで狩らないよぉ」
「狩られる前にレンティスさん見て魔物も逃げ出しそうだな」
「お?リュカもユリウスも喧嘩売ってる?買うけど?」
「「売ってません」」
その後も安全地帯での野営は和やかに過ぎていき、焚き火の火が落ち着くまで笑い声が響いていた。
楽しいダンジョンピクニック(調査)
リュカ達の本業はこっちなので。




