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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
3章 エルドリア王国
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69話 突然の訪問

 休暇五日目の朝、二日ほどグランスロット家へ顔を出しに行っていたユリウスが貴族街の家へと帰ってきた。


 その後ろに笑顔の領主代理を連れて。


「えっ……どうしたんですか?」

 リュカが目を見開き、驚きを隠せないままセリオンに聞いた。

 

「あぁ、ごめんね急に。サイレスが今日はユリウスの家に行くって言ってたからね。面白そうだからついて来ちゃった」

 

「なんか……すまん……」

 ユリウスが眉間に皺を寄せ、リュカから視線を外してバツが悪そうに謝った。

「もー、ユリウスは本当にツレないなぁ。可愛い弟の普段の暮らしぶりを見に来て何か悪いことでもあるのかな?」

「いや、何もありませんけど。トール兄様に仕事全部押し付けて来てるじゃないですか……」

「トールだって『たまには息抜きも必要ですからね』って言ってくれたから。ほら、お土産まで持たせてくれてるよ?」

 そう言うと、後ろに控えていたサイレスがリュカに大きめの紙袋を手渡した。

「トール兄からだ。なんかどっかの美味い菓子やらなんやらって言ってたぞ。またパーティのお嬢さん達とも分けるといいってよ」

「あ、ありがとうございます」

 受け取ったリュカはひとまず机にそれを置いた。


 ユリウスがお茶を入れに行っている間、残されたリュカはセリオンと共にリビングのソファに座った。

 リビングのソファに座るセリオンに違和感しかないが、サイレスがその後ろに立ってるのも落ち着かない原因だった。

 

「ガルディアでは大変だったみたいだね。」


 足を組んだ膝の上に手を置き、セリオンが笑みを浮かべながらリュカに話しかけた。

「……そうですね。でもエルドリアも直ぐ動いてくださったんで、事態も悪化せずに終わって良かったと思います」

「うん。こちらとしてもあの短い時間ではレンティスしか動かせなかったから。みんな無事に帰って来てくれて嬉しいよ」

「いや、レンティスさんだけでも過剰戦力ぐらいの勢いでしたけど……」

「そう?まぁあの子は仕事が早いからねぇ。どうだった?一緒に訓練してみて」

「……めちゃくちゃ勉強になりました」

 神妙な顔をしてそう言ったリュカを見て、セリオンは楽しそうに笑った。

  

「あっははは!レンティスは厳しいけど分かり易いでしょう?……だから、陛下の元に行かせたんだけどねぇ」

 

「……えっ?」

 

「サイレスとレンティス、両方グランスロット(うち)で抱えてると、反旗を翻したら必ずうちが勝っちゃうから。まぁ面倒だしそんな気は全然無いんだけど」

 

「え゙っ……」

 

「ホント、可愛い弟を泣く泣くエルドリア騎士団に入れたっていうのにね。国もちゃんと仕事して欲しいものだよ」

 

「…………」

 なんだか聞いてはいけない事を聞いてしまったような気がして、リュカは視線を下に落とすしかなかった。


「セリオン兄様、変な事をリュカに言わないでください」


 お茶を乗せたワゴンを押しながらユリウスが戻ってきた事に、心の底から安堵したリュカだった。

 

 渇いた喉をお茶で潤していると、サイレスがにっこり笑って一歩前へ出た。

「休暇中にすまないな。今日ここに来たのは、レンティスとやったなら折角だし俺もお前たちと手合わせしようと思ってな」

「えっ……」

「ユリウスも家を出てからあまりする機会が無くなってしまってなぁ。お互い忙しいし、この機会を逃すとまた当分お預けになるからという事なんだが、どうだろうか?」

「いや、俺としては手合わせ自体はありがたいですけど……」 

 レンティスが話していた、幼い頃に屋敷の屋根を吹き飛ばしたお兄さんじゃなかったか、と少し躊躇するが、セリオンがそれに気づいたように声をかける。

「あぁ、家壊さないか心配?レンティスに聞いたかな?」

「えっ……あ、はい……一応ここ、貴族街ですし……」

「うん。それに関しては私がいるから大丈夫だよ。心配いらない。さぁ、裏庭に出ようか」

 

