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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
3章 エルドリア王国
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110話 魔物暴走の後

 イグニスが起こした魔物暴走(スタンピード)も終息し、グレイスロウは後処理に追われていた。

 冒険者やギルド職員、様々な職人や商人も総出で地龍(アースドラゴン)やその他大型の魔物を解体して素材回収作業を行っている。

「見てみろよこの斬り口。惚れ惚れするぜ」

「無駄を省いて仕留めてるから地龍(アースドラゴン)の素材が取り放題だ!皮や骨、内蔵も薬になるし、魔石もデカイのが取れるだろ?それにドラゴン肉は高級食材だがこの量だ。しばらく値崩れするぞ」

「ドラゴン肉なんて何年振りだぁ?領主様が殆どタダみたいな金額で卸してくれたってよ。あ、そういや仕留めたのは領主様のとこの護衛だそうだから……」

「そりゃあ凄いな。グランスロット家が治めてる限りグレイスロウはこれからも安泰だ」

「違いねぇや」

 はははっと笑い声も飛び交いながら作業は進んでいった。

 素材を回収すると、使わない部位は土魔法で大きな穴を作って、まとめて放り込んでおく。ある程度回収されると火魔法が使える冒険者、ギルド職員が焼却処分を行っている。

 水魔法や風魔法で辺りの洗浄を行い、光魔法で浄化をしていくと、周辺の様子もいつも通りなグレイスロウの風景になっていった。


「はい、終わり。二、三日は様子見て、依頼は受けないようにね。じゃあ次の人ー」

 グレイスロウの北門が一番魔物の数も多く、死者こそ出なかったが負傷者は沢山出ていた。

 臨時診療所をギルドが開設しており、リュカはそこで医師や光魔法使いと共にひっきりなしに訪れる患者の対応に追われていた。

 医師や看護師も総出で軽傷者の治療に当たり、リュカは比較的重傷者の治療を受け持つと次々処置をしていく。

 治療をしていた手を一瞬止めた医師が小さくため息をついた。

「魔物暴走(スタンピード)の規模が大きかった分、負傷者が多いな」

「死人がいなかっただけ御の字でしょう?」

「それはそうだ。……しかしあの上級冒険者は何者だ?手際が良すぎるだろう」

「あぁ、あちらはあのユリウスさんのパーティに在籍してるヒーラーの方だそうですよ」

「ははぁ、成程。そりゃやり手って訳か」

「先生!口より手を動かしてください!まだまだおられるんですからね!」

「はいはい!わかってるよ。次の人ー!」

 

 息つく暇も無い程右往左往して、ようやく訪れる患者がまばらになり始め、椅子に座って少し休憩していると軽傷者を担当していた医師がリュカに話しかけてきた。

「なぁアンタ、あのユリウスのパーティメンバーなんだってな。名前なんて言うんだ?」

「ん?あぁ、俺はリュカといいます。ヒーラーで……ってやっぱりユリウスって有名人なんだなぁ」

「なんだよ、知らないでパーティ組んでんのか?!グレイスロウの上級冒険者の中でも若いのに飛び抜けて優秀過ぎるし面も良いで人気があるんだぞ!」

「確かにそんな感じですね、ユリウスって」

 

「いやぁ、あのユリウスがパーティ組んだって街中でも噂になってたんだよ。今日一緒に仕事して凄い納得出来たわ!光魔法の使い方が上手すぎるんだよな、リュカは。凄腕ヒーラーなんだなぁ。冒険者にしとくのが勿体ないぐらいだ」

「ははは……」

  

