80話 上級冒険者試験(実技)
実技試験。
「……今回は上級冒険者の実技はこれだけか。少ないですね。ギルドマスター」
「大体こんなもんだ。筆記で毎回半数以上落ちる。お前の時もそうだっただろう?」
「うん。確かに。違いねぇな」
一の刻になりギルドの訓練所へ集まったのは、筆記試験合格者の面々だった。
ギルドマスターのグスタフと、先程筆記の試験官を務めていたマクシムが手にした書類を見ながら話をしていた。
周りを見ると、ライラに話しかけていた新人や下級冒険者達もみんな無事に合格していたようだった。……朝一声をかけて来た中級冒険者の姿は見えなかったが。
「じゃあ下級冒険者枠は人数がいるからあっちの広場に移動。中級冒険者枠はそっちの広場だ。上級冒険者枠はここに残るように。速やかに移動しろー」
マクシムがそう声をかけるとそれぞれの場所へ移動していき、その場に残ったのはセラフィナとライラ、後は男性の中級冒険者が二人と、試験官であるマクシムとグスタフだけだった。
「なんだ、ほぼ知ってる奴しか残ってねーな。忖度はしないからしっかりやれよ。じゃあ最初は0103番だな。前衛の戦士か」
呼ばれた中級冒険者の男性は武器を構えていた。そこに、大量の魔法研究所製のゴーレムが現れる。ファイターはなかなかに素早い動きでゴーレムを無効化していったが、マクシムも参戦すると状況が変わる。しばらく打ち合っていたマクシムが一瞬の隙をついてファイターの持っている武器を弾き飛ばすと、回し蹴りで吹っ飛ばした。
すると後ろで腕を組んでその様子を見ていたグスタフが口を開いた。
「……0104番、不合格。武器を飛ばされた後に呆然としている時間が無駄。その一瞬でモンスターにやられてお終いだな。前衛で上級に上がるなら武器を失った後どうするか常に考えて動かなければならない。もう少し精進するように」
「はいお疲れ様。お前、まだ不測の事態になった時固まる癖直ってないのな。次頑張りなー。もう帰っていいよ。次0301番。後衛の射手ね。ギルドマスター、あれお願いします」
グスタフは背負っていた巨大な戦斧を地面に突き立てると、大小様々な岩を隆起させて広場に隠れる場所を作っていく。そしてゴーレムを大量に起動させた。
「ここまでお膳立てしてやったんだ。どこまでやれるか見ものだなー」
そう言うと、マクシムも岩場に身を隠して移動を開始した。
アーチャーの冒険者も試験を受けるだけあって上手く身を隠し、風魔法に矢を乗せて、ゴーレムをどんどん無効化していく。
このまま全て無効化するかと思われたその時、移動していたマクシムが、上に登っていたアーチャーの後ろから武器に炎弾を当てた。体勢を崩したアーチャーは武器こそ手放さなかったものの、マクシムが彼の足を掴みそのまま引きずり下ろして剣先を首元に当てた。
「うーん。惜しい!前より良いけどアーチャーなら気配をもう少し上手く消せると良いけどな」
「……0301番、不合格。マクシムも言っていたが身を隠す技術の精度が低い。攻撃に転じる時に殺気が混じっているから上級が潜るような下層にいる敏感なモンスターには気づかれてしまうぞ。もう少し精度を上げて来るように」
「次挑戦したらいけそうなんじゃないか?頑張りなー。じゃあ帰っていいよ、お疲れ様。……次0201番な。ってライラか。斥候だし場所はこのままで良いか。じゃあ始めよう」
大量のゴーレムも再起動し、マクシムも先程と同じように岩場に身を隠していく。
ライラは気配を消して迷わず岩場を縫うように駆け抜けて行き、剣を抜くと次々とゴーレムを無効化していった。
最後のゴーレムを無効化した時、後ろからマクシムが放った炎弾が飛んで来るが、ライラは身軽な動きでそれを避け、そのまま岩場に飛び乗るとマクシムのいる場所へ音も無く降り立った。
同時に鞭を振るい、マクシムの脚に巻き付いたそれをライラは思いっきり引く。
一瞬だけ体勢を崩したマクシムだったがすぐ立て直し、逆に引っ張ると、鞭を手放したライラが目の前に迫ってマクシムの顎に向かって拳を振るっていた。
ギリギリでそれを避けたマクシムだったが、追撃の裏拳が脇腹に当たった。その衝撃でマクシムは横へ吹っ飛んで岩に激突した。
「痛ってー!今の裏拳風魔法も当てたろお前!」
「工夫しないと力では勝てないからっねっ!!」
ライラは風魔法を操り身体に纏わせると一気に距離を詰めて足元目掛けて蹴りを放った。マクシムもギリギリで避けたが体勢が整わないままライラからの追撃が来る。
「あー!くそっ!これだから早く上級に上がれって言ってただろーが!!」
マクシムからの攻撃はスルリとすり抜けるように避けられ、時に土魔法で体勢を崩され、マクシムはペースを掴めない。
ふとライラが岩陰に身を潜めると、一気に気配が消えた。
マクシムも気配を探るがライラを捉えることが出来ないでいた。
しばらくして背筋にゾワッと悪寒が走ったと思ったら、マクシムの首元に後ろから短剣が当てられていた。
「……っ……後ろは警戒してたはずなんだけどなー」
「私の勝ちね。……ってか勝って良かったのよね?」
「あーはいはい。負けたわ。くっそー!ライラお前、なんで俺のパーティに入らなかったんだよ全く!助っ人であんなに呼んでたのになー!」
