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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
3章 エルドリア王国
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76話 力の使い方

 依頼を受けた次の日、所長室の奥の部屋でリュカは守護結界を展開していた。守護結界は魔力を帯びた攻撃を無効化する効果がある。

 強度は術者本人の光魔法の練度にもよるが、リュカの守護結界は一般的な術者の上の強度を保っていた。

 リシェルは魔力を帯させた手で守護結界を触り、何かを観察していく。

「ふむ……リュカ君の守護結界はやはり他の術者とは方陣の形が少し違うな……ここの紋様をこうすれば強度が上がるか……そうすると使う魔力量はどうなる?常時展開となると……いや、もしかして効率化がされているのか?そうなると……」

 

 床に直に座り、紙に思いついた事をメモしていくリシェルを横目に、リュカは手持ち無沙汰になっていた。

 自分一人を覆う大きさの守護結界なら、他の事をしながらでも常に展開し続けられるほど、リュカにとっては息をするのと同じだった。

 戦場にいた頃は大人数に一日中展開していたし、移動も行っていた。なんならその後に上官の就寝時間にテントを覆うように展開することもあったのだ。

 今思えばあの上官に酷くこき使われていたんだと分かる。


 リュカは自分の魔法について考えていた。

 リュカが得意なのは光魔法だけだ。後使えるのはコップ一杯程の水を出す水魔法だけ。だがその程度なら、世の中にいる全ての人が出せるという基礎的な生活魔法だ。

 魔力制御の訓練を受けても、光魔法以外はちっとも使えず、なんとかコップ一杯の水が出せるだけ。

 マッチサイズの火が出せる火魔法も、少しだけ土を盛り上がらせるだけの土魔法も、そよ風のような風魔法さえ出せない。

 その代わりなのか、治癒魔法は他の人が出来ない、欠損の修復が出来る。魔力もどんだけ使っても魔力切れを起こした事は無いぐらい無尽蔵に使える。

 リュカの先生でさえ、欠損部位が残っていたら繋げられるだけだというのに。

 

 ふと、セリオンと交わした会話がよぎった。

 

『私は治癒魔法が使えない』

『私の光魔法は守護結界に特化していてね。治癒魔法を使う代わりに結界に全振りしてると言ってもいいかもしれないねぇ』


 自分の魔法は他の属性を捨て、光魔法に特化している。

 治癒魔法は息さえあれば命を繋げるほど強力な物。

 切り傷程度なら瞬時に治せる。

 近距離だけじゃなくて、離れた距離でも治せるし、範囲治癒魔法も展開出来る。

 守護結界も、神官が展開するよりも強固で、範囲も広い。

 セリオンに言われてやった反射(リフレクト)も出来た。

 物理攻撃を防ぐのも、セリオンが出来ると言っていたから、多分コツを掴めば自分も出来るのだろうと思う。


 そこまで考えて、リュカは少し青ざめていく。

(良く考えたら、俺の光魔法って本当に結構ヤバいんじゃないか?)

(魔力量だって、セラフィナでさえマナポーションを使うのに)

(なんで俺の魔力量ってこんな多いんだろ……)


「リュカ君」


「……っ……!はい!」

 グルグルと考えを巡らせている所に、リシェルから名前を呼ばれ、リュカは驚きで肩が跳ねた。


「何か、気になることがあるのかい?随分と焦りが見える」

「あ……そ…うですかね……?」

「魔法に関する事なら答えてあげれるかもしれないよ?僕、一応研究所(ここ)の所長だからね」

「いや……製作の邪魔になるんで……大丈夫です」

 

「邪魔なんてとんでもないさ。こういった雑談をするのも頭の中を整理するのに丁度いいんだよ。同じ事ばかりしてると煮詰まってしまうから効率が悪いんだ」


 リシェルが床で紙に何かを書き込みながらそう言ったのを、リュカは目を丸くして聞いていた。

 確かに、自分一人で考えた所で答えが出る問題でもないと、リュカはリシェルに話をする事にした。


「……なるほどねぇ。リュカ君の光魔法が強力なのは他の可能性を捨て去って特化させているから……ね。それは一理あるよ」

 

