114話 アストレア王国へ
「あー!出発しちゃうっすよ!間に合って良かったぁ!」
「遅くなってごめんね!お土産選ぶの時間かかっちゃった!」
アストレア王国へ旅立つ朝、リュカ達はユリウスの家の方にある飛竜の宿舎前に集まっていた。
お泊まり会でライラの家に行っていたセラフィナ達も合流し、持っていく荷物の確認をしている所へ、レンティスの部下二人が駆け寄ってくる。
ドランとゼノンは、リュカとユリウスに道中で食べて、と両手いっぱいに紙袋を手渡した。
そしてその後ろからひょっこりと顔を出した人物を見て、四人は目を丸くする。そしてライラがポツリと呟いた。
「……ジュダス……?」
そこにいたのは未だ刑罰を受けているはずのジュダス・バジーリオだった。
フェンリスの牢で会った時よりも髪が短くなり、額から右頬にかけて痛々しいぐらいの傷痕が残っている、ヒョウ系獣人がそこに立っていた。
「ライラ姐さん、久しぶり。元気そうで良かった」
「いや……そりゃ元気だけど……何してんの?こんな所で……」
「……まさか……?」
ユリウスがそっとレンティスの方へ視線を向けると、それに気づいたレンティスが腰に左手を乗せてにっこりと笑った。
「んふふ、彼は二ヶ月前から入った僕の新しい部下でーす」
レンティスの言葉に四人は呆気に取られ、驚きすぎて言葉が出てこない。やがて肩を震わせてライラが叫んだ。
「聞いてない……聞いてないわよレンティスさん!!どーいうこと!?」
ライラは勢いよくレンティスに詰め寄ると、半分涙目になりながら胸ぐらを掴んで揺さぶった。
されるがままになって楽しそうに笑っているレンティスはサッとライラの手を取りくるりと回すと優しく背後からライラを抱き締めて髪に頬を寄せた。
「言ってないからねぇ……黙っててごめんね。っていうかジュダスがライラちゃんには言わないでくれって言ってきたから。ほら、説明」
レンティスがジュダスの方へ恨みがましい視線を向けると、ピッと背筋を伸ばしたジュダスが口を開いた。
「レンティス隊長の言う通り、俺が言ったんだ。隊長の下についた事はまだ姐さんには言わないでって」
「何でよ……」
「……まだ顔合わせる自信無かったんだ。姐さんに甘えちゃいそうでさ。俺、あの時隊長が言ってたように運が良かっただけだから。たまたま、命拾いしただけ。それに本来なら死罪でもおかしくなかったのに、運良く罰を受けるだけで済んだ」
ジュダスは自分の顔についた傷跡を撫で、視線を下に落とした。
「それに運良くあの時隊長とも出会えた。隊長が、ファイフ先生に俺が刑期を終えたら連絡してくれってわざわざ声をかけてくれてて、何処へも行くあてのない俺を拾ってくれたんだ」
「えっ……そうだったの?」
「うん……出所してすぐ、どうするか聞かれて。故郷に帰れなくても、再生する機会を与えてくれた姐さんや先生に……間接的でも何か返したかった。だからエルドリアに連れてこられた時、隊長の部下にして欲しいって頼みこんだんだ」
「いや、私は何もしてないわよ……?」
「ううん、フェンリスに、姐さんが来てなかったらヒーラーのアイツも、レンティス隊長も来てなかっただろ?きっと俺はあそこで洗脳されたまま、先生を傷つけた意識に苛まれて絶望の中死んでたよ」
ジュダスは顔を上げて真っ直ぐライラと彼女を抱き締めているレンティスへと視線を向けた。
「だから、俺はこの生かされた命を隊長の為に使うって決めた」
「……ん?レンティスさんの為?」
「うん。隊長の部下になれば、間接的に姐さんも守る事になるだろ?」
「うー……ん?」
「俺の忠誠は全て隊長にあるよ。隊長が守るって決めてるものは、俺も全力で守るってもう決めてる」
「…………ねぇ、レンティスさん、まさか……?」
ライラが恐る恐るレンティスへと顔を向けると、少し困ったように笑うレンティスの顔が見えた。
「うん、なんか、ジュダスは僕を生涯の主と仰いじゃったみたいなんだよね……」
「なんでそんな事に……」
「僕も良く分かんない」
そんな二人をキラキラした瞳で見ながら力強くジュダスは語り出した。
「姐さん、知ってる?レンティス隊長って本当に凄くてさ、先生に鍛えられて俺、強いって自負してたんだけど全然そんな事なくてさ隊長と組手しても一撃も当てられないんだよそれどころか隊長が鍛えた先輩方もめっちゃ強くて本当に隊長の育成能力凄いって思ったし更に仕事対しても誰より動いて処理するし事務能力も長けてるし部下に対しても愛ある指導で本当に凄いんだよマジで俺本当に隊長に出会えて良かったって思うし隊長に出会わせてくれた姐さんにもマジで感謝してるんだだから俺も姐さんを守らなきゃって思ってるよ」
「ジュダス……あんた……」
「レンティス隊長ってとにかくかっこいいし強いし頭良いし視野広いし慈愛の塊だし何でも出来るし騎士団内でもとにかく尊敬されまくってるし陛下だって一目置いてるし完璧過ぎて忠誠誓う以外考えられないだろ?俺マジで今人生で一番充実してるんだよ隊長の訓練を得てようやく少しだけ認めて貰えて仕事振って貰えてさ先輩方と行動する事を許されたから俺頑張ろって思」
「はいジュダス、ストーーーップ!!っすよ!!」
「隊長もライラさんも困ってるから!落ち着いて!」
ドランがジュダスを後ろから押さえつけて口を閉じさせ、ゼノンが焦ったようになだめていた。
