79話 上級冒険者試験(筆記)
朝の七の刻、冒険者ギルドの前でセラフィナとライラは待ち合わせていた。
「とうとうこの日が来ちゃったわね」
「うん……緊張する……」
「先に筆記試験だもんね。頑張りましょ!」
「うん」
その時、後ろからライラに声がかかる。
「あ、ライラじゃん。この時間に来てるってことはとうとう上級の試験受けんの?お前が?」
振り向くと、胸元に掛かってるタグが二人と同じ中級冒険者の男性だった。
「あぁ、久しぶりね。別に受けたって良いでしょ。その資格は得てるんだから」
「まぁそうだけどさぁ。筆記難しいんだよなぁ。俺今回四回目だけど毎回内容が違って対策が練れなくてさぁ……全然実技までいけないんだよなぁ」
「ふーん。まぁお互い頑張りましょ」
「うわ、ツレない……ねぇねぇそれよりこっちの可愛い女の子がライラと組んでる魔法使いでしょ?」
セラフィナに話題が飛んだ瞬間、ライラは男性からセラフィナを隠すようにして踵を返した。
「受付行こっか」
「えっ!?ちょっと……」
「そんな事より試験勉強してた方がいいんじゃない?じゃあお先にー」
ギルド内に入ると数十人程、試験を受けに来た人が受付をしていた。年代も様々で、新人冒険者なのか成人したばかりの若い子から、セラフィナやライラよりも歳は上だろうと思われる人まで、それぞれ試験を受けるようだ。
ここでもライラに声をかけてくる新人や下級の冒険者がたくさんいた。
「ライラさん!私ようやく中級冒険者の試験受けれる事になったんですよ!」
「それは頑張ったわね!」
「あの、あの、僕も新人を脱せそうなんです!」
「うんうん。貴方なら大丈夫よ」
「上級受けるんですよね?俺中級に上がったらライラさんとパーティ組みたかったのにー!」
「あー、それはもう難しいわねぇ。他で頑張んなさい」
色んな人に慕われているライラを見て、セラフィナは改めて自分は凄い人達と仲間になれたんだと感じていた。
「ところでお姉さん、ライラさんのパーティの人ですよね?やっぱり強いんですか??」
急に話しかけられたセラフィナは肩を揺らしてその女の子を見ると、まだ新人冒険者のようだった。とてもキラキラした目でこちらを見ていてセラフィナは一歩小さく後ずさる。
「え……っと……」
なんと言っていいか分からず少し言い淀んでいると、ライラがにっこりと笑ってセラフィナと腕を組んだ。
「セラフィナは強いわよ。私も勝てるか分からないもの」
「えぇー!?ライラさんが!?」
「そうよー。じゃあちょっと受付するから。そろそろ行くね」
「あっ!そうですよね!引き止めてすみません!」
「いいのよ。じゃあお互い頑張りましょう」
「はい!!」
軽く手を振ると、ライラはそのままセラフィナと腕を組んで受付へ向かった。
上級冒険者試験の受付にはマイアが座っており、二人に気づくと優しく微笑んで小さく会釈をする。
「おはようございます。今日は試験を?」
「そうですね!二人共お願いします」
「承知いたしました。ではお一人ずつこちらに冒険者タグをかざしていただけますか?」
まずはライラがタグをかざし、その次にセラフィナがかざした後、マイアは二人に番号が書かれた紙を渡した。
「では三階の右手にある小会議室が上級冒険者試験の会場になりますので、どうぞそのまま上がってください。開始は八の刻、終了が九の刻で、結果は昼の零の刻にはこちらに番号が張り出されます。合格者は昼の一の刻から実技試験になりますので、それまでに昼食は済ませておく事をおすすめします」
「分かりました。ありがとうございます」
「これまでの成果が出ますように。良いご報告をお待ちしていますね」
マイアに見送られ、セラフィナとライラは三階の小会議室へと向かう。中に入ると十にも満たない程の数名が座って本を眺めている。
セラフィナも前列の端っこの席にライラと並んで座り、他の人と同じように参考書を眺めて開始時間まで過ごしていた。
八の刻になる少し前に、紙の束を抱えたギルド職員と、試験官として来た上級冒険者のタグを付けた男性が小会議室に現れた。
「えー、本日試験官として呼ばれた上級冒険者のマクシム・べランジェだ。今机に出してる本や参考書は全て魔法鞄にしまって、筆記具だけ出して置いてくれ。……うん。では用紙を配るので、開始時間までは裏返しのままにしといて」
ギルド職員がそれぞれの前に用紙を置いていく。誰も言葉を発さない静かな時間が過ぎていった。
「はい、時間なんで始めて」
セラフィナは用紙を表に返すと番号を書く欄があったので、そこにマイアに渡された番号を書いた。
問題を読み込んで用紙に答えを書いていく。ユリウスの教え方が良かったのか、思っていたよりもスルスルと解けて、先の問題へ進んでいった。
時間が四十分ほど過ぎた頃には最終問題を解き終わったセラフィナは、残りの時間を見直しの時間にする事ができた。
丁度見直しも終わる頃、マクシムの声が部屋に響く。
「はい、時間なんで筆記具置いてー。回収するから全員そのままで。筆記はこれで終わり。結果次第でまた一の刻に会おう」
問題用紙を回収したギルド職員とマクシムは小会議室を後にした。
セラフィナとライラも部屋を後にし、街でしばらく買い物でもして時間を潰そうという事になった。
二人は連れ立って開店した街の商業街を見て回っていく。久しぶりのライラとのお出かけにセラフィナの気分も上がる。
前回来た服屋へ入り、普段着やお出かけ着、新しい冒険者用の服も見ては、二人ではしゃいだ。
二人はせっかくだからと新しく冒険者服を新調し、上級に無事上がったら着ようと笑い合う。
朝の十一の刻になり、二人は前回も訪れたギルド直営店の“蒼の酒場”で早めの昼ご飯にする事にした。
香り高いオイルと香草で煮た芋や野菜や魚介をパンと一緒に一口食べると、口いっぱいに香草の香りが広がった。オイルでじっくりと煮た具材はふっくらとしており、思っていたよりクドくない。きっとワインのようなお酒と一緒に食べると美味しいだろうと思う。
「……凄い美味しいんだけど、ワイン飲みたくなっちゃうわね」
ボソッとライラが呟いた。
「私もそれ思った」
「だよねー!全部終わってから頼めば良かったぁ」
「また来よ」
「そうね!何種類かあるし、今日のお楽しみに取っとくか」
「これはこれで食べちゃおう」
「もちろん!バゲットにオイルつけて食べても最高ね」
「ホントだ。甘味も頼もうかな」
「いいじゃん!私も後で頼もっと」
「そういえばライラ、試験どうだった?私、結構解けたと思う」
「おー!一緒一緒!やっぱ先生が良かったのね。思ってたより簡単だった気がするわ。これ、私達受かってるんじゃない?」
ライラが目を細めて笑うとセラフィナも何度も頷いた。
その後は甘味も頼み、お昼ご飯をしっかり堪能してから零の刻になる少し前にギルドへ向かった。
合格者が張り出されると、番号が無く落胆する者、合格して嬉しさで飛び跳ねる者と、悲喜こもごもだった。
セラフィナは自分の番号が張り出された紙にあるのを確認してライラの方を見ると、彼女はウインクして親指を上げて笑っている。
二人は一の刻から、実技試験に挑む事になった。
久しぶりに女子二人で楽しいお出かけ。
こういう日常パートが楽しい。
筆記試験は無事通過。




