↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
3章 エルドリア王国
119/158

85話 多方面から

 セリオンはリュカの言葉に目を細めて優しく笑った。

「……君は本当に強くて聡い子だねぇ」

「え……?」

 

「今この話をしたのはね、リュカ君自身が多方面から狙われる、という事を認識しておいて欲しかったからなんだ」


「狙われる、ですか?」


「うん、そうだよ。この資料から考えても君自身をイグニスは知っている。それも“被検体”としてね。もし、エルドリアでリュカ君が生きてるって知ったら?君はイグニスにとっては遺体になっても欲しいと言っていたぐらい貴重な“研究素材”って事だ」

「そんな……」

 セラフィナがその言葉に眉を顰める。リュカの手を包んでいた指に少し力が入っていた。

 

「それに、ルシアンみたいな人物がアストレアには他にもいるんだよ。あそこまで極端では無いにしろ、リュカ君を担ぎ上げ、“アストレアの英雄”にしたい奴がね」

 

「……英雄って……」

「アストレアの国の上層部にその動きがあった。君が戦線離脱した後の話だけど、密かに行方を探していたようだ」

「……処分対象だからじゃなくてですか?」

「あの国の上層部は不死の騎士団を創ろうとして不死の研究を行っていた。リュカ君が最前線にいた頃、計らずとも国の理想と一番近い形になっていたんだよ」

「それは……俺一人の力じゃ無い……聖白騎士団は光魔法の使い手ばかりでしたし……」

 

「うん、そうだろうね。それでも君の光魔法、特に治癒魔法は規格外の能力だった。聖白騎士団の誰もが口を揃えて王国最強の騎士だったと言うぐらい、リュカ君は一目置かれていたんだよ」


 王国最強だなんて、そんな事思ったことも無かった。

 目の前で倒れる騎士団員を救い、目の前の敵を排除する。

 

 命を救い、命を奪う。それだけ。

 

 あの頃はそれの繰り返しで神経をすり減らしていた。だから逃げた。全てを放棄した。ずっと一緒に戦ってきた仲間を捨てたのだ。

 リュカの胸の奥底に鉛のように重く、暗い影が広がったような気がした。


「それに加えてアストレアの教会も別口でリュカ君の行方を探していたようだ。ルシアンが随分と進言していたみたいでね、君を神格化して、“神”の象徴にしたいと」

「……それは、本当に勘弁して欲しいです……」

「そうだよねぇ。宗教って悪い面が出るとこんなにも嫌悪感が増すんだと私も改めて思った所だよ」

 セリオンは小さく肩を竦めた。

 

「それにね、エルドリアでも君の規格外の治癒魔法に目をつけている奴がいる。まぁそっちはすぐ解決出来るから良いんだけど」


「それって……?」


 セリオンはにっこりと笑って肘当てに腕をのせた。

 

「君たちのパーティはグランスロット家(うち)のお抱え冒険者って事にするからね。これでそこら辺の有象無象は手出しが出来ないようになるから。それにいくらリュカ君の出身地でも、私を敵に回してまで表面上はあれこれ言えないさ」


 リュカとセラフィナは大きく目を見開いた。

 この世界でどこまでグランスロット家の影響力があるのか、二人には皆目見当もつかなかった。

 

「ユリウスはこの話、知ってるんですか?」

「もちろん。ユリウスからはちゃんと了承を得ているよ。『グレイスロウ領主家お抱えって事で仲間が守れるならそれでいい』ってね。今までそんな事言ってくれなかったのに、随分と柔軟になったものだ」


「リーダーが了承してるなら、俺たちも構わないですけど……良いんですか?俺みたいな面倒事を抱えても……」


「全く、前から思ってたけど君たちは遠慮しすぎだね。リュカ君の問題如きでどうにかなるような家じゃないよ。うちは」

 セリオンが少し苦笑すると、トールが眼鏡を押し上げながら口を開いた。

「そうですよ。それこそ要らない心配ってやつですから。黙って受け入れておきなさい」

「は……い」

 

「もー、トールが一番張り切ってた癖にそんな言い方したら二人が困るでしょう?」

 セリオンにそう言われたトールは小さくため息をつくと視線だけ向けた。

  

「誰が張り切ってるんですか。兄様の方が非常に乗り気だったでしょう?なんならリュカはうちの養子にしてしまおうかなんて言い出すんですから」


「……?……はぁ!?養子!?俺が!??」

 

 突拍子もない事を言われたリュカは目を白黒させてセリオンとトールを見た。頭の中の処理が全然追いつかない。

 

「確かにそれが一番うちの庇護下に置ける分安心ですけど。それでも構わないんですよ、うちは。でも今は色々と事実が判明してリュカも落ち着かないでしょうから、まずは冒険者としてお抱えにする事からにしたんです」

「まぁ、いずれそういう話もあるよって事だけは覚えといて欲しいなぁ。私達としては可愛い弟が増えるのは大歓迎だよ」

 そう言った二人の視線はユリウスに向けるものと同じで、扉の前に立っているサイレスも、静かに同じような目でこちらを見ていた。

 

『兄様達の中ではお前も弟認定されつつあるぞ』


 少し前にユリウスと交わした会話が蘇る。まさか、本当にそんな話がこの人達から出てくるとは思わなかった。

 胸の奥がムズムズしてどうしていいのか分からず、リュカは口を引き結んだ。


  