「……だってマクシムのパーティって可愛い子いないしむさ苦しくてやだったんだもん……」
「はぁああ?!誰がむさ苦しいんだよ!可愛い子もいるだろが!うちのジョアンが!」
「……可愛いけど男の子じゃん」
「うるせぇわ!!くそー!やっぱりユリウスに持ってかれたのが悔しい!!先に目をつけてたのは俺だったのになーー!!やっぱ顔か?顔なのか!?」
膝をつき、地面を叩いて本気で悔しがっているマクシムを見て、セラフィナは目を丸くしていた。
上級冒険者のパーティにも呼ばれてたと言ってたが、試験官のパーティに行っていた事にも驚いてしまう。
グスタフが小さく頷くと口を開く。
「0201番、合格。斥候として必要な能力はもちろん、戦闘での冷静な判断力、攻撃力共に文句無しだな。帰る前に受付でタグの更新をしておけ」
「えっ!?やった!!ありがとうございまーす!」
ライラは小さく跳ねるとセラフィナの元へ駆けていった。
「受かっちゃった!私結構凄くない!?」
「ライラ凄かったよ」
「セラフィナも頑張ってね!ここで見てるよ」
「うん。頑張る」
マクシムは気を取り直して書類を持ち、試験官の仕事へ戻った。
「はー……じゃあ最後だな。0302番、後衛の魔法使いね。場所もこのままで良いか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「よし。じゃあ始めよう」
ゴーレムも再起動し、マクシムも岩場の影に消えていった。
セラフィナは風魔法で自分の身体を浮かせると、隆起した岩よりも高く飛び上がった。
上から見ると、大量のゴーレムが岩場の間を移動しているのが良く見える。
しばらく見渡していると、岩場の間をすり抜けるように移動しているマクシムが見えた所でセラフィナは杖を構え、息を小さく吸うと呟くように詠唱した。
「——炎雨」
セラフィナの杖が赤く光ると、無数の火の雨が流星の様に降り注ぎ、ゴーレムを一瞬で殲滅した。
マクシムはその魔法の範囲の広さと威力に目を見張る。
「マジか……」
魔法を放ち終わったセラフィナは、一番高い岩に降り立つと、今度はマクシムに目掛けて炎弾を放つ。
それを最小限の動きで避けると、炎弾が彼の横にあった岩を抉って爆ぜた。
「…………は?」
マクシムは背筋が一気に寒くなった。初級魔法なのにレベルが段違いに強い。当たったら死ぬ。そう思うほどの威力だった。
一番高い所にいるセラフィナへ向かって近づこうとしても向こうからは既に丸見えで、岩陰から少しでも姿を見せると遠距離から馬鹿みたいな威力の炎弾が飛んで来るためなかなか近づけない。
そこでマクシムは剣に炎を纏わせ、セラフィナの飛ばす炎弾を叩き切りながら岩陰を進み、セラフィナより少し低い位置にあった岩の上に素早く登ると剣を振り、そこから炎の刃をいくつも飛ばした。
セラフィナは風魔法を纏い何かを呟くと、風に煽られた炎の壁がそれを阻み刃はかき消されていく。
「えぇー……同じ属性魔法じゃこれ絶対勝てねぇわ……」
その場から跳躍して炎の壁を切るとそこにセラフィナは既におらず、ふと真下を見ると杖を構えたセラフィナの風弾がマクシムに直撃した。
そのまま真上に吹き飛ばされるが、何とか体勢を整えて高い天井の梁に掴まった。
「威力やっば……。魔力制御えげつないなー……もーヤダ……」
そこまでの状況を腕を組んで見ていたグスタフが声をあげる。
「マクシム、もういいぞ」
「了解。はーホントしんどいですよ」
マクシムは天井から飛び降りると綺麗に着地して肩を回しながらグスタフの隣に立つ。グスタフが戦斧を地面に突き立て岩場を元に戻した後、セラフィナの前に巨大な岩を出現させた。
「0302番、最後に全力でこれを壊してみせろ」
セラフィナは地面に降り立ち小さく頷くと、杖を構えた。
「——獄炎槍」
詠唱が終わった瞬間に圧縮された炎の槍が岩を吹き飛ばし、巨大な岩は三分の一だけ足場を残して跡形もなく炎に呑まれていった。
「0302番、合格だ。後衛の魔法使いながらあれだけの機動力、防御力もあり、位置取りも悪くなかった。攻撃力に至っては上級冒険者たる程の威力。中級にしておくには無理がある。帰りにタグの更新をしておけ」
そう言われたセラフィナは杖を握り締めていた手を下ろして口元を綻ばせた。
「……はい!ありがとうございます」
「セラフィナー!やったね!流石!やっぱりうちの子は凄いんだから!」
ライラはセラフィナに駆け寄るとぎゅっと抱きしめて頭を撫で回していた。
セラフィナも嬉しそうに目を細めて笑う。
「……はー……なんであの二人中級で燻ってたのが分からんぐらいですね、ギルドマスター。俺めっちゃ疲れたんですけど」
「ふん。お前ももう少し全力でやっても良かったんだぞ?」
「いや結構全力に近かったですけど!?ユリウスのパーティヤバいのしか揃ってないなー……もーヤダ」
こうして無事タグの更新も終わり、セラフィナとライラは上級冒険者となった。
二人は街で祝杯を上げ、晩御飯もしっかり堪能してから帰路に着いた。
マクシム(30歳)も上級冒険者なのでちゃんと強いんですけどね。
魔法剣士って感じの実績もあるパーティのリーダーです。
二人共無事に上級冒険者になりました。ファイフ師匠が喜ぶね( ◜ᴗ◝ )




