25 料理対決②
25 料理対決②
飯塚春菜
ひと店舗から三人ずつ、世代も立場もバラバラで集まった人たちはここでまた別店舗の初対面の人たちと三人一組のチームになります。フロアと厨房と混ざった三人です。その後、このうちの会社が契約している農園、石井農園の方に用意してもらった取り立ての野菜から自分達が作るのに必要な野菜を持って行って、調理してもらう。会場はキャンプ場の野外の調理場です。自分でキャンプ用のコンロとかいろいろ用意していなければ使うのはキャンプ用に常設しているような炭とかしかないんです。
農園で用意してもらうのは野菜だけ。そして課題は野菜料理。調味のために必要な、オイルとか調味料や香辛料は自分達で用意するように伝えてあった。ただし、当日はバラバラになるので、個人として用意するようにと言ってありました。
夕方、まだ明るいうちから作業に取り掛かる。都会にはない爽やかな夏の自然の中で、みんなは同じ会社なのだけれど、初めてあった年代も違う人たちと共同作業を始めました。
わたしはねずこの姿で家庭用のホームビデオを持って歩き回りました。
「藤田さーん」
「あ、づかちゃん」
「何作ってるんですか?」
「ラタトゥユ*4です」
「ああ、定番ですねぇ」
フレンチの定番の家庭料理。
「あれ?コンロとか持ってこなかったんですか?」
「重いじゃない。やだやだ。流石に鍋は持ってきたけど」
「じゃ、どうすんですか?」
「この、キャンプ場の炭と竈門でどうにかするよ」
「え、どうにかなるんですか?」
「別にどうにかなるんじゃない?」
弘法大師、筆を選ばずってやつですか?藤田さん。余裕だな。
それから、一つ一つチームを回る。
「冷蔵庫って使えるんだよね」
「え?」
「あの研修棟の使っていいって聞いたんだけど」
「ああ、それは大丈夫だと思います。何作ってんですか?」
「野菜のテリーヌ*5です」
「わぁ、綺麗」
色とりどりの野菜を閉じ込める。宝石のような料理。テリーヌ型に入れて冷やして固めるんです。華やかな色のソースをかけて食べます。イタリアンのチームはバーニャカウダ*6の用意をしていた。
「アンチョビとかどうしたんですか?」
「事前に用意していたんですよ」
手際よく準備しているのを片目に次のチームへ
「あれ、こんなのもあったんだ」
「特別に頼んで作ってもらってるんですよ。ここで」
それはプンタレッラ*7という野菜です。日本ではあまり馴染みのない野菜。シェフはお店でも出しているプンタレッラのサラダを作っていました。ハマると病みつきになる味です。その隣の人たちはなんだか遊んでる。
「あれ、準備は?」
「もう仕込みは終わったんで」
「簡単だなぁ。何作るの?」
ブロッコリーのアーリオオーリオ*8。オリーブオイルとニンニクで炒めた料理です。
「熱くないと美味しくないでしょ?」
和食のチームもありました。夏野菜の揚げ浸し。これはこれでまたさっぱりといいな。ビールに合うなと思いながら、次のチームへ。
「あら……」
「どうも」
「もしかして……」
「僕達、完全に、負け確定?」
「……」
あちこちで美味しそうな香りがあがったり、綺麗な色どりのものをみてきてたどり着いた。
「なんか、間違った場所に迷い込んできてしまった人たちみたいですね」
「いや、でも、づかちゃんだってさ。今、ここで、あの人たちと対抗して何か作れと言われたら、何をつくる?」
「……」
「俺ら、毎日高級レストランで働いているけど、別に料理作ってないし」
「はい」
「勝ち目ないよね?」
「……」
それは、くじ運の悪い人たち。シェフが一人もいない。フロアが三人集まっちゃったチームでした。
「でも、なんか作ってるんだ」
「枝豆茹でました」
「採れたての枝豆、うまそうだなって」
「それと、カボチャの煮付け」
「あ、おいしそ」
失礼して一個摘んだ。これはこれでなんだか安心するなと思いつつ食べる。
「そして、野菜スティックに味噌か……」
「どうよ。この異次元。不意にここだけ落とし穴に落ちたみたいにさ」
「いや、でも、美味しいですよ。普通に」
「づかちゃん、そんなボリボリ食べないでよ」
「いや、マジうまいな。採れたて野菜。ビール欲しいな」
会社で持っているケータリングカーをセントラルで一台運転してきた。あそこに、バーベキュー用に調味料につけて用意した肉とお酒が冷えていたはずだ。ビールもちゃんとあったよな?
