25 料理対決①
25 料理対決①
飯塚春菜
「これは要らん」
「へ?」
「こんなん要らん。余計な金、かけるな」
「でも、社長」
社長に向かってイベントの案を説明している途中、社長は予算の一覧を眺めていた。野田くんが慌て出した。社長が要らんと言っているのは、レンタルしようとしていたケータリングの設備です。屋外で使用する想定の車ごと借りる設備。
「電話して確認しました。あの研修所のキッチンは狭いし簡単なものだし、フレンチやイタリアンは作れません。キャンプ場の野外で料理することになるんですよ。キャンプ場の調理するようなところでまともなものなんて作れるわけないじゃないですか」
「個人の持ち物とか、店舗の持ってって使えそうなもの使わせなさい」
取り付く島がない。
「でも、僕らプロですよ。そんな環境で料理するなんて」
はっはっはと笑った。
「これは遊びだろ?」
「ええっ?」
「むしろ、 サバイバル的環境の中で、逆境の中でも美味しいものを作る試練だとかなんとかうまいこと言ってだなぁ」
青い顔をしている野田くんと、飄々としている社長を交互に眺める。
「でも、本当は経費をかけたくないんですね」
「無駄だ。お客さんに食べさせるものじゃあるまいし」
わたしが尋ねるとシャアシャアとそんなことを言う。野田くんが青い顔をするのには訳がある。我々の会社のそれぞれの店舗の若い子はまだいい。上の方の人たちは扱いにくい人が多いんです。そして、基本的に全てのクレームは野田大輔に集まる。言いやすいんだよね。この人。
「心配するな。なんとかするよ」
ぽんぽんと野田くんの肩を叩く。
「づかちゃんが?」
「うん。みんながポカンとして、文句を言うのを忘れるようなプレゼンを考えよう」
「づかちゃんが?」
「いや、そこはサオリが」
頭脳を使わずしてどうする。
「でも僕、そんなプレゼン、自信がない」
「だから、プレゼンの強引な部分はわたしが引き受けるよ」
実を言うと、今回の件、別に大したことしてないんだよね。あんま。みんながいろいろやるのを横で見てるだけ。
「じゃ、そういうことでな」
社長が、わたしたちから視線を外すとパソコンに向かう。
「あ、社長」
「なんだ?」
「社長にも当日重要な役割がありますから」
「ふうん」
「ちゃんと提案書の後ろに書いてありますから見てください」
わたしはプリントアウトをペラペラめくって後方の一部を指差した。
「ん?」
神谷秀が手元のプリントアウトを覗き込み、止まる。
「いや、これはないだろ。これは」
「せっかくですから、麗子さんや和華ちゃんも呼んでくださいね」
「いいか、づかちゃん、代表取締役というのは普通はこういうことはしない」
「普通はしませんが、うちの代表取締役はします」
チーン
視界の片隅で野田くんがオロオロしているのが見える。
「いや、必要ねえだろ。意味ねえだろ」
「心配しないでください。ちゃんとかっこいいのにしてあげますから」
「だけどだな」
「あのですね。まだ具体的には決まってないですけど、まず女装させないとか、肌を見せるようなのはダメとか、色々考慮はしてますけど、ハラスメントギリギリなんです」
「……」
「でも、そこで、えらい人がやったんだからというのが必要なんですよ」
「崇にやらせろ。崇に」
「何言ってんですか。何でもかんでも中川さんにやらせればいいと思って」
しばらくすったもんだした。
「うちはそんなノリの会社じゃないだろ?このコスプレの部分はカットしてイベントすればいい」
「いいや。それじゃダメなんですっ。それにこれは遊びだし」
「こういうのは崇の方が似合うって」
それはちょっと見てみたいなと一瞬思ったが、やめた。
「そんなん、社長が中川さんに無理やりやらせたってバレバレです。それじゃ意味ないんですよっ」
***
そして、迎えた当日
「どうも竈門炭治郎*1です……」
野田くんの声が小さい。
「妹のねずこ*2ですー」
横で、大きい声でそういうと、手を振った。
「すげー、づかちゃん、それ、自毛?」
「んなわけないでしょ。そんなすぐ伸びるか。カツラだよ。カツラ」
みんな笑った。
「野田くんの炭治郎、デカ過ぎね?」
「本物はもっと小柄だよな」
「……」
本人、穴があったら入りたいという雰囲気です。
「いや、アニメの炭治郎はまだ子供だからさ。大人んなったらこのくらい伸びるよ」
「そうか?」
「そうそう。では、事前にも説明していたイベントのルールをもう一度説明しまーす」
アニメは、とにかく大ヒットしたから見ない人でも知ってるでしょ、ということで鬼滅の刃*3に扮することにさせていただいた。
「あ、そうそう。それと、今日のこの料理対決でビリになったチームには罰ゲームがあります」
え、なんだよマジかよと声がする。
「罰ゲームってなんですか?」
「これ」
自分を指差した。
みんなしんとした。
「いや、冗談だよね?」
さっきまでの気軽に揶揄っていた顔が引き攣った。
「わたしたちだけが、こんなことすると思ってました?」
ざわざわし出した。
「若い子だけだよね?」
おじさんがおずおずと聞いてきた。
「いや、そこは公平に」
「でも、そんな、よく知らないし、アニメなんて」
「別に知らなくても、コスプレはできますから」
「俺、やだ。マジでやだ」
今度は若い子が悲痛な声をあげた。
「じゃ、死ぬ気で美味しいもの、作っちゃってください」
みんな、顔が少し引き締まりましたよ。ふふふ。
「心配しなくっても、こんな服を着てお化粧するのはこの中の三人だけだから」
「え、化粧?」
「女の子用もあるんですかー」
バイトから参加した学生の女の子が声をかけてきた。
「ちゃんとあるよー」
隣に座ってた別の店舗の女の子たちと顔を見合わせて楽しそうにしてた。そうね。女子は扮装には慣れてるな。余裕だよね。
「あ、あと、最下位の三人の他にサプライズでもう一人コスプレしてくれる人がいますんで」
「えー、誰ー?」
「それはお楽しみで」
みんなが集まっている一番後ろで、腕を組んで笑ってるんだけど笑ってないような顔で立っている、サプライズの本人がいる。この後に及んでまだ納得していない。土壇場で逃げないか心配だ。
「それでは、今日のチームを決めるくじを引いてください」




