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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1章 グレイスロウ
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9話 魔力暴走のあと

 ――ダンジョン第四十階層。

 暴走していた魔力の嵐が嘘のように消え、そこには静寂だけが残っていた。

「セラフィナーー!良かったぁーー!!」

 半ば泣き声のような声と共に、ライラが駆け寄ってくる。セラフィナの前にしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込んだ。

「怪我ない!?どっか痛くない!?気分悪いとか!?」 

 矢継ぎ早の言葉。金色の瞳が本気で心配しているのが分かる。

 ライラの手が一瞬、セラフィナへ伸びかける。だが途中で止まり、ぎこちなく空を掴んだまま引っ込められた。

「心配したんだからーー!」

 セラフィナは、少しだけ目を見開いた。

 ――心配、された。

 そんなこと、今までほとんど無かった。

「……大丈夫……ごめんなさい……スカウトさん……リーダーさんも……」

 視線を伏せるセラフィナに、ユリウスが静かに言った。

「気にするな。全員無事なんだ。それで十分だ」

 短い言葉だったがそこに責める色は無い。彼は周囲を見渡し状況を確認する。

「今日は中ボスに行く前に調査を切り上げよう。無理をする理由はない」

 そしてセラフィナへ視線を戻した。

「安地まで歩けるか?」

 セラフィナは小さく頷いた。

「……うん」

 

 ――第四十階層、安全地帯。

 野営の準備が整い、焚き火が小さく揺れていた。パチパチと薪の弾ける音。その橙色の光の中で、四人は円を作るように座っている。しばらく沈黙が流れたあと、ユリウスが落ち着いた声で口を開いた。

「セラフィナ、……一体、あの瞬間何があったか説明出来るか?」

「……分からない……」

 セラフィナは少し考え、視線を落としながら言った。

「急に……耳障りな高い音がして……それから……気づいたら、魔力が……」

 眉をわずかに寄せ、それ以上は言葉が続かなかった。その横でリュカが顎に手を当て、少し考えるようにセラフィナへ問いかけた。

「……なぁ、前も魔力暴走しかけてたよな?」

 セラフィナの肩が小さく揺れる。

「その時は、どんな状況だった?」

「……あの時は……ダンジョンに潜ってた時で……」

 ふと思い出したようにセラフィナの目が上がった。

「あ……」

「思い出した?」

 ライラが身を乗り出す。

「……四十五階層……中ボスの前……だった……」

 焚き火の向こうで、リュカが静かに頷く。

「やっぱりか」

「セラフィナがダンジョンから出てきた後、あのはぐれモンスターの群れが出てきたよな」

 ライラが「あー…あれね...」と小さく声を漏らす。リュカは続けた。

「セラフィナって四属性全部使えるだろ?だからさ……」

 少し言葉を探しながら言う。

「ダンジョンの異常な魔力と、共鳴、というかそんな感じなんじゃないかと思うんだけど」

 

「……共鳴?」

 セラフィナが不思議そうに首を傾げる。その横でユリウスが腕を組んだ。

「……なるほど」

 納得したように呟く。

「四属性を操るほどの膨大な魔力、...それだけの魔力量を持つ者なら、ダンジョン内の異常な魔力と親和性が高くてもおかしくはない」

 焚き火の火が、彼の横顔を照らす。

「つまり体質の問題、ということかもしれないな」

 ライラがぽんと手を叩いてセラフィナを見る。

「え、もしかしてさ!それで暴走するかもって思って、今まで誰ともパーティ組まなかったの?」

 セラフィナは少し迷い――小さく頷いた。

 焚き火の音だけが一瞬響く。

「そっかぁ……怖かったよね…」

 ライラは柔らかく笑った。セラフィナが目を瞬かせる。

「だってさ、暴走っていつ来るか分かんないんでしょ?」

 肩をすくめる。

「そりゃ一人で抱えるのキツいわ。…まぁでも大丈夫よ」

 そして、にっと笑った。

 その言葉に、セラフィナの胸がぎゅっと締め付けられる。

――どうして。

どうしてそんな風に言えるの?

怖がらせたのに。

巻き込むかもしれないのに。

喉の奥が熱くなった。

 

「……なんで……?」

 震える声が漏れた。

「怖くないの……?」

「え?」

 ライラは不思議そうな顔をしたあと口角を少し上げて笑い、隣の人物の肩に手を置いた。

「だって今はリュカが抑えられるじゃん」

 リュカが「え、俺?」と言いたげな顔をする。

「ね?」

 ライラがにっこりと笑う。リュカは少しだけ苦笑してから、セラフィナを見た。

「うん」

 優しい声だった。

「そうだよ、セラフィナ」

 焚き火の光の中で微笑む。

「このパーティにいる間は、俺がもう暴走なんてさせないから」

 全く迷いの無い言葉が、セラフィナの胸を強く打つ。

――この人は...どうして、こんなにも迷わず言えるんだろう。

 その時、ユリウスが静かに言った。

「それに」

 腕を組んだまま頷く。

「異常が起きる前に感知出来るということだろう?それはむしろ大きな利点だ」

 リュカも「あ、それ確かに」と頷く。ユリウスは続けた。

「ダンジョン調査において、これほど有用な能力は無い。誰も気にしていない、誇ってもいい事だ」

 焚き火の火が揺れる。

 その光の中で――ぽたり、と雫が落ちた。

 セラフィナの赤い瞳から、涙がこぼれていた。

「……ありがとう……本当に……」

 声が震え、それ以上言葉は続かなかった。

みんないい人。


________________________

※魔力暴走とはなんですか?


魔力暴走とは、魔法を使用する際に体内のマナ(魔力)をうまく制御できず、魔法として発動させることができないまま、魔力だけが外へ溢れてしまう現象のことです。


魔力の制御が未熟な幼い子供に時折見られる現象であり、成長とともに自然と起こらなくなりますが、ごく稀に大人でも発生する場合があります。


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