99話 おかえり!
「セラフィナーーー!!久しぶり!!会いたかったぁ!」
ガルディア連合国へ旅立っていたユリウス達が約一ヶ月ぶりにグレイスロウに帰って来た。
レンティスと一緒に飛竜に乗っていたライラは、迎えに来ていたセラフィナを見つけると、まだ着地をしていない飛竜の背中から華麗に飛び降り、勢い良くセラフィナへ抱き着いた。
「おかえりなさい。怪我なくて良かった」
「全然大丈夫よ。セラフィナは?ちゃんとご飯食べてた?研究ばっかりしてたんじゃない?」
「ちゃんと食べてたよ」
「なら良いのよ。もー!話したい事がいっぱいあるの!」
「私もあるよ」
「ね、ね。今日二人でご飯行きましょ!」
「うん。いいよ」
「やった!楽しみ!」
あっという間に予定を決めてしまった二人は楽しそうに笑いあって再会を喜んでいるようだった。
飛竜を宿舎に繋ぎに行っていたユリウス達も、嬉しそうな女性陣を見て小さく笑い、後方で苦笑いをしていたリュカに声をかける。
「リュカ、そっちは変わりなかったか?」
「あぁ。なんとかな。そっちも無事で良かった」
「リュカ君久しぶり!」
「レンティスさんもお久しぶりです」
「んふふ。元気そうで良かったよ」
「ガルディアはどうでした?」
「うん。話が上手く纏まったんだ。やっぱりライラちゃん連れて行って良かったよ。ガルディア王にも凄く歓迎されたしね」
「へぇー。ガルディアでも人気あるんですね、ライラは」
「そうだねぇ。そこがライラちゃんの魅力でもあるんだけど本当に困っちゃうよね。周りを牽制するの大変だったなぁ」
「……え……?」
「フェンリスの冒険者ギルドでもさぁ、昔の知り合いっていう有象無象がたくさんいてねぇ……。慕われてたんだなって分かるんだけど、あまり面白くない光景だったなぁ。ライラちゃん交友関係広いし、僕が口出す事じゃ無いのは分かってるんだけどさ」
「……え」
少し拗ねたような口調のレンティスにリュカは戸惑いが隠せずにいた。
ユリウスは息を吐いて、呆れたようにレンティスへ視線向ける。
「……そんな事言っといて、ライラに触れようとしてた上級冒険者を一瞬でのしてたじゃないか」
「あれは別でしょ。上から目線でライラちゃんも嫌がってたし?」
「まぁそうだけど」
「別に僕がやんなくてもそのうちユリウスがやってたでしょ?」
「まぁな……」
「……どんだけヤバい奴だったんだよ……」
「んふふ、まぁ、なんだかんだで一番手強いのはセラフィナちゃんだけどねぇ。飛竜から飛び降りちゃった時は驚いたよ」
「まぁライラはセラフィナの過激派なんで……」
「あぁ、それっぽいねぇ。納得。これは勝てないなぁ」
ニコニコと楽しそうに話をしているライラとセラフィナを穏やかな笑みを浮かべてレンティスは見ていた。
この一ヶ月の間にレンティスとライラに何かあったのだろうとは思ったが、聞くだけ野暮な気がしてリュカは話題を変えた。
「そういえばダンジョンにも行ったんですよね?」
「そうそう。初めて入ったけど新鮮で面白かったよ。ユリウスもライラちゃんも流石に上級冒険者って感じだったし。魔石以外のドロップ品も幾つか手に入れたしね。僕も騎士団引退したら冒険者になろっかなぁ」
「引退予定があるんですか?」
「まぁ当分先の話だけどねぇ」
「ですよね……」
「兄さんが冒険者になったら大ダンジョンも単独踏破しそうだな……」
ユリウスが腕を組み、真剣な顔をして唸っていた。レンティスは目を丸くして少しだけ眉を下げる。
「えー?せっかく冒険者になるんなら楽しそうだしユリウスのパーティに入りたいよ。単独踏破したって全然面白くないよねぇ」
「踏破出来ないと言わない辺り流石だよな……」
「レンティス兄さんだからな……」
リュカとユリウスは腕を組んで頷きあっていると、レンティスは半眼になりじっとりと二人を見て口を尖らした。