「やっぱそうなんですね……俺今まであまり疑問に思って来なかったんですけど、よく考えたらおかしいなって思って。みんな、二属性は当たり前みたいに使ってる。他の属性だって、生活に必要な魔法はみんな使えるのに、俺、水をコップ一杯溜めるぐらいしか出来ないんです。それに、リシェルさんも言ってた、俺の魔力量っておかしくないですか?」

 

「……生命維持に必要な水だけか。本当に人を救ける為に産まれた子なんだねぇ君は」


 リシェルは紙から視線を上げて、リュカを見て小さく笑った。

 思ったよりも優しい視線を向けられ、喉が詰まる。


「そうだなぁ……魔力量に関しては少し思う所はあるけど、それはもう少し調べさせて貰いたい所だけどね。人を救う為にリュカ君(救う方)が魔力切れを起こすようではダメだから。君の大きな強みだと思っておけばいいさ。今はね。悪い事ではないんだからね」


「……そうですね……」


「君みたいな、一属性特化型の子が居なかった訳じゃないよ」


「……えっ?そうなんですか?」

「うん。まだこの研究所に僕が入る前の遠い昔の話だけど。その子は水属性に特化した子だったよ」

「水属性……」

「そう。あの頃はねぇ、倫理観なんてあったもんじゃない、そんな時代だったんだけど。昔話で良くある、神に捧げる生贄とか、そういうのも田舎に行けば行くほどあった。僕が出会ったのも、そういう生贄として滝に身投げさせられた子供だったんだ。下流に流れ着いてるのを拾ったんだよね」

「拾ったんですか」

「うん。なんか面白い魔力の流れだったからさ。話聞いてみようと思って。そうしたらそんな事情の子で、滝に身投げしたけど本能で水魔法を発動してたみたいでね。なんで私生きてるの?!って混乱してたから、ご飯食べさせて落ち着かせて、説明して、結局あの子が亡くなってしまうまで一緒に旅してたんだ。なかなか楽しい体験だった」

「その、水属性に特化ってどういう感じだったんですか?」

「あの子はね、水魔法の精度が高いだけじゃなくて、この世界にある“水”と定義される物全て操れるぐらいだったよ。凍らせたり、温めたりも自由自在だった。それって凄く有用な能力だけど、凄く危険な能力でもあるからねぇ…」

「水ならってどういうことです?」

「うん。このビーカーに入ってる液体もざっくり言うと“水”だよね?そして、僕たちを形成する大半も血液という名の“水”だよ?」

「……それは確かに使い方次第で危険な能力ですね……」

 

「そうさ。どんな力だって、使い方次第で毒にも薬にもなる。……イグニスが闇魔法は危険な使い方だけじゃないって証明したようにね」

 

「……」

「リュカ君の光魔法は救う為の力だけど、そうじゃない使い方も出来るって、君は自分でも良く分かってるんだろう?」

「……はい」

「ちゃんと、自分の力と向き合うっていうのはいい面だけじゃなくて悪い面とも向き合わなくちゃいけないからねぇ。君真面目そうだし色々考え過ぎちゃうんだねきっと。大丈夫さ。君は“人に頼る”って事をもっと覚えると良い。周りを見たら助けてくれる人がたくさんいるって知ってるだけでも違うもんだよ」 

「……ユリウスにも俺は考えすぎだって言われました」

「うんうん。ちゃんと見てくれる友達は大事にしなさい。まぁリュカ君の魔力量が多いのも、気になるならこれが終わったら調べてみようか。僕も興味あるしねぇ」

「…………そうですね」 

「それにしても本当にずっと守護結界を維持出来るんだね。感心するぐらい揺らぎもないし安定してるから観測しやすくて助かるよ」

「それは良かったです……」


 どんな力でも使い方次第で毒にも薬にもなる……

 

 何かが解決した訳では無いが、リュカはこの魔導具開発期間は自分の能力の使い方を改めて考える期間だと思う事にした。

 研究所なら何か結界魔法の文献があるかもしれないなと明日からの予定を頭に浮かべていった。

ようやく自分の力は普通じゃないかもしれないと自覚したリュカ。

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