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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
3章 エルドリア王国
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97話 リュカの過去⑦

 ルミナール王国を出て南にあるグランヴェル帝国へ向かった。

 この大陸にある国の中で最大の国土を誇るこの国の南東に目的地のエルドリア王国がある為だ。

 

 俺はひたすらグランヴェル帝国の街や村を渡り歩いていった。

 時折街のギルドに立ち寄ると依頼を受けて路銀を稼ぎ、また南東へ移動をしていく事を繰り返して進む。

 僻地の村ではヒーラーだと知られ歓迎される事も多かった。町医者の様な仕事をして一泊ほど泊めてもらう。

 だが時々村長の娘を薄着で夜中に宛てがわれるような歓待もあり、それに苛立ちと嫌悪感しか湧かず、そのまま村を後にした事もある。

 

 旅の途中で出会う人達はいい人もいればこういった“要らない世話”を焼かれる事もあった。

 だが悪意のある人というのは少なくて、圧倒的に世の中は善意で溢れているのだと感じる。

 

 戦争の無い日常は人々が活力に溢れ、笑顔が溢れ、とても輝いて見えた。


 そして、色々な街を経由して思ったのは、どこの街や村、ダンジョン周辺でさえも、医師や光魔法使いの神官が不足気味だという事だ。

 

 そうして旅を続け、ようやくエルドリア王国の最南東、グレイスロウに辿り着いた。アストレア王国を逃げ出して、一年半が過ぎた頃だった。

 初めて街に足を踏み入れた時に見た多種多様な人の多さ、活気に溢れた人々の声に胸が震えたのを覚えている。

 

 グレイスロウに着いて直ぐに冒険者ギルドに向かった。三階建ての大きな建物にも驚いた。

 その時の受付の女性、マイアさんにタグを確認して貰った後、他国で上級冒険者に上がってるという事で、グレイスロウのギルドマスターが直接確認をするとの話があった。


 俺は応接室に案内され、そこにいたグスタフさんは今まで出会ったギルドマスターの中でも一番圧が強く、自然と背筋が伸びた。

「ラインハルトからは聞いているが、ヒーラーで深層に潜り、単独でリッチを討伐したそうだな。それで上級に上げたと言っていたが間違いないか?……そうか。なら直接確認させてもらおう。着いてこい」

 着いていった先はギルドの訓練所の一角で、俺はグスタフさんと模擬戦を行う事になった。

 模擬戦と言っても何度か打ち合い、向こうが放って来る土魔法を守護結界で防ぐだけの簡単な試験のようだった。

「実力は上級のままで問題無さそうだな。槍術士(ランサー)で登録も出来そうだがどうする?……治癒士(ヒーラー)のままか。構わん。グレイスロウで活動するにあたって他に聞きたい事はあるか?」

 

 そう聞かれた俺は、もし可能ならダンジョン前で診療所を出して、ヒーラーとして何か出来る事がしたいと言うと、グスタフさんは腕を組んで少し視線を落とした。

 

「……ダンジョン前に診療所か。ギルドとしてもそれは助かる提案だな。ならばこちらから不定期の指名依頼として出す。診療所を開いた時はギルドから報酬も出そう」

  

 こうして、俺はグレイスロウでの冒険者活動を始めた。

 大きめの簡易テントや簡易ベッドも購入し、午前中に受けれる依頼をこなし、冒険者たちがダンジョンから出てくる時間帯には簡易診療所を開設する。

 最初は突然出来た診療所を訝しげに見ていた冒険者達だったが、開設して十日も経たない頃、若い新人冒険者のパーティが、血だらけになった獣人の女性を抱えて駆け込んで来た。

 

「すみません!!ここ診療所ですよね!?お願い!!ライラさんを助けて!!」

 

 ポロポロと涙を零しながら震える手で抱えられた女性は失血しすぎて意識を失っていたがまだ息があった。

 俺はその場で直ぐに治癒魔法をかける。傷が塞がり、苦しそうだった呼吸も安定した。もう大丈夫だと声をかけると新人冒険者達はその場で更に泣き出してしまう。

 俺は未だ意識のない女性を抱えて簡易ベッドに寝かせると、冒険者達に事情を聞いた。

「私達、下級冒険者に上がる為に早く実績が欲しくて……少し、自分達の実力より上の階層まで潜っちゃったんです……」

「ライラさんに……そこの獣人の女性なんですけど、前から実力を見誤るなって忠告は受けてて……」

「でもやっぱり試したくなって、パーティで人数もいるし余裕でクリア出来てしまって……それで調子に乗っちゃって……どんどん下層に潜ってたら、二十階層のボスで死にかけちゃって逃げてたら……」

「たまたま、他の依頼で通りかかったライラさんが私を庇って攻撃を受けちゃって、当たり所が悪かったのか血が…止まらなくて……」

「それでも無理やり動いてボスを倒してくれて、俺達を叱った直後にライラさん、倒れてしまって……」

「ポーションも全部切らしてて……止血も出来ないままここまで戻ってきたんですぅうぅう」

 そこまで言うとまたしても泣き崩れてしまった新人冒険者達に声をかけようとしたその時、ベッドで寝ていたライラがゆっくりと起き上がった。

 

「あんた達何泣いてんのよ。ってかここ何処?」

 

「ラ……ライラさぁあぁああん!!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!生きてて良かったぁぁああ!!」

 バッと飛びつこうとした新人達を押さえて、俺はライラに事情を説明した。

「ふーん。そっか。久しぶりにヘマしちゃったな。そういやあんた、あんまり見ない顔だよね。……って上級冒険者!?……最近グレイスロウにねぇ、なるほど」

 ライラはベッドから降りると小さく頭を下げた。

「助けてくれてありがと。私ライラ。あんたは?……そっか、リュカね。分かった!しかしめっちゃ腕が良いのね。傷跡も残ってないし。みんなにもこの診療所の事、教えておくわ。じゃあまたね!ほらあんた達、ギルドに報告しに行くよ!いつまでも居座ってたら迷惑でしょ!?」

 さっきまで死にかけてたと思えないほど元気に新人冒険者達を引き連れて去っていったライラのお陰か、これを機に診療所を利用する人も増えていった。


 グレイスロウでの日々はとても充実していて、時々ダンジョンにも潜り、単独で四十階層まで潜ったり、簡単な採取依頼を受けてみたりと徐々に顔見知りも増えていき、あっという間に半年が経とうとしていた。


 そして、セラフィナに出会ったはぐれモンスターの件、そしてユリウスやライラともパーティを組む切っ掛けになった、ダンジョンの調査依頼があった。


 こうして振り返ってみると、俺は本当に旅をしてから出会う人に恵まれていたと改めて思う。


 グレイスロウで大切な人達に出会えたのも奇跡の様なものだ。


 正直、俺は神様なんて信じていないけれど、今ではみんなに出会えた事を少しだけ感謝している。

今のリュカになるまでの話でした。

僻地の村はとにかく若い娘を宛がって置けばいいんだという精神です。

娘の方も、顔が良くて優しい医師候補をあわよくばという気持ちもあったと思われます。

やり口が地雷過ぎてリュカには全く相手にされなかったという。


ライラとは指名依頼が入るまでの間もたまに会ってました。主に新人達の付き添いで。

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