9話 魔力暴走のあと
6/22少し改稿しました
「セラフィナーー!良かったぁーー!!」
半ば泣き声のような声と共に、ライラが駆け寄ってくる。セラフィナの前にしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込んだ。
「怪我ない!?どっか痛くない!?気分悪いとか!?」
矢継ぎ早の言葉に、セラフィナを見つめる金色の瞳が本気で心配しているのが分かる。
ライラの手が一瞬、セラフィナへ伸びかける。だが途中で止まり、ぎこちなく空を掴んだまま引っ込められた。
「心配したんだからーー!」
セラフィナは、少しだけ目を見開いた。
――心配……?私を?……そんなこと、今までされた事無かった。
「……大丈夫……ごめんなさい……スカウトさん……リーダーさんも……」
赤くなった目を伏せるセラフィナに、ユリウスが静かに言った。
「気にするな。全員無事なんだ。それで十分だ」
短い言葉だったがそこに責める色は無い。彼は周囲を見渡し状況を確認する。
「今日は中ボスに行く前に調査を切り上げよう。無理をする理由はない」
そしてセラフィナへ視線を戻した。
「安地まで歩けるか?」
セラフィナは小さく頷いた。
「……うん」
四十階層の安全地帯まで引き返した四人は、手早く野営の準備を終わらせると、焚き火の前に集まった。パチパチと薪の弾ける音、そして橙色の光の中、四人は円を作るように座っている。
しばらく沈黙が流れたあと、ユリウスが落ち着いた声で口を開いた。
「セラフィナ、……一体、あの瞬間何があったか説明出来るか?」
「……分からない……」
セラフィナは少し考え、視線を落としながら言った。
「急に…耳障りな高い音がして……それから……気づいたら、魔力が……」
眉をわずかに寄せ、それ以上は言葉が続かなかった。その横でリュカが顎に手を当て、少し考えるようにセラフィナへ問いかけた。
「……なぁ、前も魔力暴走しかけてたよな?」
セラフィナの肩が小さく揺れる。
「その時は、どんな状況だった?」
「……あの時は……ダンジョンに潜ってた時で……」
ふと思い出したようにセラフィナの目が上がった。
「あ……あの時は…四十五階層の……中ボスの前だった……」
焚き火の向こうで、リュカが静かに頷く。
「やっぱりか……セラフィナがダンジョンから出てきた後、あのはぐれモンスターの群れが出てきたよな?」
ライラが「あー…あれね...」と小さく声を漏らす。リュカは続けた。
「セラフィナって四属性全部使えるだろ?だからさ……」
少し言葉を探しながら言う。
「ダンジョンの異常な魔力と、共鳴、というかそんな感じなんじゃないかと思うんだけど」
「……共鳴?」
セラフィナが不思議そうに首を傾げる。
その横でユリウスが腕を組むと納得したように呟いた。
「……そうか、四属性を操るほど膨大な魔力持ちだ。ダンジョン内の異常が発生する際の魔力と、親和性が高い体質なのかもしれないな」
ライラがぽんと手を叩いてセラフィナを見る。
「え、もしかしてさ!魔力暴走するかもって思って、今まで誰ともパーティ組んでなかったの?」
セラフィナは少し視線を彷徨わせた後小さく頷いた。
「そっかぁ……怖かったよね…」
ライラは柔らかく笑った。セラフィナが目を瞬かせる。
「だってさ、暴走っていつ来るか分かんないんでしょ?そりゃ一人で抱えるのキツいわ。…まぁでも大丈夫よ」
その言葉に、セラフィナの胸がぎゅっと締め付けられる。
――どうして……どうしてそんな風に言えるの?
怖がらせたのに。
巻き込むかもしれないのに。
喉の奥が熱くなった。
「……なんで……?」
震える声が漏れた。
「怖くないの……?」
「え?」
ライラは不思議そうな顔をしたあと口角を少し上げて笑い、隣の人物の肩に手を置いた。
「怖い訳ないじゃん。だって今はリュカが抑えられるし?」
リュカが「え、俺?」と言いたげな顔をする。
「ね?」
ライラがにっこりと笑う。リュカは少しだけ苦笑すると視線が
「うん。そうだよ、セラフィナ」
リュカは真っ直ぐセラフィナを見ると優しく微笑んだ。
「このパーティにいる間は、俺がもう暴走なんてさせないから」
全く迷いの無い言葉が、セラフィナの胸を強く打つ。
――この人は...どうして、こんなにも迷わず言えるんだろう。
その時、ユリウスが静かに言った。
「それに、異常が起きる前に感知出来るということだろう?それはむしろ大きな利点だ」
腕を組んだまま頷く。
リュカも「あ、それ確かに」と頷く。ユリウスは続けた。
「ダンジョン調査において、これほど有用な能力は無い。誰も気にしていない、誇ってもいい事だ」
焚き火の火が揺れる。
その光の中で――ぽたり、と雫が落ちた。
セラフィナの赤い瞳から、涙がこぼれていた。
「……ありがとう……本当に……」
声が震え、それ以上言葉は続かなかった。
みんないい人。
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※魔力暴走とはなんですか?
魔力暴走とは、魔法を使用する際に体内のマナ(魔力)をうまく制御できず、魔法として発動させることができないまま、魔力だけが外へ溢れてしまう現象のことです。
魔力の制御が未熟な幼い子供に時折見られる現象であり、成長とともに自然と起こらなくなりますが、ごく稀に大人でも発生する場合があります。




