112話 リュカへの報酬
「えぇー……マジかぁ……」
魔物暴走から一月経ち、グレイスロウの街は周辺の残骸も無くなり、すっかり元に戻っていた。
ドラゴンフィーバーで半月程は騒がしかった住人達もそれぞれ日常生活を送っている。
そんな中リュカ達のパーティはセリオンに呼び出されていた。迎えの馬車に乗って領主館へと辿り着いた。
中に通され応接室で待っていたが、扉を勢いよく開けて入ってきた笑顔のセリオンについて中庭へと向かった。
そこに居たのはツヤツヤの鱗が綺麗な白色の飛竜だった。
丸くなって休んでいるようで、視線だけをこちらに向けている。
「ふふっ、驚いたかな?綺麗な個体でしょう?リュカ君へ別に報酬を準備するって言ってたのに遅くなったのはこれが理由だったんだよ」
ユリウスも驚いたように目を見開いていたが、少し考えるように顎に手を当てた。
「白色の鱗は初めて見たな……セリオン兄様、もしやこの子は……」
「流石ユリウス、察しが良いね。そう、自然界では淘汰されてしまう突然変異種だよ。親から見捨てられてしまったんだろうねぇ……。他国からの帰り道にレンティスが幼体で弱ってるのを見つけて、うちに連れて帰ってくれたんだ。これでもまだ一歳ぐらいなんだけどね」
「え……俺知らない……」
「ユリウス、あまりうちに帰ってきてくれなかったからねぇ。言うタイミングが無かったんだ。ごめんね」
「え……俺、レンティス兄さんに自力で捕まえに行かされたのに……」
「まだ騎乗出来る程育って無かったんだよ。ユリウスなら出来るって分かってたんでしょう、レンティスも。実際ちゃんと乗れるしあの子も黒い鱗で可愛いじゃないか」
「いや、それはそうなんですけどね……」
「って事で、この子が今回別途に準備したリュカ君への報酬になるよ。普通の飛竜と違って大人しい子だから」
セラフィナとライラも予想外の報酬に驚きを隠せないでいた。
「……報酬のレベルが違うわね……馬とか金貨とかじゃないんだ……」
「キラキラして見える……綺麗……」
「それはそう……。あまり見ない色だし鱗もガラス細工みたいね」
「リュカ、飛竜は馬と一緒で相性があるから。とりあえず近づいてみろ」
「え…………分かった……」
ユリウスに促され、リュカは飛竜へと近づいて行った。飛竜は近づいてくるリュカを見つめている。
「……撫でても良いかな?」
そっと鼻先へ手を伸ばしたその瞬間、飛竜の腕がリュカへ向かって振り下ろされた。
「「リュカ!」」
その光景に驚いたセラフィナとライラの叫び声が重なった。
だがリュカは半歩横に動いてそれを避け、そのまま身体を回転させ聖槍の石突きで飛竜の眉間を勢いよく小突いた。
ヨロヨロと後ろへ後退りをした飛竜が小さく唸り声を上げ、少しだけ目を細めるようにリュカへ視線を向けた。
「あっぶなー……ごめんな、思いっきりやっちゃった」
リュカは飛竜に向かって手をかざし、治癒魔法をかける。
すると痛みが無くなった事に少し戸惑っているのか、困惑したような鳴き声を出していた。
「驚いたよなぁ……マジでごめんな」
リュカは慎重に近づいていくと、飛竜の方から鼻先を近づけて来る。スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいるようだった。
鼻先に向かって手を伸ばすと、飛竜の方からリュカの手に触れて来た。
「おぉー……これはもしかして認めてもらえたのか?」
軽やかに手を叩く音がしてそちらへ視線を移すと、セリオンがにこやかに拍手をしている。
「うん。リュカ君がこの子と相性良いと思ったのは間違って無かったね。凄いじゃないか」
「セリオンさん、大人しい子って言ってたのに……」
リュカはじとっとした目をセリオンへ向ける。
「ふふっ、普通の飛竜と比べたらよっぽど大人しいよ?ねぇ、ユリウス?」
「まぁそうですね。人前で地べたに寝そべってる時点で大人しい子だぞ、リュカ」
「マジかぁ……」
リュカは改めて飛竜へと視線を戻した。じっとこちらを観察するように、飛竜もこちらを見ている。
「リュカ君、良かったら名前付けてあげて。まだ、この子は名前付けてないんだ。ちなみにこの子、メスだからね」
「名前……」
真っ白な鱗を持ち、瞳は薄いピンク色をしている飛竜。
リュカはとある鉱石を思い浮かべながらポツリと呟いた。
「クォーツ……」
ユリウスがその名前に反応して嬉しそうに笑った。
「『水晶』か……。良いじゃないか。ちなみに俺の飛竜は黒い鱗で少しだけ透き通って見えるから、オブシディアンって言うんだ。『黒曜石』って意味だぞ」
「何だかんだ似たような事考えるよな、俺たちって……」
「パーティっぽくて良いじゃないか」
「それはそうだな」
セリオンが腕を組んで小さく頷くと、クォーツへとにっこりと笑顔を向けた。