 疑問が残るまま四人で裏庭へ出ると、セリオンが懐からシンプルな杖を取り出し、それを横に一振りした。水色に金が混じったような魔力が光ったと思ったら、裏庭いっぱいに守護結界が張られていた。

「すご……セリオンさんも光魔法持ちなんですか?」

「うん、そうだねぇ。私の適正魔法は水魔法と光魔法なんだ。でも私は治癒魔法を使えない」

「えっ?」

 

「ふふっ、私の光魔法は守護結界に特化していてね。治癒魔法を使う代わりに結界に全振りしてると言ってもいいかもしれないねぇ」

 

「セリ兄、俺が屋根吹き飛ばしてからそっちの研究ばかりしてたからなぁ……でもその研究のおかげで、そんじょそこらの守護結界とは訳が違うんだ」

「どういう事ですか?」

 

「俺が全力で殴っても壊れない」


「………………は?」

 

 守護結界を物理で殴って壊す……?

 

 いや、ダンジョンに出るモンスターは存在自体が魔力を帯びてるから、モンスターの物理攻撃を防げるのは分かる。

 そもそも、守護結界で人の物理攻撃を防ぐように出来るなんて知らなかったリュカは、意味が分からず口をポカンと開けたまま固まってしまった。

 その後ろから、ユリウスがリュカの肩を叩く。

「……この二人を普通の基準で捉えては駄目だぞ……」

「…………そうかも……」

 リュカとユリウスは揃ってため息をつくと肩を落とした。


「これで他所に被害は出ないから、思い切り手合わせするといい」

 そう言うと、セリオンは微笑みを浮かべたまま裏庭に置いてあったベンチに優雅に腰掛けた。


「さ、ユリウスもリュカも、遠慮なくかかってこい。一発当てれたらお前たちの勝ちな」


 木剣を緩く構えたサイレスだったが、その立ち姿には全く隙がない。 

 ガルディアでの地獄の訓練が思い出され、リュカの背筋に冷たいものが走った。

 

 それからは悪夢の再現のようだった。

 なんならレンティスの訓練より酷い。

 サイレスの振った木剣の風圧で地面に叩きつけられるし、ユリウスが最初の模擬戦で見せた追尾の槍も出し惜しみする事なく放っていたが木剣を破壊するに留まるし、水弾も無数に放つ合間にリュカも踏み込んで行くが、残った柄でこっちの武器を止められるし、二人が地面に転がる回数も多かった。

  

 転がる回数は多いのに、サイレスからは感覚的な事しか言われず、ただただ理不尽に吹き飛ばされていた。


「……っはぁ……無理過ぎる……」

「…これだから……感覚派の兄様は……」

 

 サイレスはただただそこに立っているだけに感じるほど、殆どその場から動いていなかった。

 

