104話 一目置かれる人
「……は?今なんて?」
「アストレア王国で革命が起きた。聖白騎士団が起こしたクーデターに追従する形でとうとう民衆が蜂起したんだ。内戦が勃発したよ」
フェンリスの冒険者ギルドに戻ったリュカ達は、レンティスからの話に驚きが隠せなかった。
「クーデターだなんて……どうして……」
呆然と呟いたリュカは膝の上で手を組むと眉をひそめて視線を下に落とした。
「ガルディアで発覚した各国での誘拐事件はアストレア国内でも当然のように行われてたからね。それが民衆にも噂があっという間に拡がって、今まで抑え込まれてた不平不満が国の、更に教会への怒りに変わった」
レンティスはそこで一度言葉を切ると、ゆっくり全員を見渡した。
「聖白騎士団は長年に渡って不当な扱いを受けていた事を国の上層部に訴えていたんだそうだよ。訴えは全て無下にされて、更にお互い責任を擦り付けあってるあの事件があった。彼らは平民の集まりだからね。神殿騎士による“人狩り”の被害者家族と親戚だったり幼馴染もいたみたい」
ユリウスがレンティスに視線を向けると口を開いた。
「クーデターの中心人物は分かっているのか?」
「……聖白騎士団、団長のローランド・ワーノック、以下騎士団内の精鋭部隊。彼らはあっという間に国の上層部を制圧して、民衆からの支持を得た。そこから各地で民衆よる暴動が起き、神殿騎士団が制圧に動いた事で教会との対立が激化したみたいだ。聖白騎士団を中心とした革命軍と、神殿騎士団を中心としたアストレア軍との内戦だね」
「革命軍の中心に聖白騎士団が……」
「これはまだ非公式だけどね、エルドリアを始めとする各国は革命軍を支持する事が決定してる。そうなったら旧体制の王国と教会は降伏するしか無いだろうから、内戦の終結も時間の問題だよ。僕からの報告は以上。何か質問ある?」
「一体いつ、それが分かったんですか?」
「クーデターが起こったのは約二週間前、各地で暴動が起こり始めたのがその二日後、各国の密偵からの報告が上がったのが約一週間前。僕がエルドリアから離れてたのは周辺諸国との調整のためなんだよね」
「……ちなみにレンティスさんって外交官なんですか?」
「あんまり詳しくは話せないけど、そういう役割もある時はあるって感じかな!基本的には騎士団所属だから」
「はぁ……なるほど……」
あまり聞かない方が良さそうな雰囲気を感じ、リュカは曖昧に返事をしておく事にした。隣に座るユリウスが小さく手を挙げてレンティスに聞く。
「そういえば研究施設の全容解明は出来そうなのか?」
「革命軍が施設の全容解明をすると表明してるから、そのうち内容も明らかになるんじゃないかな?まぁ、被害の規模が大きすぎるからね……賠償金支払いだけでもアストレア王国自体が無くなってしまう可能性だってあるんだ」
その場に沈黙が落ちた。自分達が関わった事件を切っ掛けに、大陸中を巻き込む出来事になっていくとは誰も予想していない事だった。
リュカが視線を落としたのを見て、レンティスが少し眉を下げてから口を開く。
「リュカ君、実はね、ローランド・ワーノックはうちの国では数年前から一目置かれていた人物なんだよ」
「えっ……?どういう事ですか?」
「かの国の戦争での立ち回り方を変え、前線での生存者を増やしたのは、ルシアンはリュカ君だと言っていたけどね、遡って調べると、ローランド・ワーノックが聖白騎士団に異動になってからだった。リュカ君が前線に立ち始めた時には既に副団長として頭角を現していたでしょ?」
「……確かにそうです。俺は、ローランドさんのやり方で戦ってた……」
