103話 良く見てるのね
牢屋からみんな退出した後の話。
「……ライラ姐さん……久しぶり……挨拶、遅れてごめん」
リュカの治療を終え、拘束を解かれたジュダスはライラの立っている鉄格子の前まで移動すると、小さく頭を下げた。
牢屋越しにジュダスを見ていたライラは大きくため息をつく。
「はぁ……久しぶりに会う弟分とこんな形で再会したくは無かったわよ」
「うん……俺もだよ」
「……故郷でちゃんと仕事、してたのね」
「そりゃそうだよ。先生の名前に泥を塗る訳にはいかないと思ってたんだ……けど、こっちで罪を償っても、もうサーフェスには帰れないだろうな……」
自嘲気味に笑ったジュダスは俯いてしまう。
「……先生にも迷惑かけて、密偵としてもダメな所が出てしまった……挙句の果てに自害するように操られるとか……何やってんだろ俺……これからどうしたらいいか分からないよ……」
ヒョウ柄の丸い耳がこれでもかというぐらい寝てしまっていて、相当落ち込んでいるのが分かり、ライラは困ったような顔をして牢屋越しに手を伸ばした。
その時、横から違う腕が伸びて来てジュダスの胸ぐらを掴み引き寄せた。ジュダスが鉄格子にぶつかる音が響く。
「レンティスさん!?」
驚いたライラがジュダスを掴んでいるレンティスの腕に触れたが、ちっとも動く気配がしなかった。
「……甘えるなよ?どうしたらいいか分からないじゃないんだよ。お前が判断を誤った事で戦争の切っ掛けになりかけたのは事実なんだ」
「……っ……」
「それでも運良くお前は生きてる。ファイフさんに生かされた。ライラちゃんのパーティにたまたまヒーラーのリュカ君がいたから生き延びた。故郷に帰れなくてもいくらでも貢献出来る事なんてあるだろ。思考を止めるな、考え続けろ。それが出来なきゃ堕ちて死ぬだけだ」
そう言うとレンティスはパッと手を離した。ジュダスはその場に座り込んで咳き込むと、胸元を握り締めレンティスを見上げる。
無表情のまま、ただそこに立っているだけなのに、レンティスから感じる威圧感にジュダスは押しつぶされそうになった。
ふと、威圧感が消えるとレンティスの口角が僅かに上がっている。
「……って言っても罰を受けた後、理由はどうであれファイフさんを殺しかけた君への当たりはどこへ行っても強いだろうから。良ければグレイスロウに来なよ」
「えっ……?」
「僕の所に尋ねて来たら君に合う仕事の斡旋ぐらいはしてあげる。まぁ無理にとは言わないし、ここにいる間、身の振り方を良く考えておくといい」
「…………」
「じゃあまた。悪かったね、乱暴にして」
「いえ……大丈夫です……」
そう言うとレンティスはひらりと手を振って牢屋を後にした。
しばらく歩いた所で後ろからついて来ていたライラの方へ向くと少しだけ屈んで目線を合わせた。
「ライラちゃんもごめんね。驚いたよね。もう彼と話しなくても良いの?」
「驚いたけど……大丈夫よ。何となく言いたい事、大半レンティスさんが言っちゃったから」
「それでも話してる所に横から入っちゃったし、ね」
「ううん、いいの……。むしろありがと……ジュダスの事、気にしてくれて……」
「んふふ、ライラちゃんの弟分でファイフさんの弟子なら元々素質はあるんだろうし。こんな所で潰れたら勿体ないでしょ?」
レンティスはライラの手を取ると、エスコートをするように自然と歩き出した。
「あの子、レンティスさんの所に行くかしら……?」
「どうだろうねぇ。だいぶ脅しちゃったからなぁ……。案外冒険者になるかもしれないよ?」
「そうなったら思いっきり指導しなきゃいけなくなるわね」
ライラはそう言って肩を竦めると口元を綻ばせた。
「……やっと笑えるようになったみたいだね、良かった」
「えっ?」
「僕が来てからずっとここに皺が寄ってたからさ」
レンティスは人差し指でライラの眉間を突っつくと、ライラは目を丸くして片手を額に当てた。
「……レンティスさんって本当に視野が広いのね」
「そぉ?僕の場合、セリオン兄様ならどうするかなって考えながら動いてるからねぇ」
「一番上のお兄さんか……そう言えば師匠も二人は似てるって言ってたわね」
「そういえばそうだね。初めて言われたから嬉しかったなぁ」
「…………レンティスさん」
「んー?」
ライラは歩みを止め、繋がれた手に少しだけ力を込めた。
「ホントにありがとう。師匠も、ジュダスも、貴方に救われたわ。……もちろん、私も。後………………会えて嬉しいデス……」
最後は消え入りそうな声だったが、レンティスの耳にはちゃんと届いていた。
満面の笑みを浮かべレンティスはライラをそっと引き寄せると、建物の陰で彼女を抱き締めた。
「今日は我慢しようと思ってたんだけどなぁ……ライラちゃんが可愛すぎて無理そう」
「何言って……んんっ!」
ライラの言葉はレンティスの唇に飲み込まれていった。
角度を変えて優しく何度も口付けられ、少しずつ思考が奪われていき、ライラはレンティスに縋るように彼の胸元の服を掴んでいた。
唇が小さく音を立てて離れると、レンティスはライラの唇を親指で優しく撫でた。
「……そんな顔されたら離れたくなくなっちゃうんだけど?」
「……そんな事…言われても……分からないわよ……」
「ライラちゃんの瞳が蜂蜜みたいに蕩けてて可愛い」
そう言って真っ赤に染ったライラの頬を撫で、瞼に口付けを落とす。
「しばらくギルドに戻れそうに無いなぁ。こんな可愛い顔、みんなに見せれないね?」
「もう!誰のせいよ……」
「んふふ、僕のせいかな?じゃあ責任取ってしばらくこうしてようね」
ライラの腰に手を回して囲うように緩く抱き寄せる。
顔色が落ち着くまで、二人の間には静かな時間が流れていた。
飴と鞭の使い方が上手い人。
ライラも気を張ってた分ようやく肩の力が抜けたようです。
少しずつ甘えれるようになってきた。




