94話 リュカの過去④
冒険者になってから。
俺はクザールのギルドで冒険者登録を済ませると、早く階級を上げる為にひたすら依頼を受けていった。
採取依頼や街の整備である程度金を貯めると中古品の槍を買い、討伐依頼と素材回収も受けて、半月で下級冒険者まで上がる。
その次にダンジョンでの大規模討伐依頼も参加して、活動実績を貯めていく。
近場への護衛依頼も受け、少しずつ近隣の様子を確認しながら冒険者活動をこなしていた。
正直、リカルバン王国からは早く旅立ちたかったが、ある程度冒険者として実績を積んでおかなければ、次の国へ行った時にまた新人からやり直しになってしまう。
最低でも中級冒険者に上がらなければと、随分と無茶をしていたと思う。
そんな時に声をかけてきたのが上級冒険者の女性だった。腰から下げた剣が銀色に光っており、出で立ちも前衛職を思わせる戦士のような装備だ。
「君が最近登録したばかりで下級の依頼を荒らしてる奴かい?」
荒らしている意識は無かったが、長期間放置されてる依頼を片っ端から片付けてるだけだと答えた。
「ははーん、なるほどねぇ。それをきちんとこなしてしまうものだから、同じ階級の子たちから妬まれてるだけか。下級冒険者の依頼じゃあ、君の実力では簡単すぎるのかな?……まだ下級だし受けれる依頼が無い、ねぇ。それは確かに」
少し考えるように腕を組んだ女性は顔を上げると口角を上げた。
「君、ヒーラーなんだろう?ならアタシのとこのパーティに助っ人で来ないかい?丁度クザールにある一番深いダンジョンに潜るんだ。結果次第では中級に推薦してやるよ」
それは願ったり叶ったりの申し出で、俺は二つ返事で助っ人を引き受けた。
女性はサンドラと名乗り、サンドラ含めて女性が三人、男性が二人のパーティで、戦士、重戦士、斥候、射手、魔法使いと、バランスの良いパーティだった。
「下級冒険者?あぁ、ヒーラーか。足引っ張んないでよね」
「サンドラが連れて来たんなら大丈夫だろ」
「ごめんねぇ、うちの魔法使い気が強くてさ」
「ねぇそれよりよく見ると可愛い顔してるじゃん!いくつなの?…二十歳になったばかり?やだ、六個も歳下?まぁイケるけどぉ」
「盛るな!馬鹿どもが!助っ人を困らせるんじゃないよ」
「サンドラが怒ったぁ!」
「私は何もしてないわよ!」
冒険者のパーティがこんなにも気安い関係な事に驚いた。上級冒険者でリーダーなんて、上官みたいなものだと思っていたのに。
「んな訳あるかい。冒険者は基本的にはみんな対等の関係なんだ。リーダーなんて、ダンジョン内での指示出しに過ぎないんだから」
「そーそー。サンドラなんて生活力皆無だもんねぇ」
「どうやったらあんなまずい飯作れるのかが分からない」
「今までよく生きてきたよね、サンドラ」
「お前らうるさい」
くだらない話で言い合いをするサンドラ達を不思議そうな顔で眺めていると、重戦士の男性に肩を叩かれた。
「ま、冒険者なんて訳ありの集団だから。君もそんな気負わなくても大丈夫だ。しばらくよろしくな」
顔合わせをしたその日からクザールのダンジョンに潜り始めた。ここのダンジョンは最大で四十階層あり、サンドラ達のパーティはその一番深い階層にある鉱石の採取依頼を受けているとの事だった。
サンドラは流石に上級冒険者なだけあって、戦闘での判断も早く的確だ。他の四人も一言、二言交わすだけで指示通りに動き、モンスターを屠っていく。
俺はその連携を感心して見ていたが、先に進むうちに予想外のモンスターの襲撃を受けた。
魔法使いに迫る敵の魔法を守護結界で防ぐと一歩踏み込んで魔法を放ってきたやつを薙ぎ払い、地面へと叩きつけて確実に仕留める。
自分の役割を無事果たせたかと振り返ると、サンドラ達が呆気に取られた様な顔をしていた。
「……速いな」
サンドラの低く呟く様な声に、倒したらマズかったのかと少し焦ると彼女は豪快に笑った。
「はっはっはははっ!ダンジョンでモンスターを倒さないなんて有り得ないだろ!こりゃあ下級冒険者にしとくなんて無理だわ!よし!サクサク先に進んで依頼を終わらせよう。君がいれば時短出来そうだ!」
そこからは配置を変えて俺は前衛になり、重戦士と共に現れるモンスターを倒しながら先へ進む。
少しでも怪我をしたら即治し、魔法には守護結界を張って対処。
戦場でやっていた事と対して変わらないが、モンスター相手というだけ数倍も気楽なものだった。
数日後、三十階層の安全地帯で野営をする事になり、サンドラに代わって俺が炊き出しを作る事になった。
「頼むよぉ。サンドラに作らせたらマジでやる気削がれるんだよぉ」
斥候の男性に半分縋るように頼み込まれ、断りきれなかった俺は預かった材料を煮込んだだけのスープを作ると、固く焼いてあるパンを小さめに切り、チーズもあったのでそれも薄く切って添えた。
「うわっ!このスープ美味い!なんで!?今までと同じ材料使ってるんだよな?」
「パン浸して食べたら最高ねぇ。チーズもちょっと溶けてすごく食べやすい」
「君、料理も作れるんだねぇ……。強いし顔も可愛いし、一体何が出来ないって言うの?」
「マジで頼み込んで良かった……!生き延びた!」
「……アタシもこのぐらい作れるし……」
「いや、サンドラは無理」
「いい加減自分が料理出来ないって認めなさいよ」
飯を食べながらまたくだらない言い争いを始めたサンドラ達をぼんやりと眺めていた。
何気ない会話でこんなにも楽しいやり取りが出来る事が、不思議と可笑しくて、自然に口角が上がっていた。
元々実力のあるパーティだった為、一週間もすれば最下層までたどり着いた。目当ての鉱石を手に入れ、転送陣で上まで戻って来る。
そしてギルドに報告を済ませて助っ人業務はそこで終了となった。
「思っていたよりも早く依頼が終わって助かったよ。君本当に強かったね。最初の約束通りギルドに推薦しておいたから。……ハハッ礼なんて要らないさ。それより中級になったらうちに正式に来ないかい?……そうか……旅の途中なら仕方ないね。残念だ」
「あーん、ホント残念……作ってくれた炊き出しすごく美味しかったからパーティ組みたかったのにぃ」
「お前の場合彼の顔目当てなだけだろ」
「半分はそれでも半分ホントだもんっ」
「キモいから可愛こぶんな」
「キーーーーー!!これだからうちの男共は!!分かって無いわ!!」
「じゃあまたな。クザールにいる間に酒でも飲みに行こーぜ」
こうして、俺はサンドラの推薦もあってクザールギルド史上最速で中級冒険者に上がることとなった。
目的を達したので、ここに留まる用事はもう無い。
旅支度を整えると、俺は次の国、リカルバン王国の東側にあるルミナール王国を目指す事にした。
冒険者とは、パーティとは何かを知る機会になったクザールでの日々。
サンドラ達のおかげで助っ人をする事に抵抗が無くなったリュカでした。