「うん。ルシアンの言う事もあながち間違いでは無いんだけどねぇ。でも、僕らは一番の功労者は彼だとそう思ってる。だから、リュカ君からローランド・ワーノックの話が出た時は少し驚いたんだけど、納得もしたよ。リュカ君は彼に育てられたんだなって良く分かる」
リュカは複雑な気持ちでグッと喉を詰まらせると言葉が出てこなかった。
アストレアを逃げ出して一番心残りだったのがローランドの事だった分、自分の中で大きな存在だったのだと改めて認識したのだ。
「……リュカ君の先生だって事は話が通じると思ったから。クーデターを起こす前だったけど、実はグランスロット家は彼と極秘に接触をしていたんだよ」
「は……?えっ……?ローランドさんと……?いつの間に?」
一体何を言ってるのか理解出来ない表情を浮かべ、リュカは呆けた様な声を出した。
「覚えてるかな?ガルディアの事件の後、機関室でユリウスと僕と話してた時に、ポロッとリュカ君がローランドの名前を出した事があったよね?その時セリオン兄様に伝書鳥飛ばしたんだけど、その後すぐだったかなぁ」
「そんなに前から兄さん達はこうなるかもしれないって思ってたと?」
ユリウスが驚きを隠せない声色でレンティスに視線を向ける。
「いや、流石にクーデターを起こすとは僕も予想はしてなかったけどね。セリオン兄様は薄々分かってた感じだったよ」
「あの……ローランドさんとは何を……?」
「アストレア王国の研究施設の存在についての話だよ。あの時は神殿騎士達の話だけで確証は無かったからね。アストレア側の協力者として引き込んだ」
「……だから、セリオンさん達があんな早く情報を得れたと……」
「うん。そういう事。彼を慕う人々の協力があったのも大きかった。それとね、リュカ君」
「はい」
「彼も例のイグニスの研究資料を見ていてね、あれが誰だったのか、気づいていたよ」
「……」
「『どれだけ、この国はアイツに背負わせる気なんだ』って頭を抱えていたって。だから大丈夫だよ、リュカ君。彼は君の事をずっと案じてる」
リュカは胸の奥から込み上げるものを抑えるように大きく息を吐いた。
たくさん迷惑をかけたのに、アストレアを捨てて逃げ出した自分を気にかけてくれていたという事実が嬉しくて、心苦しくて、瞼の裏が熱くなってくる。
横に座っていたユリウスに軽く肩を叩かれ、反対側に座るセラフィナがそっと背中に手を当てる。更に後ろからライラに髪をぐしゃぐしゃと撫でられ、リュカは俯く事しか出来なかった。
「イグニスの件が片付いたらになるけど、リュカ君が良ければ彼に会いに行かない?。ユリウスとセラフィナちゃんとライラちゃんと。パーティみんなでね」
「……はい……そう……ですね」
「その時は僕も長期休暇もぎ取って行くから!リュカ君はグランスロット家になりましたって言わなきゃいけないからねぇ」
「……いや、だからそれは……」
「えっ!?そうだったの?やだ早く言いなさいよ。ユリウスといいリュカといい大事な事はちゃんと教えてって言ってんでしょ!」
ライラが更にグリグリと頭を押さえつけるように撫でた。
隣でセラフィナも大きく頷いていて、訂正するような雰囲気では無くなってしまう。
レンティスはリュカの困惑した顔を見てにっこりと笑う。それは何処と無く長兄を思わせる笑みだった。
「んふふ、もう観念して僕の弟になりなよ。ってか僕はとっくにそう思ってるからね、リュカ」
レンティスはまるでいたずらが成功した様に楽しそうな笑みを浮かべ、目を丸くしているリュカを優しく見つめていた。
名を呼び捨てされ、気恥ずかしくなったリュカは片手で目元を覆うと項垂れてしばらく顔が上げれなかった。
外部からの評価はとても高いローランドさん。
そしてレンティスの言う機関室の話は64話にあります。
仕事が早いグランスロット家。
外堀をどんどん埋めていっています。




