91話 リュカの過去①
ハッと目を覚ましたリュカは勢いよく身体を起こした。
辺りを見ると夕方より少し前なのか、まだ日は暮れていない。
「……ビックリした……」
声がして後ろを振り返ると、優しく微笑んでいるセラフィナがいた。
「……俺、寝てたな……」
「うん。よく寝てた」
「脚大丈夫か?結構寝てたよな?」
「大丈夫だよ。こうやって時々浮かしてたの」
そう言うと、セラフィナは風魔法で少しだけリュカの身体を浮かした。
「え、なんか浮いてる……凄い」
「だから大丈夫だった」
どうだ!と言わんばかりに得意げなセラフィナを見て思わず吹き出してしまう。
「ははっ、本当にセラフィナは凄いなぁ」
リュカは身体を解すように伸びをした後、セラフィナの隣に座り直して彼女と手を繋ぐ。
「なんかスッキリしたわ。やっぱり寝るのって大事だな」
「うん。良かった」
「せっかく休暇貰ったのに、時間無駄にしちゃってごめんな」
「ううん、無駄じゃなかったよ。またリュカの事知れて嬉しかった」
「俺の事?」
「うん。寝てると幼く見えるんだな、とか。髪の毛サラサラなんだな、とか。まつ毛意外と長いな、とか」
「……なんか改めて言われると恥ずかしいな……」
「私ね、こんな風にリュカの事、もっと知りたいって思う」
「もっと?」
「うん。小さい時ってどんな子供だったのかとか、リュカの先生との事とか。グレイスロウに来るまでの道中の話とか。どんな事でも知れたら嬉しいし、お話したいって思うの」
「……そんな楽しい話じゃないよ?」
「うん。それでも良いよ。聞きたい。……やっぱりまだ、昔の事、話しづらい……?」
繋いだ手に少しだけ力を入れて、セラフィナは横に座るリュカを見上げた。
少し踏み込みすぎたかとセラフィナが引こうとした時、リュカが口を開いた。
「……まぁ、もう今更隠したところでって感じかぁ……。でも外ではあまり話せない事ばっかかも」
「そっか。……じゃあうち帰ろう」
そう言うとセラフィナは立ち上がり、リュカの手を引っ張った。
思わぬ提案にリュカの方が落ち着きを失ってしまう。
「えっ……!?そ……れはちょっとマズくない?」
「……?なんで?その方がゆっくり話せるよ」
「……うーー…ん……まぁ……いいか……」
純粋な瞳でこちらを見ていた彼女を見て、リュカは少しだけ迷ってそう呟くと立ち上がり、セラフィナの家へ向かって歩きはじめた。
あっという間にセラフィナの家に着き、促されて初めて部屋の中へ入る。いつも扉の外までの送り迎えで済ませていたのに不思議な気分だった。
「あんまり広く無いけど。そこ座ってて」
指をさした先にあったのは小さなテーブルと椅子が一脚。リュカはそろそろと椅子を引き、そこへ腰掛けた。
しばらくすると、セラフィナが種類の違うマグカップを両手に持って現れ、それを一つテーブルへ置いた。
ふわりと漂う香りは紅茶のようだったが、りんごの香りが強い。不思議そうな顔をしていたようで、セラフィナが目を細めて笑う。
「これね、りんごの皮と一緒に煮出すとこんな感じになるんだよ」
「へぇ、凄くいい香りするな」
「……昔、お母さんが作ってくれたの、思い出したから」
「セラフィナの思い出の味なんだな」
「うん。はちみつ入ってるから甘いよ」
「……うん!美味いな、これ」
一口飲んで目を輝かせているリュカを見て、セラフィナは笑みを深めた。
セラフィナはベッドに腰掛けると、リュカの方へ顔を向ける。
パチッと目が合うと、リュカは少し気まずそうにテーブルへカップを置いた。
「……どっから話そうかな?」
遠い記憶を探るように、リュカは顎に手を当てて視線を下に落とした。
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物心ついた頃には、既に孤児院で過ごしていた。周りにいる子供も赤子から十二歳までの戦争孤児や家の都合で捨てられた子供等、様々な理由でここにいる。
一番古い記憶は多分三歳か四歳ぐらいの時、騎士団の人が慰問で行った炊き出しのスープに、干し肉が刻んで入ってた事だ。そのスープが驚く程美味かった事だけ鮮烈に覚えている。
俺はとにかく肉が食べたい一心で炊き出しを作っていた団員に話しかけた。どこへ行けばこの肉がたくさん食べれるのか、団員を見上げながら高揚しながら聞いたと思う。
すると、深い森のような深緑色の髪のお兄さんがしゃがんで目線を合わせながら答えてくれた。
「お、坊主、美味かったのか?え、まだ四歳か。そうだなぁ…後一年したら訓練所に通える歳になるな。その時になったらかな」
そう言って手を振って去っていった団員が、当時医療班で既に活躍していたローランドさん、後の俺の先生になる人だった。
五歳の歳になり、騎士団の訓練所へ入隊した俺はそこで健康診断の為に診察で来ていたローランドさんと再会した。
「あ、お前、孤児院の坊主か!リュカっていうんだな。俺は医療班のローランドだ。まさか本当に入隊してくるとは…大変だぞ?えっ?肉食いたいから頑張る?はっははは!そうかそうか。じゃあ頑張れよ」
訓練所ではひたすら体力作りに励み、素手での格闘術、剣や槍の使い方を学んでいく。魔力制御の訓練も欠かさずあった為、毎日誰かが医務室へ運ばれていた。
訓練の無い日は勉学の時間だった。文字や算術、アヴァロライア大陸にある国やアストレア王国の歴史、そして聖神教の教典の暗記。だが俺は内心、光魔法至上主義のこの宗教がどうしても受け入れられないまま月日が過ぎていく。
入隊してしばらく経ち、俺は十二歳以下の訓練生の中でも上位者と呼ばれる位置をキープしていた。
何故なら上位者に配給されるご飯は一般の訓練生よりも少し豪華だったからだ。
だがまだ十歳にも満たない成績上位者への当たりはキツく、同期や先輩からも随分と煙たがられていたが、そんな事はどうでも良かった。とにかく美味い飯を食べたくて必死で訓練をこなしていただけだったから。
そして十歳になったばかりの俺を含めた成績上位者数名が、軍の補給部隊へ配属された。
後方支援といえど初めての戦場の空気に触れた時は身体中一気に鳥肌が立ち、数名その場から動けなくなる者もいた程だ。
乗馬や馬車の操縦を覚え、物資をスムーズに届けていたある日の事、戦争を行っていた隣国から補給部隊が急襲を受けた。
その時に俺と同時期に配属された歳上の同期が目の前で矢を射られてそのまま倒れた。嫌な奴だったけど死んで欲しいなんて思った事は無かったのに、呆気なく儚くなってしまう。
同じ補給部隊の大人達も必死で抵抗するが次々と倒れていく。
「リュカ!!お前が一番身軽だ!!本隊に伝えろ!!」
部隊長がそう叫ぶと、他の隊員に馬に無理矢理乗せられた。矢の雨が降る中、補給部隊壊滅の知らせを届けに馬を走らせていった。
自分は無力で、ただ生かされただけの子供だったのだと、回収された部隊長と同期達の遺体の前でしばらく項垂れていた。
その後、俺は医療班への異動を言い渡された。
十二歳になったばかりの冬、前線に程近い場所にある天幕の中で、俺はローランドさんと再会する事になった。
過去編。
掻い摘んでの情報は出していたけど、ようやく詳細を語ります。
リュカの先生も登場。