「俺たちがコスプレで決定ですよね?」
みんなくらい顔している。
「いや、こんなことぐらい、全然。むしろ楽しいよ。わたしを見て」
「そりゃ、づかちゃんはそういう性格だからいいけどさ」
そして、時間がきた。屋外でパーティーをするような時に使う携帯用のテーブルを組み立てて、その上にテーブルクロスをかけました。ただのキャンプ場が不意に、優雅な雰囲気になるから不思議です。そこに立食パーティーでもするかのようにみんなが作った料理を並べる。自然の中に並ぶ料理は、美しかった。テーブルの端っこによく冷えたシャンパンを用意しました。ちゃんとシャンパングラスを運んだ我々に拍手を。
立派な野外パーティーをする準備が整いました。
空は、美しい夕焼けをわたしたちにプレゼントしてくれていた。
「みなさーん、お疲れ様でしたぁ。それではこれから審査員の方をお招きします」
早速よく冷えたシャンパンを引っ掛けてご機嫌のわたしの声に、皆止まった。
「え?」
「さ、どうぞー」
わたしの声に皆横を向く。そこにいたのは……
小学生、中学生の子供たち。ちょうど7人。
「え、審査員ってセントラルの人たちじゃないの?」
「いいえー、公平を期して本日は我々とは全く接点のない、し、か、も、」
少し、酔ってました。ねずこのカツラがずれてたかもしれないな。
「まだ舌の感覚の鋭い、お若いみなさんを審査員にお呼びしました」
「いや、聞いてない」
「言ってませんでしたぁ」
みんな青い顔になる。そりゃそうだ。大人の味の好みと子供の味の好みは全く違う。
「そんな重要なこと先に言っといてよ」
「いや、プロはあらゆる可能性に考慮して調理するものでありまーす、ひっく。さ、皆様、お待たせしましたね。こちらへどうぞ」
小さなお客さまたちにお辞儀をします。
「ただ、シンプルに一番美味しかったと思うものから、順番を書いてくださーい」
そして、子供たちは大人たちに囲まれながらおずおずと真ん中に進んでくる。
「さ、どうぞ。好きなものから」
「ね、お姉さん」
「ん?」
「全部食べなきゃダメ?」
小学生のかわいい女の子が小さな声で言った。
「なんで?」
「ブロッコリー、嫌いなの」
チーン
めんどくさがってブロッコリーしか作らなかったチームは票を一票失った。
「あ、無理して食べなくても大丈夫だよ」
「あの、見たことのないの、何?」
今度は男の子が聞いてくる。彼が指差したのは、プンタレッラでした。
「プンタレッラという野菜です」
「まずそ」
食わず嫌いだなぁ。ま、でも、あれは大人が好む味かもしれません。
「これ、綺麗」
テリーヌを見て喜ぶ子もいた。でも食べて眉を顰める。
「このソース、お酒入ってるね」
「ああ、ワインかな?」
「なんか違う」
「……」
そんなこんなでたどり着いた結果。
「1位はなんと!」
この時も、結構酔っておりました。
「カボチャの煮付けと野菜スティック」
「えー」
意味ねー、このやろー
司会に他愛もないものを、投げつける人が出る。紙ゴミとかね。
みなさんも酔っておりました。
「まさかの素人の勝利、イエーイ」
そのくらいの野次で怯むわたしではない。両手を上げて万歳した。
「さ、優勝の皆さん、こっちきて」
三人を引っ張り出して、前に並ぶみんなで並んで両手を上げて万歳する。
やはり、いろいろな他愛もないゴミを投げられた。ブーブー
「そして、残念ながら最下位になってしまったのはっ」
プンタレッラの皆さんでした。子供にはわからなかったこの味。
「最下位の皆さんにはお約束通り……」
「いや、こんなんナンセンスだよ」
