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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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11話 作戦開始

 壁の向こう側には、異様な光景が広がっていた。

 キメラが三十二体。牛のような重い体躯と濁った視線を持つカトブレパスが十二体。

 そして、その奥。二つの頭を持つ巨大な黒い狼――オルトロスが、静かにこちらを見下ろしていた。

 次の瞬間、壁が崩れた。

 石積みの壁が内側へ吹き飛び、砕けた石片が床を転がる。その隙間からユリウスとライラが同時に飛び込んだ。二人は左右に分かれ、広い空間へ一気に踏み込んでいく。

 侵入者に気づいたキメラたちが一斉に動き出す。

 鋭い爪を振り上げて飛びかかってくる個体を、ユリウスは大剣で受け止め、そのまま力任せに弾き飛ばした。続けざまに踏み込み、横薙ぎの一閃で二体目の身体をまとめて押し返す。重い刃が鱗と骨を叩き、キメラたちは後方へと崩れていく。

 一方のライラは正面からは受けない。低く身を沈めて走り抜け、風魔法で足元の空気を押し出しながら身体を滑らせるように移動する。追ってきたキメラの足元に土魔法で突起を作り、体勢を崩したところへ鞭を叩き込む。さらに短剣を抜き、すれ違いざまに急所へ刃を滑り込ませた。

 二人は戦いながら、少しずつ位置を調整していく。

 

――作戦会議の声が、リュカの頭に蘇る。

『まず、壁を壊して俺とライラが左右に分かれて突入する』

『リュカは侵入口前で守護結界を張ってくれ。これは二人が入れるだけのサイズでいい』

『セラフィナはリュカの後ろで待機』

 

 リュカはその場で聖槍を握り直す。壁の穴の前に立ち、守護結界を展開すると薄い緑色の光が空間に広がり、半球状の膜が侵入口を覆った。そのすぐ後ろに、セラフィナが静かに浮かんでいる。風魔法で身体を支え、地面からわずかに浮いたまま戦況を見つめていた。

 内部では、ユリウスとライラがさらに動きを速めていく。

 二人は互いに目配せすると、同時に土魔法を発動させた。床から石壁がせり上がり、左右から通路のような形を作っていく。逃げ場を失ったキメラたちは自然と中央へ押し出され、次第に侵入口の前方へ集まり始めた。

 獣の唸り声が重なり、密集した群れが押し合う。

ユリウスが叫んだ。

 

「今だ、セラフィナ!」

 

――作戦会議の続きがリュカの頭に浮かぶ。

『俺たちが出来るだけ突入口の前にキメラを集める』

『合図したらセラフィナ、全力で範囲攻撃魔法を放ってくれ』

『放った後はマナポーションですぐに回復』

『行けるな?』

 小さく頷くセラフィナの姿。

 

 リュカ後ろでセラフィナがゆっくりと息を吸い込む。そして静かに呟いた。

炎嵐(フレイムテンペスト)――」

 次の瞬間、空間が炎に包まれた。

 風に煽られた炎の渦が突入口の前へ集中し、密集していたキメラの群れを一瞬で飲み込む。燃え上がる火柱の中で、獣の影が次々と崩れていく。鱗も毛皮も関係なく焼き尽くされ、身体は黒い灰へ変わっていった。

 炎の嵐は数秒だけ荒れ狂い、やがて静かに消えていく。

 その間、リュカは結界を維持し続けていた。

 

――さらにその前の会話が思い出される。

『リュカ、守護結界は君達二人分と同時に俺とライラにも張れるか』

『俺の目が届く範囲ならいける』

『なら突入と同時に俺たちにも張ってくれ。セラフィナの魔法が終わるまで』

 

 炎が収まった後。まだ立っていたのは、薄い守護結界の光をまとったユリウスとライラだけだった。当然、二人に傷はない。

 そして周囲には黒い灰が広がっていた。キメラの群れは消えている。

 さらに、その炎に巻き込まれていたカトブレパスも大きく数を減らしていた。巨大な身体を引きずりながら立っている個体は、すでに瀕死のものがほとんどで、火傷はあれど五体満足で残っているのは四体だけだった。

 

――再び、ユリウスの声が記憶の中で響く。

『セラフィナの魔法で殲滅出来れば僥倖、倒しきれなくても間違いなく重傷になる』

『その瞬間、一気に叩く』

 

 炎が消えると同時に、四人が動いた。

 ユリウスが最初に踏み込む。大剣を振り上げ、瀕死のカトブレパスの首元へ叩き込む。重い刃が骨を断ち、巨体が横倒しになる。

 ライラは別の個体の背後へ回り込み、鞭で視界を奪いながら短剣を突き立てる。毒のような息を吐こうとしたカトブレパスは、声を出す前に崩れ落ちた。

 セラフィナの魔杖が赤く光る。直後に一体の脳天を炎弾が貫き、こちらに向かおうとしていた動きのままその場に倒れ込んだ。

 リュカが素早く踏み込み、胸元目掛けて聖槍を突き出す。槍先が深く心臓を貫き、巨体が静かに倒れた。

 戦場が一瞬、静まり返る。だがその静けさは長く続かなかった。

 空間の奥から、身がすくむような咆哮が響いた。二つの頭を持つ巨大な狼――オルトロスが、ゆっくりと立ち上がる。

 リュカの手の中で聖槍の宝石が淡く光った。

 彼は一歩前へ出て、仲間たちを見渡す。そして静かに守護結界を張り直した。薄い光が四人を包み込む。

 まだ戦いは終わらない。

高火力魔法使い。

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