75話 魔導具開発について
「いやぁ、ごめんごめん。すっかり寝落ちてしまったよ。レンティス君からある程度はやる事聞いたかな?というかレンティス君は?」
レンティスから依頼を受けて約三刻程過ぎた頃、床で転がっていたリシェルが起き上がった。
その時四人は上級冒険者になるための勉強をしており、リュカとユリウスがセラフィナとライラに教えている所だった。
「レンティス兄さんならやる事があるからって一旦退出した所だ。かれこれ二刻前だな」
「あぁー、寝てしまうなんて勿体ないことしたなぁ。もう少し彼からも話を聞きたかったのに……」
「いや、睡眠大事なんでちゃんと寝ましょう?」
「それよりレンティス兄さんから、十日後にはある程度形になってるといい、と話があったがそんなすぐ出来る程、魔導具を作るのは簡単なものでは無いのでは?」
「あぁ、それはね、現時点である程度土台が出来上がってるから彼はそう言ったんじゃないかな?」
「えっ!?そうなんですか?」
「僕がなんでこんな根詰め作業してたと思ってるんだい?解析と同時に対策の魔導具製作に着手してたって訳だよ。ちょっと、みんなこっちに来てくれる?」
リシェルは四人を連れ、所長室の奥にある研究の為の部屋へと移動した。
中に入ると床にも机にも大量の書類が散らばっていて、リュカ達はそれを踏まないように移動をする。
「……リシェル所長、差し出がましいが多少片付けをした方がいいんじゃないか?」
ユリウスが思わずそう言うと、リシェルは楽しそうに笑った。
「ふふふ…今はその時間さえ惜しいんだよ。いつもはもう少し綺麗なんだけどね。……さぁ、これだよ。基本の土台となる魔導具は」
リシェルが手に取ったのは、複数の魔石を連ねて、小さい金属のプレートがついている、ブレスレットのような魔導具だった。
「これは魔石の出力が足りなくて連ねてるんだけど、もう少し上質な魔石を使うと数が減らせる。最終的に指輪ぐらいの大きさにしたいんだ」
「そんなに小さい魔導具で常時発動型なんて作れるんですか?」
「これが作れるんだよね。常時発動するには魔導ランプの応用をすれば簡単なんだ。でも魔導ランプと違って灯りをつけるんじゃないからねぇ。これは闇魔法を防ぐ為の物だから、常時守護結界を張っておくか、治癒魔法を組み込んで、魔力を感知したら即発動するようにするか悩んでいる所なんだ。そこで、リュカ君の出番って訳だよ」
「…………?どういう訳で……?俺、魔導具の仕組みなんて全然分からないんですけど……」
「うん。良いんだよ。回路設計を詰める為に、洗脳を解除する為の治癒魔法と闇魔法を遮断する守護結界を見せて欲しいんだよ。じっくり間近で魔法の解析をしたい。リュカ君、魔力量が多いから長時間発動しても大丈夫だよね?」
「……あ、はい……多分……」
「後は魔石に光魔法の魔力を込めて欲しくてね。まずはこれが正常に動くかの確認もしなければいけないし……」
その時、セラフィナが小さく手を挙げて遠慮がちに口を開いた。
「あの……私は何をするんでしょうか?何かのお手伝いをする、としか聞いていなくて」
「おぉ、そうだった。セラフィナ君、精霊とは仲良くなれたかな?」
「あ、はい。……みんなおいで」
セラフィナがそう言うと、四属性それぞれの精霊がリシェルの前に姿を現した。リシェルは目を見開くと、満面の笑みを浮かべそのまま床に崩れ落ちて膝をついた。
「素晴らしい!!素晴らしいよ!!!ここ百年は成長した火の精霊と水の精霊にはお目にかかれて無かったのに!!土の精霊もファイフ君以来だよ!!あああこんなにたくさんの精霊を見ることが出来るなんて!!!」
あまりの勢いに少しだけ後ろに下がるセラフィナと精霊達だった。
ルビーはセラフィナの頭の上に、ラピスラズリはリュカの右肩に、ペリドットはライラの左肩に、シトリンはユリウスの背中に張り付いて、そっとリシェルの方を見ている。
「おお、こんな反応が見られるなんて新しい発見だよセラフィナ君。契約者以外に精霊が寄るなんて!君が信頼を寄せてる人に寄ってるのかはたまた相性のいい魔力に寄ってるのかそれとも人が元来持ってる精霊魔法を使う素質に惹かれてるのかそれとも」
「…………あの!!」
ブツブツと呟きながら顎に手を当てて研究者モードに入ってしまったリシェルをセラフィナが大声で止めた。
「私は!結局!何をするんでしょうか!!」
言い終わった後、慣れない大声で肩で息をしながら小さく手が震えるセラフィナを、全員が驚いたような顔で見る。
リュカはセラフィナの横に並ぶと、そっと彼女の背中を撫でた。
「あぁ、すまなかったね。精霊に会えてつい興奮してしまって。……セラフィナ君には魔法の解析を共に行って欲しくてね。僕だけの視点だと見逃す事もあるだろうし、魔力の流れを高度に観測できる人材が欲しかったんだ」
「魔力の流れ、ですか?」
「うん。君は魔力制御にも優れているし、魔法がどんな方陣を展開しているのか視認する力があるんだよ。精霊魔法を使うという事は“目”が良いって事だからね」
「……分かりました。どこまでお手伝い出来るかは分からないけど……あ、あの、でも上級冒険者の試験は受けなきゃなので……」
「それは構わないよ。試験までは勉強の片手間でやってくれたらいい。その事についてはレンティス君にも散々言われてるからねぇ……」
散々、という単語が引っかかったが、四人は黙って飲み込んだ。
「これ、所長室まで直通で来れる鍵だから、君たちに渡しておくよ」
そう言ってユリウスに手渡されたのはカード型のパスキーのようだった。
入口の機械にかざすと鍵が開くようになっているそうだ。
一枚しか無いのでしばらくは全員で所長室に通い、リュカは奥の部屋で魔導具開発、ライラとセラフィナは試験勉強、ユリウスはその講師、その間に時々セラフィナは開発の手伝いをする、という事になった。
リシェルはとても優秀だけどやっぱり変わり者。