 トールが背筋を伸ばし後ろ手に組むと話を元に戻した。

「少し話が脱線しましたね。そういう事なので、アストレアの国と教会、エルドリアの有象無象はうちが引き受けます。リュカ、貴方はイグニスや研究施設の人物に注意なさい。息があっても無くても、貴方は被検体(そういう対象)だと思われてる。手段を選ばず危害を加えて来る可能性もありますから」


 トールはセラフィナへ視線を移すと話を続ける。

「セラフィナ、貴女も四属性魔法が使える稀少性という意味では、そういったイカれた奴らに狙われる可能性がある。この件が終わるまで、一人での行動は控える事をおすすめします」


 リュカとセラフィナは目を見合わせると、セリオンとトールに向けて頭を下げた。 

「はい。色々ありがとうございます」

「……分かりました。ありがとうございます」


 礼を言う二人を見て目を優しく細めたセリオンが、楽しそうに笑って頬杖をついた。

「まぁ、セラフィナさんを一人になんてリュカ君がさせないよねぇ」

「えっ……あ、まぁ……」

「うんうん。しっかり彼女を守ってあげなきゃね」

 セリオンの視線が繋がれている二人の手に落ちているのに気付き、リュカは恥ずかしくなって少しだけ視線を落とした。だがすぐにセリオンに向けて顔を上げる。

 

「……もちろんです。セラフィナにはもう二度と手出しさせない」


「ふふっ、それなら大丈夫だね。さて、名残惜しいけど今日の予定がまだ詰まっていてね。そろそろ王都に行かなきゃいけないんだよねぇ……ねぇトール、もう少し滞在しても大丈夫じゃない?」

「いえ、なんなら時間が押してます」

「えー、行きたくない。陛下と話すのつまんない。新しい弟(リュカ君)ともう少し話したい」

「……兄様、気持ちは分かりますが駄々を捏ねないでください。またサイレスに運ばれたいのですか?」

「はー……仕方ないなぁ……行くかぁ……」

 渋々立ち上がったセリオンは心底面倒くさそうな顔をしていた。

 前も同じような光景を見たなと、リュカはサイレスに担がれていたセリオンを思い出していた。

 

「あ、セリオン君、これは君たち領主家用の魔導具だよ。守護結界を常に張っておくものだけど、軽量化や他の機能を付けた改良版はもう少し待っててほしい」

 リシェルが幾つか守護の魔導具を詰めた木箱を差し出すと、トールがそれを受け取った。セリオンはその中の一つを手に取り眺めると、それを腕にはめる。

「ありがとう。これはこれで使わせてもらうよ。使用してみて何かあれば連絡するからね」

「それは是非とも!ご意見待ってるよ。……エルドリアでは絶対にグランスロット家が乗っ取られる訳にはいかないからね。気をつけて」

「うん。リシェルさんも適度に寝るんだよ。リュカ君もセラフィナさんも、また近いうちに会おうね」

「それではまた。何かあればすぐに連絡を」

「じゃあな。リュカもセラフィナも、今度は飯でも食べよう」

 こうしてセリオン達は所長室を後にした。


  

 リシェルも、出口まで送って来ると一緒に出ていった為、部屋にはリュカとセラフィナの二人が残される。

 少しだけ沈黙が落ち、やがてリュカが口を開いた。

「……なんか、まだ色々混乱してるわ……」

「……そうだよね」

 リュカは心配そうにこちらを見ている赤い瞳を見て小さく笑うと、未だ繋いでいた手を持ち上げて頬に当てた。

 

「でも、セラフィナが引き戻してくれたから。ありがとな」

 

「ううん、これで落ち着いたなら良かった。前、リュカが教えてくれたよ?『手当て』の事」

 

 そう言うと、セラフィナは優しく笑った。

 リュカは一瞬だけ目を丸くして、少しだけ泣きそうな顔で笑う。繋いでいた手を離し、両手でそっとセラフィナを抱き寄せた。


「少しだけ……」

「……うん」


 ぴったりとくっついた所から伝わるお互いの体温で、強ばった身体が解けていくようだった。

 思っていたよりも肩に力が入っていたのだと、リュカはセラフィナの肩に頭を乗せた。


「……はぁ……俺、こんなに弱かったっけな……」

「…………別に弱くてもいいと思う」

「そう?……最近、こんなんばっかだな、俺」

「……私は色んなリュカがいるなって思うから。辛いの隠される方がなんとなく嫌だ」

「……うん……ははっ……今何も隠せてないわ」

 

「全部、自分で背負わなくてもいいって、リュカが私に言ってくれたんだよ。私、何も出来ないかもしれないけど、一緒にいる事は出来るよ」


 セラフィナはリュカの背中にそっと手を回した。自分がリュカにして貰った事を思い出し、慈しむように撫でていく。

 優しい仕草に、リュカは胸の奥に沈んでいた鉛のような感情が少しずつ晴れていくような気持ちになった。


「……うん。ありがとな……なんか、ライラがセラフィナに癒されるって抱きついてるのわかる気がするな……」

「……そうなの?」

「そうなの」

  

 リュカは頭を上げるとセラフィナと目線を合わせ、彼女の頬を撫でる。そのまま近づいていき、そっと唇を合わせた。

優しさは巡り巡る。


手当ての話は28話で出てきました。

二人の間は静かで優しい恋が育ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。