82話 検証漬けの日々
「リュカ君、セラフィナ君、こっちの解析も手伝って欲しいんだ」
レンティスが退出してしばらくすると、ソファで寝ていたリシェルが起きて来た。
奥の部屋に移動した後、リシェルが言った一言に二人は顔を見合せる。
リシェルが金庫から取り出したのは、リュカ達が回収したあの洗脳の魔導具だった。
「えっ……それ、俺達が関わって大丈夫なんですか?」
「うん。君たちはこの魔導具に関しての当事者だから。ちゃんと許可は得てるよ。セラフィナ君は僕より解析の精度が高いから、もっと細かい所まで仕様が判明出来ると思う。ここには今試作中の守護の魔導具も、リュカ君もいるからね。検証するには丁度いいんだよ」
「……それを実際起動させて検証するという事ですか?」
「うん。そういう事。向ける対象は流石に人じゃなくてモルモットになるけど」
「……闇魔法を無効化出来なきゃ今開発中の魔導具も意味無いですもんね……」
「そう。試作品を起動して無効化する際の魔力の流れを観測して更に数値を取りたい。実験には危険が付き物だけど、一番安全に検証出来るうちにやっておきたいから。協力して欲しい」
リシェルが真剣な表情で頼んできた。国からの許可も得てるというならば、という事で洗脳の魔導具解析も並行して行っていく。
そこから三日間、試作品を起動させた後は洗脳の魔導具をリシェルが使用。それが魔導具の守護結界とぶつかり無効化する様子をセラフィナとリシェルとで具に観測する。
何処か魔力の流れに滞りが見えると、そこの方陣を描き変えていき、更に同じように検証、修正が繰り返されていった。
リュカはとにかく闇魔法が二人にかからないように常に気を張って、念の為に検証が終わる度に治癒魔法をかけていく。
そうした幾度の検証の結果、今の試作品で十分無効化が出来るとついに判断が下された。
リシェルはそれを素に守護の魔導具をいくつか複製していった。
上級冒険者試験から三日後の朝、ユリウスとライラがレンティスとガルディア連合国へ旅立つ日がやって来た。
「これ、僕が着けさせて貰いますね。ありがとうございます」
守護の魔導具を受け取ったレンティスは、それに紐を通すと首から下げ上着の内ポケットへしまう。
リシェルは複製した守護の魔導具を数個、木箱に収めそれもレンティスに手渡した。
「まだ改良するべき箇所もたくさん残っているけどね。今の所、三日間発動しっぱなしでも問題なく使えてる。ガルディアでも出来るだけ発動したままにしておいて、どのくらいの時間使用出来るのか教えて欲しい」
「分かりました。まぁ数もある程度作ってくださったんで助かります」
「帰ってくる頃には居残り組で改良版を作っておくよ」
「よろしくお願いします」
リュカとセラフィナは旅立つ二人と話をしていた。
「そっか。何とかなったなら良かったね」
「セラフィナが舞台だと思えばって言ってくれたおかげ。付け焼き刃なりに何とかやってくるわ」
「ライラなら大丈夫だよ。頑張って」
「しばらくセラフィナに会えないのが辛い……ちゃんと休みながらやるのよ?」
そう言うと、ライラはセラフィナをギュッと抱きしめて別れを惜しんでいた。セラフィナもライラにされるがままで笑っている。
「これはそっちに渡しておくぞ」
リュカに研究所の鍵を渡すと、ユリウスはついでとばかりにトールに持たされていた食料品や甘味の残りをリュカに渡した。
「気をつけてな」
「ああ。そっちも俺が居ないからって遅くまでやり過ぎるなよ」
「分かってるよ。気をつけておく」
「じゃあ行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい」
そうしてユリウス達は所長室を後にし、ガルディア連合国へ向かった。
リュカとセラフィナはその日から研究所に引きこもって、魔導具の解析やリュカの守護結界、治癒魔法の観測に、更に魔石の数を減らしてサイズをもう少し小さく出来ないかを検証していく。
魔石に込める魔力の量を増やすと起動時に魔石が破損したり、逆に少なすぎても起動しない。試行錯誤の日々が過ぎていった。
数日後、リュカの聖槍の宝石に守護結界を強化する回路が組んである事を聞いたセラフィナが、何となく自分の持っていた魔杖を見ていると、出力不足を補う為の魔力増幅の方陣を発見した。
それをどうにか組み込めないかとリシェルに提案すると、彼は閃いたようにあっという間に回路に組み込んだ。
思った通りに魔石の数を減らし、サイズを小さくする事に成功した。
リシェルが工具を置き、ルーペを外すと大きく息を吐く。
いいタイミングだから休憩しようと所長室へ戻り、リュカがお茶を入れて、貰った甘味を机に広げた。
「いい着眼点だったねセラフィナ君。きっと良い助手になれるよ。どうだろう?ずっとここで働く気は無いかい?」
「あ……いえ、今のお手伝い楽しいんですけど、まだ冒険者で……」
「ふふふ。残念。じゃあ冒険者を引退する事になったら是非ともうちに来て欲しいねぇ」
ソファに肘をついてリシェルは楽しそうに笑った。
その時所長室の扉が叩かれ、研究員の男性から所長に来客があると告げられた。
リシェルは少し部屋を出ると、しばらくしてから来客と共に所長室へと帰ってくる。
その人物を見て、リュカとセラフィナは目を丸くした。
「えっ!?なんでセリオンさん達が?」
嬉しそうなリシェルの後ろで柔らかく微笑むセリオンと、その後ろにはトールとサイレスの姿も見える。
「ふふっ、久しぶりだねリュカ君。セラフィナさんも元気そうで何よりだよ。なんでって言われてもねぇ。今日は研究所の“視察”に来たんだ」
そう言うとセリオンは目を細めて笑った。
“視察”とは……
二手に分かれての活動になりました。
セリオンが出てくると何故かラスボス感漂う気がする……。