「うんうん。いい名前付けてもらったねぇ。これから彼が君のパートナーになるからね。リュカ君をよろしく頼むよ」
クォーツはまるで言葉を理解しているように小さく喉を鳴らし、セリオンを見ていた。
それからというものリュカは毎日領主館へ通い、どんなに時間が無くとも一度は必ずクォーツの世話をしてから帰る事にしていた。
日に日に自分に懐いてくれるのが分かる為、リュカも毎日楽しみに領主館へ向かう。
半月経った頃、ようやく嫌がらず背中に鞍を着けれるようになったクォーツの鼻先を優しく撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らしていた。
「そろそろ乗せてくれるかなぁ?流石にまだ早いか……」
リュカがポツリと呟くと、一緒に来ていたユリウスが顎に手を当て、考えるように言う。
「オブシディアンも連れて来て、人を乗せて飛ぶ所を見せると良いかもしれないな」
「おぉー、確かに。それに他の飛竜と交流させるのも大事だよな。良かったなクォーツ。明日仲間が来るってさ」
「アイツもいい子だから仲良くしてやってくれな」
ユリウスもそっとクォーツを撫でてやると、心なしか嬉しそうな雰囲気を出している。
帰る時の寂しそうな鳴き声に後ろ髪を引かれながら二人は領主館を後にした。
「何だろ……俺よりユリウスに懐いてる気がするのはなんでだ」
「気の所為だろう」
「でも馬より素直な感じだよな、飛竜って」
「分かりやすい分、懐いた後は馬より乗りやすいぞ」
「へぇー!乗れる日が楽しみだなぁ」
次の日、ユリウスはリュカを後ろに乗せてオブシディアンと共に領主館へと向かった。
中庭に降り立つと、クォーツが少し警戒するような仕草をしたが、リュカとユリウスが黒い飛竜の背中から降りてきたのを見て少し警戒を解いたようだった。
ユリウスはオブシディアンを撫でながらクォーツの方へ視線を向ける。
「オブシディアン、彼女がクォーツだ。お前の方が少しお兄さんだからな。色々教えてやるんだぞ」
軽く喉を鳴らしたオブシディアンはゆっくりとクォーツとの距離を詰めていく。
リュカに撫でられてご機嫌になっているクォーツは視界に入ってきた黒い飛竜に気づくと少しだけ目を細めた。リュカがそれに気づくと優しく声をかける。
「大丈夫だぞ。オブシディアンはお前を傷つけたりしないよ」
当然だと言わんばかりに鼻を鳴らしたオブシディアンは鼻先をクォーツの前脚にそっと触れさせた。
それから二頭は何か会話をしているように何度か喉を鳴らし、鼻先同士を擦り合わせていた。
「……もしかして意気投合した感じか?」
「多分な」
「良かったなぁ。仲良くしろよ」
二頭の顔合わせが終わってからというもの、リュカはクォーツの背にすぐ乗る事が出来た。
乗ってくれと言わんばかりに鞍を付けた状態で伏せて、リュカの方を見て鳴いていたのだ。
ユリウスに促されたリュカはそのまま背に乗ると、クォーツは立ち上がり、そっと中庭を歩き始めた。
「こんな早く乗れると思って無かったな……」
リュカは嬉しそうに口元を綻ばせて、手網を持って揺られている。ユリウスもオブシディアンに乗り、並走して歩かせていた。
「歩きに慣れたら飛んでみようか。もし空中で落ちたら俺が拾ってやる」
「マジで頼む」
しばらくするとユリウスは見本を見せるようにオブシディアンをその場で羽ばたかせて少しずつ空へ昇っていった。
リュカも同じようにクォーツを促すと、彼女は羽を動かしていく。最初はコツが掴めなかったのか地面から浮かなかったが、しばらくすると脚が地面から離れていった。
白黒の二頭が空へと舞い上がり、あっという間にグレイスロウを一望出来る場所まで辿り着いた。
ドランの後ろに乗ってガルディアへ向かった時にもこんな風にゆっくり風景を眺めるなんて余裕は無く、改めて飛竜の視点から見るグレイスロウの街並みに息を飲んだ。
「……凄い景色だな……グレイスロウってこんなデカい街だったんだ……」
「いい眺めだよな。既に大きな街だが、更に開拓の話が上がってるらしいから、グレイスロウはもっとデカくなるぞ」
「マジか……どれだけ発展させる気なんだろうなぁ……これで領主代理って言い張るの無理じゃない?」
「まぁなぁ……ちょっと面倒くさがりな所もあるからな、セリオン兄様は」
「領主様と役割分担してるって思えば良いのか……?」
「そういう事だ」
これを機に空を飛べるようになったクォーツは少しずつ速度も出せるようになり息も合ってくる。
一月経つ頃にはリュカは飛竜をすっかり乗りこなせるようになった。
そして瞬く間に一年経った頃、ようやく情勢が落ち着いたアストレア王国へ、パーティのメンバー三人と、二ヶ月の休暇(?)をもぎ取ったレンティスと共に向かう事になった。
105話で交わしたユリウスとの会話フラグ回収が早かった(笑)