「リュカ、いるか?」


 その時、天幕の入口から顔を出した人物を見て、看護師達が小さく黄色い歓声を上げた。

「ユリウス、そっちは終わったのか?」

「今日はもう切り上げる事になったから迎えに来た。あと、領主代理から呼ばれててな。セラフィナとライラも探しに行く所だ」

「そっか。分かった。少し片付けるからもう少し待っててくれ」

「あぁ」


 片付けようと椅子から立ち上がると、医師を押しのけて看護師達がリュカとユリウスに寄ってきた。

「片付けなんて良いんですよぉ!先生と私達がやりますから!」

「領主様から呼ばれるなんて、ユリウスさん、お抱えになったっていうのは本当だったんですね!」

「早く行ってくださいな!お忙しいでしょうからね」

 キラキラと音がしそうなぐらいに目を輝かせて看護師達にそう言われ、リュカとユリウスは顔を見合わせると小さく頭を下げた。

「感謝する」

「ありがとうございます」

「うふふ、お気になさらず!」

「頑張ってくださいねぇ!」

 看護師達に見送られ、二人は天幕を後にした。


 セラフィナとライラがいるはずの場所へ移動しながら情報共有をしていく。

「街の外はどうだった?ユリウスは洗浄作業だったんだよな?」

「戦闘があった場所は荒れていたが、疫病は発生しない程度にしていってる。規模が大きかった分魔物も広範囲に転がっているからな。一番大変なのが魔物の解体作業だから、こっちはまだ楽なもんだ。解体作業に追いついたのもあって今日の作業は終わった。なんなら明日からの方が忙しいだろう」

「そっか。こっちは負傷者は多かったけどまぁ何とかなったぞ。浄化作業なら手伝えるから明日からはユリウスんとこ行けそうだ。しかし医師も他の光魔法使いもグレイスロウはレベルが高いなぁ」

「領主代理が医療技術の向上にも着手していたからな。実際、現場にも幾度と足を運んで改善点を指摘してたらしいから。で、実際に結果が出てる」

「なんでもやってるな、セリオンさん……」

「まぁあの人はなぁ……行動と決断がとにかく早いからな……」

 

 頷き合いながら納得していると、郊外にある焼却処分場所へ辿り着く。

 そこでは大きな炉の様な形に成形された土から伸びた煙突があり、絶えず煙が立ち上っていた。

 

「あ、二人共お疲れ!どうしたの?」

 

 リュカ達に気づいたライラが声をかけてきた。現在彼女は焼却処分をする麻袋をいくつかまとめて風魔法で運んでいる。

「お疲れ。終わりそうか?」

「作業中すまんな。パーティで領主代理に呼ばれてるから迎えに来たぞ」

「えっ!?了解。ちょっと待ってて!セラフィナも連れてくるわ!」

 そう言うとライラは風魔法で麻袋を炉の上にある投入口へ放り込み、裏へと駆けて行った。

 

 しばらくするとタオルで顔をライラに拭かれながらセラフィナも一緒にやってくる。

「もう!ホントに!可愛い顔になんでこんな煤つけてんのよ!」

「だって焼却作業中だったし……」

「そういう問題じゃないの!……リュカ!」

 険しい顔でリュカの方へ顔を向けたライラの勢いに若干引きながら、リュカは手をかざした。

「りょーかい。みんなにかけとくな」

 

 魔力が頬を撫でるように一瞬だけ風が巻き起こると、四人は洗いたてのように全身綺麗になっていた。

「ギルドでも領主館でも領主代理の前で流石にみんな泥だらけって訳にもいかないよな」

「おー!流石リュカ!ありがとね!」

「ありがとう」

「作業の方は抜けても大丈夫だったか?」

「えぇ。ある程度流れは作ってるし、人もたくさんいるからね」

「では向かおうか。ギルドの方に居ると言っていたからな」

「ってかパーティで呼び出しってなにかしら?怖いんですけど」

「いや、多分報酬とかそういう話だと思うぞ」

「それだけなら良いんだけど……」

 ここで考えても仕方がないと、四人は冒険者ギルドへと足を向けた。


 ギルドへ着くとすぐさま三階の応接室へ通され、扉を開けるとそこでは既にセリオンが優雅に紅茶を飲んでいる。その後ろにはトールとサイレスが立っていた。

 その向かいにレンティスも座っており、後ろにドランとゼノンが立っていた。

 グスタフとリシェルも揃っており、どうやらリュカ達が最後だったようだ。 

「すみません、お待たせしました」

「忙しい所悪いね、来てもらって。座ってくれるかな?」

 四人がソファに腰掛けると、セリオンがカップを置いた。

 