「………………元気そうで良かったわ。ジュダス……。レンティスさんありがとね……掴みかかってごめん……」
「んふふ、全然大丈夫。当然の反応だろうなって思ってるから。まぁ……今こんな感じで面倒見てるから安心してね」
「うん……逆に迷惑かけてそうだけど……」
「変なスイッチ入らなければまぁ優秀だよぉ。良い拾い物したから休暇明けからも、もう少しライラちゃんと居れる時間増やせそうで助かる」
「んんっ……そっか……」
ライラとジュダスの再会を見守っていたが、後半のジュダスの勢いに呆気に取られていたリュカ達もようやく我に返った。
ユリウスが軽く咳払いをしてから言った。
「……兄さん、そろそろ出発しようと思うが大丈夫か?」
「ごめんねぇユリウス。遅くなっちゃうから行こっか」
そう言うと、レンティスはそのままライラを抱き上げて飛竜へと飛び乗った。
「あぁ。ドランさんとゼノンさんもわざわざありがとうございます」
「いいんっすよ!弟君も道中気をつけて!」
リュカも小さく頭を下げて礼を言った。
「お土産もたくさんありがとうございました」
「リュカ君も気をつけて!セラフィナちゃん落とすなよ」
「それは大丈夫です。クォーツ、俺より何故かセラフィナに懐いてるんですよね……」
「おぉん……飼い主としてはちょっと寂しいヤツね……」
リュカはチラりとジュダスへと視線を向けた。
「……ジュダスもわざわざ見送りありがとな」
「……おぅ」
リュカ達が全員乗り込むと、飛竜が一斉に飛び立った。
三体の飛竜はあっという間に空へと昇り、アストレア王国のある北西へ向けて進んでいった。
エルドリア王国にある最南東の街グレイスロウから、アストレア王国まで休みなく真っ直ぐ向かっても馬車で二ヶ月以上かかる距離だ。
だが険しい山も、迷ってしまいそうな深い森も、断崖絶壁の間を流れる大きな川さえ飛び越えていける飛竜での旅路は、夜を休みながらゆっくり進んだとしても十日もかからずアストレア王国まで着いてしまった。
空から眺めるアストレア王国は各地でまだまだ戦火の爪痕が残っていて、王都であるルクシアでさえ瓦礫が積まれた箇所がちらほらと見える。
更に城があった場所には延々瓦礫しかなく、そこから外れた場所に新しい建物が軒を連ねていた。
復興支援も各国から多少はされているはずだが、まだまだ国の立て直しには時間がかかると感じられる。
約三年ぶりの故郷の景色を眺め、リュカはポツリと呟いた。
「…………飛竜は本当に速いな」
「そうだね。クォーツ頑張ったから」
「……俺、アストレア王国出身だけど、王都には初めて来たんだ」
「そうなの?」
「あぁ、ずっと辺境に居たからなぁ……もしかしたら覚えてないだけかもしれないけど」
「そっか……不安になった?」
「……なんで?」
「そんな顔してるよ?」
前に座っていたセラフィナがリュカを見上げてそう言った。
リュカは少しだけ目を丸くした後眉を下げてセラフィナへと小さく笑いかける。
「ホント、セラフィナには敵わないなぁ……」
セラフィナを支える為に腹に回していた腕でリュカはギュッと彼女を抱き締めた。
密着した所の温もりに、リュカは肩の力が少し抜ける。
「……リュカ?」
「……大丈夫だ。セラフィナも、みんなもいるしな」
「うん。一緒にいるよ」
「……あぁ。ありがとな……あ、降りるみたいだ」
レンティスから降下の指示が出たのを確認し、三体の飛竜は王都ルクシアの郊外へと降り立った。
そこにいるのは新生アストレア王国の文官だろうか。士官服に身を包み、凛とした立ち姿で青緑の髪色の若い女性が馬車を降りて待っていた。
「エルドリア王国からはるばるありがとうございます。お待ちしておりました。……本人は来たがっていましたが総司令官は予定が詰まっておりまして、代わりにこの不肖アルバがお迎えに上がった次第です。ご了承ください」
アルバの話にレンティスが応えた。
「構わないですよ。会談の予定は?」
「今から二刻後に予定しております。それまで、私がルクシアをご案内いたします。……皆様、中へどうぞ」
アルバが馬車の扉を開けて頭を下げていた。
五人が馬車へ乗り込むと、最後にアルバも乗り込み扉を閉めた。
アルバが合図を出すとゆっくり馬車が進み出す。
六人乗りの大きな馬車から街を眺めていると、アルバがあれこれと説明をしてくれた。
革命軍によって制圧後、上部の建物は取り壊された聖神教教会跡地やその地下にあった研究施設の場所、地下に幾重にも危険物のある部屋があり、全容解明までもう少し時間がかかるとの事だった。
「エルドリア王国、及びグランスロット家の方々にはどう報いれば良いのか分からないぐらい、本当に感謝しております。……我が国のおぞましい闇を暴いてくださったのですから」
アルバはそう言うと研究施設があった場所を苦々しい顔で見つめていた。
やがて馬車が停まったのは街の中心部にある大きな建物の前だった。
大きいと言っても、周りにある商店街の建物を四つ程くっつけたぐらいで、他国の街の中心部に比べても簡素な建物だ。
「総司令官はこちらに。ご案内いたします」
案内されて中に入り、応接室へ通された。
中に座っている人物を見て、リュカは目を見開いた。
深緑色の髪を一つに結び、黒い軍服に白いマントを羽織り、座って資料を読んでいるその姿。
決別したあの時と同じ姿のまま、ローランド・ワーノックがそこにいた。
レンティス限界オタク爆誕。
そして先生との再会。




