87話 首都に着いて
飛竜に乗ってから半日程でガルディア連合国の首都、フェンリスまで辿り着いた一行は、現在フェンリスの冒険者ギルドへ立ち寄っていた。
ギルドマスターであるファイフと向かい合って座り、ライラは上級冒険者になった事を報告した。
「ようやくかい。全く、サッサと上級に上がってれば良いものを」
「すみません……」
「まぁいいさ。セラフィナも無事昇級したんだろ?良かったじゃないか」
「えぇ。本当に。セラフィナは試験官を圧倒するぐらいなの!やっぱり凄い魔法使いよね!」
「お前はどうだったんだい。当然、勝ってみせたんだろうね?」
「もちろん!余裕もって勝ったわ」
「ふん。私の弟子なんだからそのぐらいは出来て当たり前さ」
そのやり取りを見て、レンティスとユリウスは苦笑いを浮かべた。
「……ファイフさんって素直じゃないねぇ」
「あぁ、本当にな……」
「ライラちゃんが結果出してくれて嬉しい、って言ったらいいのに……」
コソコソと話をしていると、ファイフがジロリと二人に視線を向けた。
「そこ二人、聞こえてるよ」
「んふふ、ごめんごめん。師弟のやり取りが微笑ましいなぁって」
ファイフは腕を組むとジッとレンティスを見て、小さく呟いた。
「……やっぱりあのセリオンにお前が一番似てるな」
「そう?初めて言われましたよそんな事」
「はーヤダヤダ。アンタらだけは敵に回したくないもんだ」
「僕もファイフさんを敵に回すような事したくないですねぇ」
「よく言うよ。お前の方が私よりよっぽど強いだろ?」
「それはそれです。勝てるけど、ファイフさんはライラちゃんのお師匠だから。悲しい思いをさせるような事はしたくないんですよね」
にっこりと笑ってそう言ったレンティスをファイフは驚いたような顔をして見ていたが、そっと目線だけライラに移した。
「……ライラ?」
「…………知らない」
そう言ってライラはぷいっと顔を背ける。
赤くなった横顔の弟子の様子から、レンティスがこの強がりな子をとうとうほだしてしまったのだとファイフは悟った。
ファイフは背もたれに体重を預けると、ニヤニヤと笑いながら頬杖をつき、レンティスに視線を向ける。
「ほー……お前さんやるじゃないか」
「まだまだですけどねぇ。もう少し頑張ろうかなと」
「ふーん。まぁ存分に頑張りな」
「えぇ、お師匠の許可もいただきましたし、ね」
「はっ!若いもん同士好きにやんなよ。律儀なやつだね」
「こういう性分なんですよ」
「……兄さん、ファイフさんも、その辺で止めてやってくれ」
ユリウスが楽しそうに話していた二人に呆れたように声をかける。
そちらに顔を向けると、ライラが肘当てに突っ伏しており、それを見てファイフは豪快に笑い飛ばした。
「あっはっはっはっはっ!!なんだいライラ、こういう話はサッと流しなよ!フェンリスでは言い寄られても上手くやってたじゃないか!」
「……師匠ウルサイ……」
「やっぱりライラちゃんって人気あるんですねぇ。僕もうかうかしてらんないなぁ」
「……レンティスさんも黙って……」
「んふふ、はーい」
レンティスは突っ伏しているライラをニコニコと笑って見ていた。好意がある事を一つも隠す気が無い様子で、優しく目を細めている。
色んな意味でこの男なら大事な一番弟子を預けていてもきっと安心だろうとファイフは感じた。
小さく笑うと一度天井を見上げ、大きく深呼吸をしてから前を向き直し膝を軽く叩いた。
「よし、じゃあそろそろ本題に入ろうか。明日からの話をしよう」
「そうですねぇ。ではこれを」
ファイフからそう言われ、レンティスはリシェルから渡された守護の魔導具を取り出した。
そこからはスムーズに話が進み、明日はアストレアの捕虜達への尋問、明後日には王城へ行きガルディア王へ謁見という事になった。
ギルドを後にすると、着いた時にはまだ高かった日が暮れかけていた。辺りには色とりどりの街灯が灯り始めている。
明日の朝まではそれぞれ自由行動で、とレンティスがドラン達に向かって言うと、二人は大喜びでユリウスと肩を組んだ。
「俺達、もうちょっと親交を深めて来るっす!」
「いやー、弟君とは色々話がしたいって思ってたんだよね」
戸惑うような顔をしたユリウスだったが、ライラを視界の端に捉え、一瞬で二人の思惑を察した。
「えっ…………あぁ、そうですよね。是非ご一緒しましょうか」
「話が分かるね!流石弟君!さー飲みに行こう!もち俺達の奢りだよ」
「って事でレンティス兄さん、部下のお二人と俺は行くんで、また明日」
「えぇー……」
「じゃあライラさんもまた明日っす」
そう言って三人はフェンリスの街へと楽しそうに消えていく。
残されたのは困惑した顔のレンティスと、呆れた顔のライラだった。
「……置いてかれちゃったなぁ……」
ポツリとレンティスが呟き、少し寂しそうにしているのを見て、ライラが隣で吹き出した。
「ふふっ、弟に振られちゃったわね」
「残念。アイツらに変な事吹き込まれなきゃ良いけど」
「変な事って?」
「んー?僕の悪口とか?あー尊敬される兄のままでいたいのにー……」
「大丈夫でしょ。ユリウス、お兄さん達大好きだもの」
「それなら良いんだけどさぁ……」
しょんぼりと肩を落とすレンティスに、ライラはますますおかしくなってしまった。
「ふっふふふ……ホント、ユリウスの事好きなのねぇ」
「だってユリウスだよ!?嫌いなヤツなんてこの世に存在するの?」
「あっははははは!それは分かんないわよ!」
「もー……ライラちゃん笑い過ぎ」
「ふふっ、ごめんね。…………弟に振られた残念なレンティスさんに一つ、提案があるんだけど」
「んー?どうしたの?」
「……良かったら、ご飯食べませんか?……一緒に」
何だかんだとライラを可愛がってるツンデレ師匠でした。
そしてライラが一歩踏み出した!