ところが、遊びの場で本気で怒らせてしまった。プンタレッラを作ったイタリアンのシェフです。盛り上がっていたのが一気に冷める。場の雰囲気が張り詰めた。
どうしよう……
酔いと勢いが一気に冷めた。
「ま、でも、こいつらが頑張って準備したんだからさ。ここは折れてあげて」
その時、わたしの後ろからスッと一人出てきた人がいる。審査員として来てた女の子が一人、その人を指差して叫んだ。
「あ、宇髄天元*9だー!」
「ああ、そういう名前なんだ。これ」
みんな、声で分かった。だけど、一瞬本気で誰かわからなかった。
「え、うそ、社長?」
「あ、ばか、写真とるな。絶対とるな。訴えるぞ」
「ちょっ、何それ、化粧してんすか?それにかつら?」
「三原ちゃんもサオリも、面白がって人のことおもちゃにしやがって」
「なんすか、それ。歌舞伎俳優ばりの化粧してません?」
「だから、写真撮るなって、馬鹿野郎」
皆、ちゃんと立ってられないくらい笑った。しばらく誰も話せなかった。
「だからやだって言っただろ。このやろう」
「お腹すいたでしょ。野菜ばっかじゃなくてお肉があるよ」
笑われている人と笑いが止まらなくなってしまった人をほっておいて子供たちに声をかけた人がいる。中川さんだった。
「飲み物も用意しましたから、こちらにどうぞ」
その声に、子供たちがお皿とフォークを持って中川さんについて行きました。
一台用意してきたケータリングのセットでグリルを出して、中川さんが肉を焼いている。子供たちのお皿の上に順番に載せていく。その様子をちょっと離れていたところから眺めていると、声をかけられた。
「盛り上がってますか?」
「あ……」
この農園の経営者、石井さんでした。
シャンパンとみんなが作った料理をお皿に載せて、ちょっと離れたところに石井さんと二人で座りました。
「今回は、研修所使わせていただいて本当にありがとうございます」
「いえいえ。神谷社長始め、皆様にはいつもお世話になっていますから」
そう言って目尻に皺を寄せて笑った。
「いや、本当にいつ見ても魔法のようですね。皆様の手にかかると。自分達の手で作ったものが、こんなふうに美味しく食べていただけると嬉しいですね」
「恐縮です」
それからそっと石井さんは離れたところにいる子供たちの様子を眺めた。
「楽しそうにしてますね」
「そうですね」
「あの子たちにとってもね。こんなふうにいろいろな人と交わるのは良かったですね。普段はできるだけ知らない人とは関わらないように生きてますからね、あの子たちは。初めて会ったたくさんの人に親切にしてもらえるのは貴重な経験です」
石井さんの農園は、最先端農業というのでしょうか。農園の管理にいろいろな新しい技術を導入している。その関係で、それを学びたいという人からの問い合わせを受けるようになって、それで農園の片隅に研修棟という名の簡単な宿泊施設を作って、農業体験を受け付けるようになった。経費分の請求はするけど、利益を取らない活動でした。
そこに、とある日、とある学校から連絡が入った。
それは不登校の子のための一般とはちょっと違う学校の先生からだったそうです。お金を払えば子供たちに農業体験をさせてもらえますかと。
「大人を受け入れるのと違うよね。だから、迷ったんだけど……。保護者も一緒にくるのならと試験的に受け入れたんです。ところがね……」
石井さんは遠い目をしている。
「親が来るとね、なんだか、何でもかんでも世話をする。それが子供たちの手から何かを取り上げているように映ってしまったんですよ。それで、子供たちの中にリーダーを設置して、子供たちだけで来るならとルールを変えた」
「そうですか」
