89話 改めまして
明け方になり、ライラはうっすら目を覚ますと宿の天井が見えた。
ボーッとする頭は昨日の出来事を思い出していた。
(……昨日は楽しかった)
(レンティスさんといっぱい喋ったな)
(おばちゃんとこでご飯食べて、その後お酒飲んでそれから……)
(それから……?)
酒場で自らが起こした醜態を思い出して一気に顔に熱が集まり、勢いよく身体を起こした。
(ってかここ私の部屋じゃ無い!一体何処で寝て……)
ふと横を見ると、ソファで横になって目を瞑っているレンティスがいた。
声にならない悲鳴をあげて、布団を頭から被り、混乱する頭を必死に働かせる。
(えっ!?待って、私から彼に無理矢理口付けしちゃって、それから……たしなめられて……それから……)
『そっちがその気なら、もう遠慮しなくていいって事だね?』
レンティスからの情熱的な口付けを思い出し、恥ずかしさで悶えてしまう。
(……頭の中が凄いふわふわしちゃって……だって、あんなに口付けが気持ち良いなんて思わないじゃん……)
『順番、間違っちゃったけど。好きだよ、ライラちゃん』
不意にレンティスの声が頭の中で響き、身体中の血が沸騰しているんじゃないかと思うぐらいには顔が熱い。
それに、自分はなんて返したのか。
……好きですって返したと思う。……多分。
お酒と、口付けと、腕の中の温もりのコンボで、そのまま眠ってしまったんだと思い出し、彼がここまで運んでくれたのだとようやくライラは理解した。
(なんたる失態を……しかもベッドまで占領して……)
ライラは布団から顔だけ出すとレンティスを見た。眠っているのか、未だ目は開いていない。
(……本当に綺麗な顔ね……)
そろそろと布団から抜け出すと、ライラはそっとレンティスの顔を覗き込んだ。
次の瞬間、ライラの身体はグルっと回り、ソファに優しく転がされる。
驚いて目を開けると目の前には爽やかな笑顔のレンティスがいた。
「おはよう、ライラちゃん。昨日の事はちゃんと覚えてたみたいだね?頭痛くない?大丈夫かな?」
「あぁー……もう醜態晒し過ぎよ……恥ずい……」
「んふふ、二日酔いにはなって無さそうだねぇ。良かった」
「ホントにすみませんでした……忘れて……」
「えー?忘れる訳無いよね?あんなに可愛い事言われて、最後まで我慢してた僕を褒めて欲しいぐらいなんだけど?」
「うぅ……もう無理……」
ライラは顔を隠すようにソファで丸くなってしまった。
「ねぇ、ライラちゃん」
耳元で名前を囁かれ、肩を震わせて少しだけレンティスの方へ顔を向けた。
「僕もう遠慮しないからね」
そう言うとレンティスは軽々とライラを抱き上げて自分の膝の上に乗せた。視線が絡むとライラの顔が一気に赤くなるのが良く見える。
「改めて言っとくけど。ライラちゃんが好きだよ」
ライラは息を呑んで口をつぐんだ。心臓の音がやけに響いている。
「誤魔化したりしないで。僕の事、好き?」
真っ直ぐ射抜くようなレンティスの視線に、鼓動が耳の奥で響くぐらい、大きな音を立てていた。
もう、酷く醜態を晒した後じゃないか。あれ以上恥ずかしい事なんてきっと無いはずだと、ライラは腹を括った。
「……好き……」
ライラも真っ直ぐ見返して答えた。そっとレンティスの頬に手を添える。
「貴方の、たくさん気遣ってくれる優しい所も、一歩引いて見守ってくれる所も……好きです……」
「嬉しいよ。良かった」
「…………後……レンティスさんの顔が……めっちゃタイプです……」
絞り出すように真顔でそう告白したライラを見て、レンティスは一瞬驚いたような顔になったが、楽しそうに声をあげて笑った。
「あっはっはっはっ!ならこの顔に産まれて良かったよ!もうホント、ライラちゃんって素直で面白いよねぇ!」
「……今笑う所だった?」
「んふふ、僕が思ってる以上に斜め上に行き過ぎてて面白過ぎる」
「……なんか、それって私が凄く馬鹿みたいじゃない」
「何言ってるの。可愛いって事だよ」
レンティスはライラに軽く口付けを落とした。突然の事に肩が跳ねるライラを見て、レンティスが楽しそうに笑う。
「昨日、あんなに積極的だった子と思えないねぇ」
「うぅ……ホント忘れて……」
「それは無理かなぁ。あーいう感じもたまにはいいよね?」
「あぁー……もう……ホント……悪いのに捕まっちゃった……」
「諦めて捕まってて。目一杯大事にする」
「…………はい……」
「ライラちゃんは可愛いねぇ」
「……レンティスさんはずっとかっこ良くて……なんか悔しい」
「んふふ、ずっとそう思われるように頑張るね」
「それ以上頑張らなくていいわよ……私の心臓が持たないわ……」
レンティスの指がライラの頬の輪郭をなぞり、顔を上げさせる。
目が合い瞳を良く見ると、レンティスの青い瞳の奥に深い青色が混じっていて、まるで底の見えない深海のようだとライラは思った。
(空と海みたいな瞳なのね……)
じっと見ていると、ゆっくりと近づいてくるのが分かった。
(あ、溺れる……)
そう思った瞬間、唇を塞がれて一瞬息をするのを忘れる。本当に深海に沈んだような錯覚が起きた。
彼から贈られる口付けは、ゆっくりと内側に沈み込んでいくようで、ライラの力が徐々に抜けていく。
(なんでこんなに気持ち良いの……?)
唇が離れると、力が入らずにレンティスの胸元へ崩れ落ちてしまう。
「……ライラちゃん?どうした?」
「……口付けられるの困る……」
「えっ……?」
「……気持ちよくなっちゃうから……」
「っ……ふぅん?そうなんだ?」
レンティスの目が細められ口元が妖しく弧を描くと、ライラを抱え上げてソファから立ち上がる。
「えっ……?」
レンティスはそっとライラをベッドに横たえると、その上に覆いかぶさった。
「えっ……!?」
「……もう朝だし、時間無いから、先には進まないけどね。そんな事言われて必死で我慢する僕の身にもなってよライラちゃん」
そう囁くように言うと、レンティスはライラの頭を撫で唇を軽く重ねた。次に頬へ優しく口付けを落とし、また唇へ、額へと啄む様に口付けていく。
最後にうなじへ唇を滑らせると、そこへ強く吸い付いた。
「あっ……!」
「……うん。名残惜しいけど、そろそろ部屋に帰さないと準備間に合わなくなっちゃうよね」
レンティスは未だぐったりしているライラを優しく抱えると、部屋を出て、向かいのライラの部屋へ運ぶ。そっとベッドの縁に降ろすと、髪に滑らすように頭を撫で、額へ口付けた。
「じゃあまた後でね。ゆっくり準備して」
パタンと音を立てて扉が閉まると、ライラはベッドから滑り落ちて床に座り込んだ。
「……ホント……底なし沼過ぎない……?」
しばらくしてライラはノロノロと立ち上がると目を覚ます為にシャワーを浴びる。
鏡の前で髪を乾かしていると、首の後ろに鬱血した跡を見つけてしまい、また一人で悶える事になってしまった。
やらかしは覚えている程恥ずいもんです。
そしてレンティスはキス魔だと思う(確信)
いいぞもっとやれ( ◜ᴗ◝ )
次回からエルドリア組の話に戻ります。