「僕にだって出来ない事はあるよぉ。ホント、僕をなんだと思ってるんだか」
「……完璧超人?」
「それだ。兄さんが何が出来ないのか全く分からん」
「うーん……尊敬される兄を演じすぎたか……」
レンティスがガックリ肩を落とすと一拍置いて三人で笑いあう。
ようやくみんなが揃った実感が湧いて、リュカも久しぶりに心が弾んでいた。
「そういやドランさんとゼノンさんは?」
「あの二人は二週間休暇にしたよ。久しぶりにエルドリアに帰ってきたしね。ってかライラちゃん達は二人でご飯食べに行くみたいだし、僕らは僕らで飲まない?ガルディアで美味しいワイン買ってきたんだぁ」
「えっ、良いんですか?」
「勿論!僕、ユリウスとリュカ君と一緒に飲みたかったんだよね。今日を逃すとまたしばらくお遣いでエルドリアを出ないといけなくってさぁ」
「レンティスさん忙しすぎません?え、でも部下お二人は休暇なのに……?」
「んふふ、僕は僕で色々あるって事で」
「あまり聞かない方が良さそう……」
「賢明だね」
その時、二人で腕を組んだままセラフィナとライラがこちらに近づいてくる。
「ねぇ、この後は一旦研究所へ寄るんでしょう?」
「あぁ。その予定だ」
「なら早く行きましょ!美味しくご飯を食べるにはさっさと用事を終わらせるに限るわね!」
鼻歌でも歌いそうなぐらい上機嫌なライラがセラフィナと一緒に歩き出す。
リュカ達は顔を見合せて二人に続くように研究所へ足を向けた。
研究所ではリシェルがグランスロット家からの支援物資に埋もれてはしゃいでいた。
更にユリウスから渡された大量の魔石にも目を輝かせ、早速奥の部屋に向かおうとするリシェルの前に回り込んだレンティスが引き止める。
二日間の休暇で多少は目の下の隈が薄くなっていたが、リシェルの顔を見たレンティスが今から研究の再開に着手する事を良しとしなかったのだ。
再開させるなら物資を一旦全て撤収しますとにこやかに脅し、リシェルは渋々五人と共に研究室を後にした。
「ホント、グランスロット家は昔から世話焼きなんだよねぇ。そういう所が領主家としても慕われる所以なのかな?まぁ今日は大人しく帰るとするさ……」
トボトボと帰路についたリシェルを見送ると、レンティスが笑顔で振り返ってライラの方へ一歩近づいた。
「今日はライラちゃん、セラフィナちゃんとご飯行くんだよね?」
「えぇ!久しぶりだからね!楽しみにしてたの」
「楽しんできてね。あ、お酒は控えめにするんだよ」
「う……流石に分かってるわ……」
「あと僕、明日からまたしばらくエルドリアを離れるから、良ければ見送りに来てくれる?」
少しだけ屈んで目線を合わせると、レンティスはライラの髪をひと房摘んで小さく首を傾げる。
「……んんっ……ワカッタ……」
耳まで真っ赤になった顔で頷いたライラにレンティスは優しく微笑むと、摘んだ髪に口付けを落とした。
「んふふ、ありがと。……可愛いけどそろそろ慣れて欲しいなぁ。じゃあまた明日ね」
困惑しているリュカと、いつもの事だと視線だけ逸らしていたユリウスを連れてレンティスは去っていった。
後に残されたセラフィナも驚きで目を見張って真っ赤になっているライラを見ていたが、ハッと我に返りライラに声をかけた。
「ねぇ……ライラ……まさか話って……」
「…………これもあるの……」
「そっか……えっと……」
「……ここじゃちょっと……話、聞いてくれる……?」
「分かった……」
セラフィナはそっとライラと腕を組んで歩きだした。ゆっくり話をするならご飯は持って帰った方が良いかもしれないと考えていた。
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リュカ達は歩きながら屋台で色々買い込むと、そのままユリウスの家まで帰ってきた。
リビングに先程買い込んだ惣菜を広げ、レンティスが大量のワインを、ユリウスが大量のブランデーを魔法鞄から取り出した。
