113話 出発前日、男子会
イグニスが起こした魔物暴走から約一年と二ヶ月経ち、グレイスロウで新規開拓された区域があった。
一番被害が大きく、森が削れてしまった北門の外周部を更に拡げて更地にした場所に、騎獣用の宿舎が付いた一軒家が並んでいた。
そこで住む人々は己の所有する馬や半魔獣と言われるスレイプニル、そして飛竜など、多種多様な騎獣と共に住んでいる。
その一角、一番西区に近い場所に建つ住宅にリュカとユリウスの姿があった。
宿舎にはクォーツ、そしてオブシディアンの姿が見える。
二人は隣合わせになるその家をそれぞれ購入しており、裏庭にあたる宿舎を繋ぐように柵を取り払っていた。
そうして繋げた広い裏庭は飛竜同士の交流と、パーティとしての活動も行い易いようになっている。
今はそこにもう一体、飛竜が降り立っていた。背中から降りて来たのは相変わらず世界を飛び回っているらしいレンティスだ。
レンティスは二人を見つけると後ろから肩を組んでもたれかかった。
「何だか久しぶりだねぇ!元気だった?聞いてよー!もうホント、休暇もぎ取るまでマジで大変だったぁ」
「本当に久しぶりだな。まぁ取る予定が二ヶ月分の休暇だからなぁ。兄さんの穴埋めする人が居なさすぎるんじゃないか?」
「今のところまだドランとゼノンだけだからねぇ。他も早く育って欲しいよ」
三人は連れ立ってユリウスの家にあるガゼボに腰掛けた。ユリウスが茶を入れてくると言って家に入って行く。
「レンティスさん忙し過ぎますもんね。あまり帰って来ないってライラがボヤいてましたよ」
「んふふ、そうだよねぇ。でも帰ってきた時にライラちゃんが出迎えてくれるの凄い贅沢な気分になれて良いんだよぉ」
「あー、まぁ……それはそうかも?出迎える方も良いもんですけどね」
「わぉ。惚気けられちゃった!もう慣れた?二人での生活はどう?」
「未だ一緒に住んでるの実感無いぐらいですけどね……」
「あっはっは!もう四ヶ月ぐらい経ってるよね?セラフィナちゃんと一緒に住み始めて!」
「いや、まぁ、そうなんですけど……」
「そういや今日はライラちゃんとお泊まり会だったよね。相変わらず仲良しだよねぇ、二人共。まぁ僕殆ど家に居れないから、セラフィナちゃんが一緒にいてくれるの助かってるけどさ。どっちかと言ったらリュカの方が寂しくなっちゃうんじゃない?」
「いや、俺はクォーツが居るし、隣にユリウスも居るからか、寂しいとかはあまり思わないんですよね」
「はぁぁぁ……羨ましい……僕もいい加減家から通う仕事したい……ライラちゃんに折角一緒に住んで貰えたのにさぁ……結局会えない時間多いし、弟達にもなかなか会えないし……」
三人分の茶器が乗る盆を持ったユリウスが戻って来た。軽く摘めるクッキーも乗っている。
レンティスはにこやかに礼を言うとカップに口をつけた。
「兄さんの仕事を肩代わりしてくれる人材をもっと育てるべきじゃないか?難しいとは思うが……」
「そうなんだよねぇ……まぁ今育ててんのが一人いてね、ようやく出来るようになって来たから、後はドランとゼノンに託して来た。だからようやく休暇貰えたんだぁ……」
「あのレンティスさんの特訓に耐えた人材が……!?」
「それは凄いな……!!」
二人で頷きあっていると、レンティスがじとっとした視線を二人へ向けた。
「ちょっと二人共、何その含みのある言い方は」
「いや別に……なぁ」
「そうそう!ホント優秀な人材が居て良かったですね!」
「ふぅん?まぁ良いけど……」
レンティスはクッキーを齧りながら肩を竦めていた。
あまり追求されなかった事にそっと胸を撫で下ろすリュカとユリウスだった。
「そうそう、明日出発する時に部下達が見送りに来るって言ってたから、その時に紹介するね」
「わざわざ見送りに?」
「まぁ僕の場合休暇って言ってもアストレア王国への仕事も兼ねてるからね。自由時間が多いってだけ」
「やっぱりレンティス兄さんは働きすぎだ」
「俺もそう思う……」
「僕もそう思う……」