「今回の魔物暴走(スタンピード)の収拾、及びにイグニスの捕縛に協力感謝するよ。皆それぞれ期待以上の働きをしてくれてすぐに街も元に戻るだろう」

 

 リシェルが小さく頷いて口を開く。

「大規模だったのに街中自体には一つも被害が出なかったというのも凄いよねぇ。地龍もいたんでしょ?」

「うん、そうだね。なに、他の魔物より少し大きいだけだよ。ただの害獣だ。せいぜいグレイスロウ(うち)の経済を回してもらおう。三人が綺麗に倒してくれたからね」

 事も無げにセリオンはそう言ってにっこりと笑った。

「うーん……過剰戦力だから言えるセリフだねぇ……普通地龍なんて討伐隊が組まれる程の大物だよ……?」

 リシェルが呆れた様な声を出して肩を竦めた。


「ふふっ、対策さえしていれば戦闘向きでは無い私でも討伐可能だよ?」


「……そんな事出来るのはセリオン兄様ぐらいですよ……」


 ユリウスが渋い顔をセリオンに向けると肩を落として言った。

 

「話が少し逸れたね。今回、討伐した地龍の魔石はレンティス(国の戦力)をお借りしたという事で陛下に献上、薬品になる内蔵類は研究所へ寄付、皮や骨、肉は民草に還元する事になってる」

 レンティスが少し不満そうな顔で腕を組んだ。

「ホントは陛下に地龍の魔石なんて勿体ないんだけどねぇ。兄様に丸投げした癖にさぁ……」

「こら、レンティス。あまり不敬な事を言うもんじゃないですよ」

「僕別に陛下に忠誠を誓ってる訳じゃないしー」

「全く……思ってても口に出すなって言ってるんですけどね」

 トールが呆れたようにレンティスへ視線を向けると、はぁい、と軽く返事をして背もたれに寄っかかる。

 

 咳払いを一つして、トールが続きを話し出した。

「その他の魔物から取れる魔石や素材類はそれぞれ解体、回収した者の手柄という事になっています。ギルドもそれなりに恩恵が受けれるのでご了承下さい」

「構わん。うちは直営店の酒場用にドラゴン肉を安く卸してもらうからな」

 

「後、ユリウスのパーティには北門以外の警備隊を率いて貰って助かったよ。ありがとう。セラフィナさんもライラさんも目を見張る活躍だったと聞いてるよ」

 セラフィナとライラが二人で目を合わせて嬉しそうに笑い、小さく頭を下げた。

「ありがとうございます。でも南門から火柱が上がった時は少し驚いたわよ、セラフィナ」

「魔物が逃げるやつと向かってくるやつで団子みたいになってたの……そんな素材にならない種類だったし一気にやっちゃえって思って……」

 セラフィナが少し気まずそうに俯いて答えていた。

「ふふっ、アレでイグニスの戦意も削がれたからいいタイミングだった。本当にうちのお抱え冒険者は皆優秀で嬉しいよ」

 

 トールが片手に書類を持ち、少し笑みを浮かべて小さく頷くと口を開いた。

「それと二人共後処理も率先して行ってくれて他の冒険者達の見本になっているようですね。リュカも臨時診療所での活動、助かりました。死者が一人も出なかったのも幸いでしたね」

「冒険者達の立ち回りが上手だったんだと思いますよ。グレイスロウは冒険者もレベルが高いので……みんな引き際を分かってるというか」

「だってさ、グスタフ。ちゃんと講習を受けさせてるだけあるんじゃないかい?」

「当たり前だろう。死んだら元も子も無いからな」 


「ふふっ、さて、そんな八面六臂な活躍を見せてくれたユリウスのパーティの皆には改めて報酬を出すからね。それと、リュカ君」

「はい」

 

「君がこの騒動の終息に一番貢献してくれたからねぇ。うちから別途報酬として準備してるものがあるから。楽しみにしてて」

 

「え……」

 ニコニコと笑い、そう言ったセリオンは優雅に足を組み替えると、肘当てに腕を乗せた。

 

「あぁ、そうだ。イグニスの処遇についても話をしておこうか」

少しずつ日常へと戻っていきます。

災害の後片付けが一番大変ですからね……

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