77話 それぞれやる事
リュカが所長室の奥の部屋で守護結界を展開していた頃、所長室では来客用の机に上級冒険者試験の参考書(ギルドで販売中。中級冒険者で上級冒険者の試験資格者のみ購入可)を広げ、勉強会が行われていた。
ユリウスの教え方は丁寧で、ライラやセラフィナの質問にも即座に細かく解説を入れていく。
「あー、なるほどねぇ。そういう事か!ユリウスの説明分かりやすいわ」
「それは良かった。俺が受けた時とは内容も変わってるかもしれんが、こういった知識は覚えておいて損はないからな。……今日はこの辺にしておこう。このペースだと明後日にはひと通り終わる」
「筆記試験、ちゃんと受かりそうな気がしてきた」
「また復習もしておいてくれ。セラフィナは所長の手伝いがあるだろうから、行ってくるといいぞ」
「分かった。行ってくるね」
奥の部屋へ入っていくセラフィナを見送りながら、ライラが少し眉を下げた。
「セラフィナ、忙しすぎて倒れないか心配だわ……」
「まぁあっちはリュカもいるし大丈夫だろう。……それより、ライラは自分の心配をしておくんだな」
「えっ?」
「レンティス兄さんが言っていただろう?上級の試験が終わったらガルディアに飛ぶと。忙しいのはセラフィナだけじゃなくライラはこっちの勉強もしてもらわんとだからな」
そう言ってユリウスが魔法鞄から取り出したのは、貴族の子供が習う基礎的なマナーの教材から応用編に至るまで取り揃えてある大量の本の束だった。
「王の前に拝謁するんだ。嫌でも覚えて貰うぞ」
「ああぁぁぁぁ……そうだったぁ……」
ライラは頭を抱えて俯いてしまうが、ユリウスはそれを見て口角を上げた。
「あまり時間が無いから厳しく行かせて貰うからな。頑張ってくれ」
恐る恐る顔を上げると、とても良い笑顔で本を持ちこちらを見ているユリウスと目が合ったライラは、逃げられないと悟り天井を仰いだ。
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「おぉ、待ってたよセラフィナ君。今日はもうこっちに来て大丈夫なのかい?」
「はい。今日の分は終わったので……」
「早速だがまずは方陣がちゃんと視えるか確認してもらえるかな?」
「分かりました」
セラフィナはリュカが張っている守護結界に触れ、魔力を目に集中させると、淡い緑色の魔力の膜に複雑な紋様が描かれているのが見えた。
「……視えました」
「うん、流石だね。じゃあここに描かれてる物と見比べて、セラフィナ君が視える紋様との違いがあれば朱色で書き込んでいって欲しい。僕には視えなかった箇所があるかもしれないからね」
渡された紙には守護結界に浮かぶのと同じ紋様が書き込まれていた。
「違う箇所……」
「無いなら無いでいいんだ。僕の写し間違いもあるだろうから、それの修正もお願いするよ。僕は魔導具の調整をしたいからそっちは頼んだよ」
そう言うと、リシェルは魔導具に片手に工具らしきものを持ち、ルーペをかけて作業に入り始める。
セラフィナはリュカに向き合うと心配そうに声をかけた。
「リュカ、まだ結界張ってても大丈夫?」
「うん。全然余裕だからゆっくり見ていいよ」
「……分かった。じゃあ視てくね」
そう言うと、セラフィナはジッと守護結界を眺めて、紙に描かれてる物と見比べていく。
少し気になる場所や、リシェルの描いた紋様と少し違う部分を書き込んでいく作業を繰り返していった。
作業を始めて二刻が過ぎようとした所で部屋の扉が叩かれ、ユリウスが顔を出した。
「少し休憩にしないか?根を詰め過ぎると効率も悪くなるぞ」
「分かった。セラフィナ、一回結界解くよ?」