まずはワインを注ぎ、三人で無事の帰還に乾杯をしてグラスに口を付けた。
「うわっめっちゃいい香りする……!」
「そうでしょ?ファイフさんに教えて貰ったお店のワインだったんだけど、すごく美味しかったからさぁ」
「これは飲みやすくて良いな」
「そうそう。これつい飲みすぎちゃうんだよねぇ」
それぞれがオークの骨付き肉に手を伸ばし、一口齧ると旨味が口いっぱいに広がった。それをワインで流し込み、三人は惣菜もワインもどんどん消費していく。
ある程度お腹も満たされると、今度はユリウスの買ってきたブランデーに手を付ける。
グラスに手をかざしたレンティスは水魔法で丸く氷を作るとグラスに落とし、それにブランデーを入れた。
「あ、それ美味そうだな。俺もやろう」
ユリウスも同じように氷を作るとグラスに入れ、リュカのグラスにも同じように氷を作って渡す。
「冷えてて美味っ!度数高いけどこれは飲みやすくなってる気がするなぁ」
「そうなんだよね。これも飲み過ぎないようにしなきゃ」
他愛も無い話で笑いあっていたが、リュカはふと気になっていた事を聞いた。
「……そういやレンティスさんって、ライラと何かあったんですか?」
「えー?それ聞いちゃう?」
「いや……まぁ、パーティの仲間なんでやっぱり気になって……」
「そうだよねぇ。うん。まぁ、僕にとって大事な子だよって事で」
「あぁ……なるほど……まぁ、あれだけアピールしてたら流石に分かっちゃいますけど……」
「そうなんだよな……目のやり場に困るからせめて隠れてやって欲しい……」
「んふふ、隠れてやったら牽制の意味無いでしょ?」
「うーん……まぁ、そうかも?」
「そうなの。……あ、そういえばリュカ君、セリオン兄様から話したって聞いたけど、アストレアの研究所の話。大丈夫だった?」
アストレアの話にリュカは小さく肩が跳ねたが、呼吸整えるとレンティスに視線を向けて頷いた。
「……はい。最初は混乱しましたけど、今は落ち着いてます」
「そっか。心配してたんだ。僕とユリウスも知ってるから。何かあったら頼ってよね」
「ありがとうございます」
「うん。そういえば折角新しく弟が出来ると思ってたのに、まだそっちの話は進んでないんでしょ?セリオン兄様にしては慎重だなぁ」
「いや、トールさんが、まだ混乱してるだろうからって……」
「あぁ、トール兄様らしいね。ま、僕の中ではもうリュカ君もユリウスと同じ感じだから。僕の事は『お兄ちゃん』って呼んでくれてもいいんだよぉ」
グラスを傾けながらレンティスはニコニコとリュカを見ていた。ユリウスも小さく頷いてチーズを摘んでいる。
「いや……それはちょっと……」
片手で顔を覆ってリュカは俯いてしまったが、耳まで赤くなってしまっているのを見て、レンティスとユリウスは顔を見合わせて笑った。
「えー?残念だなぁ……。そういえばリュカ君はユリウスと同い年なんだよね?この場合、どっちがお兄ちゃんになるのかなぁ」
「どう考えても俺だろう。リュカの方が誕生日も遅いし」
「……誕生日は俺の方が遅くてもユリウスは末っ子感があり過ぎると思う」
「そんな事は無い」
「ある」
「無い」
「あるだろ」
「はぁ?どこが!」
くだらない言い合いを始めた二人を見て、レンティスはお腹を抱えて笑った。
「あっはっはっはっ!!不毛な争い過ぎる!!」
「笑い事じゃないぞ」
「そうですよ……」
「んふふふ……どっちも可愛い僕の弟枠でいいじゃん」
三人が顔を見合わせると一瞬沈黙が落ち、すぐにドッと笑いがおきた。
酒の影響か、グランスロット家の兄弟の影響か。
改めてこのグレイスロウにいたいとリュカは強く想った。
久しぶりの日常回。
みんなでわちゃわちゃしてるだけでした。
隙あらば大事な人達とコミュニケーションを取りたいレンティスお兄ちゃん。