「とはいえ、そうなると、何かあってはいけないから受け入れ側の僕達も前より手間暇かかるようになりました」
「もう少し、利用料をあげようとは思わないんですか?」
「いや、そういうつもりでやってることではないので」
その時、閃いた。
「子供たちが農園に来るのは、夏休みとか冬休みとかですか?」
「冬はないですね。春と夏です」
「一週間くらいですか?」
「そうですね。大体そのくらい」
「じゃ、うちの若い子が手伝いにきます」
「え?でも、バイト代とか払えないんですよ」
「いや、いりません。交通費とかの経費もうちが持ちます」
「じゃ、なんで……」
「子供たちのお世話をするのをうちの研修にするんです」
「ええ?」
石井さんが目を丸くした。
「料理作るのを教えたり、生活の世話をしたり、一緒に農園で働いたり、それを研修にします」
「そんなの研修になるの?」
「レストランは……」
星が見えてきた。都会よりも空気が綺麗で、ここは星がよく見える。
「人を癒すのが使命なんです。子供たちのために自分が何をできるかについて考えるのは、最終的にはお客さんを癒すこととは何かに通じますから」
「ああ……」
ちょっと感心された。
「しっかりしてるね。飯塚さん」
「いえ、受け売りです」
ちょっと照れた。
「いいですか?」
「いや、いいはいいですけど、でも飯塚さん、そんなこと勝手に決めちゃダメでしょ?」
「ああ、そうですね」
一生懸命話してたら、笑われてしまった。
*1*2*3*9
竈門炭治郎
ねずこ(漢字が環境依存文字、難しい字でアップできませんでした)
鬼滅の刃
宇髄天元
鬼滅の刃は、吾峠呼世晴の同名の漫画を原作とするufotable制作のテレビアニメシリーズ
竈門炭治郎は、本作の主人公。年齢は13歳→15歳。身長は156cm→165cm。体重53→61kg。炭焼きの家系である竈門家の長男で、家族思いな少年。
竈門ねずこは、本作のヒロイン。年齢は12歳→14歳。身長は150→153cm。炭治郎の妹で、竈門家の長女。人間だった頃は家族思いの心優しい性格で聞き分けがよく、わがままを言ったこともないという。炭治郎不在時に鬼舞辻無惨の襲撃を受けるが、その血が傷口から混入したことで鬼化して生き残る。
宇髄天元は、「音の呼吸」を使用する音柱。年齢は23歳。「派手」が口癖で、宝石が散りばめられた額当てをはめ、左目の周囲に化粧をしている派手な出立ちの大柄なけんし。自称「祭りの神」。(参照Wikipedia)
*4 ラタトゥユ
フランスの南部プロヴァンス地方、ニースの郷土料理で夏野菜の煮込みである。(Wikipedia参照)
*5 野菜のテリーヌ
テリーヌはフランス料理で使うテラコッタ製の蓋付きの土鍋、あるいは壷、鉢、深皿。現在では琺瑯引きの鋳鉄製の鍋もテリーヌに含まれる。これを使った料理もテリーヌと呼ばれる。(Wikipedia参照)
*6 バーニャカウダ
バーニャ・カウダはイタリア・ピエモンテ州を代表する冬の鍋料理である。ピエモンテ語でバーニャはソース、カウダは熱いを意味する。(Wikipedia参照)
*7 プンタレッラ
イタリア、特にローマ地方で親しまれている冬野菜で、チコリー(アンディーブ)やトレビスなどと同じキク科タンポポ亜科キクニガナ属の一種です。(https://foodsink.jp)
*8 アーリオオーリオ
イタリア aglio olio アーリオはニンニク オリオは油の意 オリーブオイルにニンニクを加え、風味が全体に行き渡るように弱火で加熱したオイルで加熱したオイルソース。パスタ料理などに用いる。(コトバンク参照)




