93話 リュカの過去③
放浪の旅編。
戦場から逃げ出した俺は、アストレア軍と分かる装備は全て捨て、山中の道無き道を不眠不休で走り抜ける。
少しでも遠くへ。
仲間を、ローランドさんを裏切った後ろめたい気持ちを振り払う様に、何もかも忘れたくて限界まで走り続けた。
アストレア王国に隣接している国は現在交戦中である東側に位置するサーフェス連邦、南東側に位置するリカルバン王国、そして南側のダージャ王国の三国。
俺はここ数年、アストレアとは停戦中であるリカルバン王国へ向かう事に決めて、南東を目指していた。
三日程経った頃、流石に俺は限界を迎えかけていた。
その時、何処からか叫ぶような声が聞こえた。俺は気づかれないように木々の間から近づいていく。
そこは交易の為の道で、獣型の魔物の群れに襲われている商隊らしき馬車を発見した。
魔物達は荷台にへばりついては爪や牙を立て、商人の男性二人が剣を振り回して必死で馬を守っていた。
「くそっ!!この辺りは魔物がいないんじゃなかったのか!?」
「おお親父さん!!どうするんですか!!このままじゃ!!」
「馬だ!とにかく馬を守れ!!」
「俺たち二人でどうやって!!……あっ!!!」
若い商人の男性が武器を取り落とした。
その隙に魔物が彼に迫って行った時、俺は無意識に足元に転がっていた石を拾って魔物に向かって思いっきり投げつけていた。
投げた石は魔物の横っ面に命中し、そのまま魔物は地面に転がっていく。
俺はそのまま飛び出して、男性が取り落とした剣を拾うと魔物を淡々と切り捨てていった。
ふと自分の荒くなった呼吸音が耳に入った。
辺りを見ると動かなくなった魔物と、ポカンと口を開けたまま腰が抜けたように寄り添って座っている商人が二人、残っているだけだった。
「……あの……助け……てくれて、ありがとうございます」
声をかけられて振り向くと、ギョッとしたような顔をされた。
「あの……顔色、悪いですけど……大丈夫ですか?」
俺は冒険者になるため田舎から出てきたけど、道に迷ってしまって困っていたと咄嗟に嘘をついた。
「それなら幸い馬も無事ですし、荷馬車の中で良ければギルドまで乗っていってください!」
三日三晩走り続けていた俺は既に限界を越えていて、商人の厚意にお願いします、と返事をした後、意識を失って倒れてしまった。
「お兄さん、お兄さん。着きましたよ!」
肩を揺すられて意識が浮上した時には、リカルバン王国の首都クザールに到着していた。
商人達は、あの場で倒れた俺をわざわざ荷馬車に乗せて運んでくれたようだ。
彼らが魔物に襲われてから既に一日以上経っていたらしい。
「お兄さん、死んじゃったかと思ってビックリしましたよ!ずっと寝てるし……。あの後は魔物に遭遇しなかったんで、大丈夫でした!」
「お、兄ちゃん起きたんか!あの時はありがとなぁ。本当に助かった!仕入れからルミナール王国まで帰る途中だったんだが、まさか魔物が出ると思って無かったから危なかったぜ……。でもあの魔物もちゃんと使える素材は全部回収してきてやったんだ。荷馬車の帆を張り直さなきゃいけなくなったからな!」
何とも商魂逞しい事だと感心していると、商人の親父さんが俺に小袋を手渡してくる。どうやら硬貨が入っているようだった。
「後これ、命を救って貰った礼にもならんかもしれないが、宿代にしてくれよ。……はぁ?助けて貰っておいて何も礼をしないなんて商人が廃るわ!貰いすぎなわけあるかよ!少ないぐらいだ!こっちは命も馬も助けてもらったんだぞ!」
「そうですよ!……あ、お兄さん、冒険者になるんでしょ?なら装備とか武器とか食べ物とか、またうちで買ってください!先行投資ってやつです!」
「それだ!たまにはいい事言うじゃねーか!」
あの時、殆ど無意識に身体が動いただけだった。
人と関わるといつアストレアの追手に見つかるか分からないのに、どうしても、魔物に襲われている人を見捨てるという選択肢にはならなかった。ただそれだけだったのに。
自分の行動がこんなにも人に感謝されるなんて思っていなかった。
俺は硬貨の入った小袋を強く握りしめて小さく頭を下げて礼を口にした。
「いいって事よ!それにしても兄ちゃん強かったなぁ。あっという間に魔物の群れ、倒しちまうんだもんな」
「ホントかっこよかったですよねー!お兄さん、剣士なんですか?……え、ヒーラー?槍の方が得意?……ん?ちょっと意味が分からないです」
「ヒーラーか。冒険者では結構貴重な戦力だぞ。こりゃあ引っ張りだこになりそうだ!」
「お兄さん、すぐ上級冒険者まで上がっちゃいそうですよね。頑張って下さい!」
「じゃあな、ルミナール王国まで来る事があったらうちの店に寄ってってくれ!兄ちゃんになら安く売ってやるぞ」
そうして気のいいルミナールの商人達はクザールを旅立って行った。
故郷を離れて、最初に出会ったのがこの商人達で本当に良かったと思う。
俺はそのまま踵を返すとクザールの冒険者ギルドへと足を向けた。
ここから冒険者になります。
冒険者タグは世界中どこにでも行ける身分証の一つなのです。