レンティスが眉を下げてがっくりと肩を落とし、リュカの言葉に便乗した。
一瞬間が空いた後、三人で腹を抱えて笑った。一頻り笑ったレンティスが目元を拭いながら口を開く。
「そういえば聞いた?セリオン兄様の婚約!今までどの縁談も断ってたのにようやく決まったって」
「聞いたぞ。グランヴェル帝国の第三皇女様だと言っていたが……良いのか嫁いで来ても……皇女様だぞ?うちも一応爵位はあるが侯爵だし随分階級が落ちるが……」
「それがねー、皇女様の熱烈なアピールがあったみたいでさ、『私は貴方様の剣となり、盾となってお守り致します!』みたいな?実際に自ら鍛え上げて、セリオン兄様といい勝負するようになったらしい。それ以外にもエルドリア王国やグレイスロウの歴史もしっかりと勉強してきてたみたいでね、兄様達の話にも物怖じしないでちゃんとついて来れるんだってさ!凄いよねぇ」
「……女傑だな」
「そうそう、パッと見すごく綺麗な人なんだけど、帝国じゃ天才肌過ぎて誰もついて来れなかったみたいでねぇ。国内での婚約解消が何度かあったんだって。で、エルドリアと友好関係を継続する為の政略結婚相手として皇帝が目をつけたのが年齢的にも丁度いいセリオン兄様だったみたい」
「へー、お貴族様って感じするな……」
「まぁ、恋愛結婚もあるにはあるんだがな」
「でもねぇ、一回は皇女を迎えるなんて荷が重いって断ったみたいなんだけど。皇女様、わざわざここまで出向いて来てさ、『グレイスロウにもお忍びで何度か足を運び、人々の生活を見たのです。活気に溢れ、多種多様な人種がいるのに秩序を保ってるこの街がとても好きになりました。ここに移りたいと強く思ったのです。皇族らしく無く、何度も婚約を解消され、既に二十五も越えてしまった売れ残りの私ですが、どうかこの街で共に暮らす事を許して貰えないでしょうか』って頭を下げたんだって!」
「行動力すご……」
「で、自分の容姿見て倒れたりしないし、面白いかもって思ってそのまま婚約したんだってさ!びっくりだよね」
それを聞いてリュカ達は驚いたように目を丸くしていた。ユリウスが小さく息を吐いた。
「面白いで決めるのどうかと思うぞ……」
「それはそう。まぁ、ようやくお相手が決まって弟としてはホッとしてるよ。長兄を差し置いて先に式挙げれないよねぇ」
「もうライラとそういう話も出てるんですか?」
「いや、流石にまだねー、ライラちゃんあー見えて超奥手だから」
「即断即決って感じなのにな。意外だ」
「まぁおいおいね。兄様の結婚式が半年後に控えてるから、それ以降かなぁって」
ライラの話になると途端に柔らかい雰囲気になるレンティスを見てリュカとユリウスは顔を見合せて苦笑する。
「兄さんは本当にライラが大事なんだなぁ……」
「何今更。そんな当たり前な事言わないで欲しいな」
「もしかしてそのうちライラの事『ライラ義姉さん』って呼ばなきゃいけなくなる?」
「確かにな……」
「そこは今まで通りで良いけど?」
「じゃあいっか。そのままで」
ははは、と笑い声が響いた。カップにお茶のおかわりを注ぐとリュカはそれで喉を潤した。
「そういやその話聞いた時俺達にも招待状渡されたけど……どーすりゃ良いんですか?」
「そこら辺はユリウスが教えてくれるから大丈夫だよぉ。ね」
「あぁ、リュカとセラフィナは俺が監修するからな」
「マジで頼むわ……」
「任された」
三人はその後もお茶を楽しみ、ユリウスの家へ入っていった。
良く一緒にいるからか、自然とリュカが茶器の後片付けをしている。
夕食の準備もそのままリュカが作る事になり、ユリウスはそれを手伝いに台所へ立った。
カウンターでレンティスが興味深そうに覗き込んではあれこれと話をしている。
やがて日も暮れて、出来上がった夕飯に舌鼓を打ちながらワインで流し込んでいく。
三人の笑い声が途切れる事は無く、夜も更けていった。
いつの間にか同棲中のリュカとセラフィナ、それにレンティスとライラも。
ユリウスともお隣さんなって賑やかに日常を過ごしています。