「ユリウス、リュカ君、ちょっとこっち」


 突然、ベンチに座ってにこやかに手合わせを見ていたセリオンから声をかけられた。二人は顔を見合せ、セリオンの傍に寄っていった。


「どう?サイレスは強いでしょう?まぁユリウスは知ってるか」

「理不尽過ぎて笑いしか出てこないですね」

「ふふっ、まぁそうだけどねぇ。付け入る隙は出せるよ」

「えっ!?アレに!?」

「うんうん。もうちょっと寄って」

 セリオンはリュカとユリウスにコソッと何かを耳打ちすると、唇に人差し指を当て、にっこりと笑った。

「私の見立てだとね、力は互角でもサイレスよりレンティスの方が強いから。二人で協力して一発当てておいで。リュカ君、出来そう?」

「……多分、出来ると思います」

「流石だねぇ。ユリウスもいけるね?」

「はい」

「うん、いい返事だ。じゃあ頑張って」


 セリオンに送り出され、元の位置に戻った二人はサイレスに向け武器を構える。

「セリ兄に何言われたんだ?楽しみだな」

 柄だけになった木剣を入れ替え、サイレスも緩く武器を構えた。

「……行くぞ」

「あぁ」

二人は同時に踏み込むと、ユリウスが土魔法でサイレスの足元を隆起させる。

 それに体勢を崩すサイレスでは無いが、ただ隆起させるだけではなく、サイレスの目線の高さまでの壁をいくつも作っていく。

 その隙間を縫うようにリュカはサイレスに近づいていくが、サイレスは木剣を横に一閃、力任せに振り抜くといくつもの壁が吹き飛び、破片はリュカに向かって飛んで来た。

 リュカが守護結界を張ると同時にユリウスの水弾がサイレスに当たらずリュカに向かっていた。

「ん?」

 サイレスが予想外の出来事に一瞬目を見張ると、次の瞬間、吹き飛ばした破片と無数の水弾がサイレスの目の前に一斉に押し寄せていた。

 

「……!反射(リフレクト)か!」

 

 サイレスは押し寄せる土砂と水弾を、上から下へ縦に切った。切られた魔法は風圧でサイレスを避けて左右に飛んでいく。

 と同時に後ろから更にユリウスの水弾が迫っていて、一瞬で後ろを向くとそれを下から上に切り、そのまま上から攻撃に来たリュカの槍を受け止めた。

 

 サイレスはその瞬間、左足首に衝撃を感じる。


 水魔法を操りながら体勢を低くして彼の死角に迫っていたユリウスの木剣がしっかりと足首に当たっていた。


「うんうん。二人ともやれば出来るね。流石だよ」

 セリオンが楽しそうに拍手をしていた。サイレスはしっかりと当てられた驚きで目を丸くしていたが、嬉しそうにリュカの肩を叩いた。

「うわぁ!マジかぁ。ってかリュカ、反射なんて高度な光魔法使えたのか!」

「いや、セリオンさんにこうしたらって言われてやってみたら出来たというか……」

「えぇー……ぶっつけ本番か。そんなんで出来るようにならないだろ普通……」

「リュカの光魔法は規格外だからな」

 何故かユリウスが誇らしげに頷いていた。 

「いやぁ、やられたやられた!強くなったなぁユリウスも!」

 サイレスは豪快に笑いユリウスと肩を組んだ。

「まだまだ、一人じゃ勝てませんけどね……」

「ははっ!いいんだよ!お前は冒険者なんだ!仲間と連携してなんぼだろ!」

 

 リュカはセリオンが座るベンチに寄ると、片膝をついてセリオンの目の前に座り、小さく頭を下げた。

「あの、セリオンさん」

「うん、何かな?」

「ありがとうございました」

「んー?何のお礼?」

 

「俺、治癒魔法は得意だけど、守護結界についてはあんまり突き詰めてなくて。結界にも色んな可能性があるんだって気づけました」

 

「うん。気づきがあるのはいい事だね」

 

「ユリウスの仲間として、何があっても必ず、ここに無傷でユリウスを連れて帰ってきます」


「ふふっ、いいかいリュカ君。ユリウスだけじゃなくて、君も無傷で、ここ(グレイスロウ)に帰ってくるんだよ」


 セリオンはリュカの肩に手を置くと、優しく笑ってそう言った。

 

「……はい。必ず」


 その後はまたリビングへ戻り、リュカはセリオンから守護結界についての話を教えてもらっていた。

 しばらくすると、領主館からセリオンを迎えに遣いがやって来る。まだ帰りたくないと渋る領主代理をサイレスが荷物のように抱え上げた。

「はー……トールに言われてたね?サイレス」

「トール兄……怒ると怖いし……」

「仕方ないなぁ…帰るとしようか。じゃあ二人共、またパーティみんな、うちに招待するからね」

 そう言って抱えられたまま去っていった。

 

 こうして突然の領主代理の訪問はたくさんの気づきを残して終わった。

来ちゃった(ノ≧ڡ≦)☆って感じで気軽に来ちゃう領主代理。

リュカもセリオンが第二の先生になりそうです。

まだまだ成長の余地があります。

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