「ちょっとまって……あとここだけ描いておきたい……」
セラフィナが真剣に紙に書き込みをしているのを見て、リュカとユリウスは二人で顔を見合せた。
これは放っておくと多分頑張りすぎるやつだと理解してしまう。
「…………出来た……あ、ここももう少し描」
「はい、終わりー」
そう言うとリュカは守護結界を解除して、椅子から立ち上がった。
「えっ……」
「はいはい、とりあえず行くよ」
リュカはセラフィナの手を取って立ち上がらせると所長室へと移動をした。
リシェルはユリウスが入ってきた事にも気づかないぐらい集中しており、中断出来る雰囲気ではなかった為にそのままそっと部屋を後にした。
所長室へ戻るとライラがソファでぐったりとしており、肘掛に突っ伏しているのが見えた。
「……ライラ、どうしたの?」
セラフィナが心配そうに声をかけると、ライラはゆっくりと顔を上げた。
「うん、大丈夫よ……覚えなきゃいけない事がたくさんあってね……休憩しましょ……」
そう言ってライラは魔法鞄からいくつかの甘味を取り出した。
「あ、これこないだのトールさんからのお土産?」
「そうよ。リュカから分けてもらった分ね。前も思ったけど、領主様の所っていつもすごい量持たせてくれるのね……。高級店のだし嬉しいけど」
「私のも出すよ?」
「それは明日にね。しばらく甘味が手放せなくなりそうだし……」
ユリウスがいれたお茶を飲みながらライラが小さくため息をついた。
「なんだかんだ俺が一番楽してる気がするなぁ。一日守護結界張ってるだけだし」
「分かってると思うが普通はそんな継続して出せないんだぞ」
「うん。なんか改めて自分の能力って普通じゃなかったなって思ってた所だよ」
「ようやく自覚したのね」
「そうなんだよな……あ、ユリウス、もし良かったらセリオンさんにお願いがあるんだけど」
「どうした?」
「セリオンさん、守護結界の研究してたって言ってただろ?その時見てた文献とか、資料とか、どんなやつ見てたか教えて貰えないかな?」
「ふむ……聞いてみよう。ちょっと待ってくれ」
ユリウスは紙に要件を書き込み、セリオンに向けて伝書鳥を飛ばした。
「後さ、座ってるだけだと手持ち無沙汰なんだ。出来れば光魔法に関する本と、戦術書とかおすすめの本とかそんなんでも良いから持ってたら貸して欲しいんだけど……」
「いいぞ。うちにある物で何か持ってきておこう」
「色々ありがとな。助かるよ」
「気にするな。俺の方が随分と楽させて貰ってる。他にいる物があれば言ってくれ」
「うん、またお願いするわ。でも人に教えるのって結構大変な気がするけどなぁ」
「そうか?生徒が二人共優秀だからな。教えがいもある」
ユリウスがセラフィナとライラを見てにっこりと笑う。ライラがそれを見て眉間に皺を寄せ、パウンドケーキを一切れ齧って飲み込んだ。
「……上級冒険者試験に関しては良いけどさ、マナー講座は厳し過ぎるわ……」
「まぁ普通は何年もかけて教え込まれる物を十日に圧縮してるんだ。仕方ないだろう?」
「分かってるけどさぁ……」
「大変そうだね……」
「セラフィナも頑張り過ぎちゃダメよ」
「私は大丈夫。結構楽しいよ」
「楽しいなら良いけど没頭しすぎるとリシェル所長みたいになっちゃうわよ」
「…………気をつける……」
「そういう所はユリウスがちゃんとしてくれるだろ。うちのパーティのリーダーだぞ」
「誰がオカンだ」
「まぁ確かに」
「それはそう」
三人が頷くのを見て、ユリウスが納得いかないような顔をしていた。
それを見て三人はまた笑い、和やかに休憩時間が過ぎていった。
ユリウスにオカン属性が付きました。
元々面倒見が良いのです。




