もうひとつのエピローグ
それは、もう思い出せないほどの遠い昔。
神には一柱の娘がいた。小さな光の愛らしい娘。
しかし、その娘はある日突然、外の世界を見てみたいと言って、地上世界へ降り立ってしまった。
そして、その地上にいた一人の青年と恋におち、その者と結婚した。神から人間へ変わってしまうことも厭わずに。
建国した夫に寄り添い、自身は王妃となり、子供も産まれ、母親となったその娘は、いつしか老いていった。
そして⋯⋯人間としての寿命を迎えた。
神は、愛しい娘が残した子供達を、そして王国を見守ることにした。
ずっと、ずっと長い間。
娘が地上で生きていた時代が、神話と言われるようになった頃。
神はある異変に気がついた。
王家の王女と、結婚する運命にある男が、消えかかっているのだ。
その二人から産まれた子供が、次世代の王となるのに。このままでは、その者も消えてしまう。
神がよく見てみると、王女と結婚する運命の男性、その男性の祖母にあたる女性⋯⋯若かりし頃のレティシア・ダンドアが頭を打ち、倒れてしまっていた。
それにより、まだ死ぬ運命ではないのに、その女性の魂は旅立ってしまった。すぽん、と抜けた魂は瞬く間に去っていく。しかし、身体はまだ生きていた。
このままでは、いずれ身体も死んでしまう。
ここでレティシア・ダンドアが死んでしまうと、子供も産まれていないため、孫にあたる男性も存在が消えてしまう。
そのため、神は別世界で死んだ善良そうな魂を、その身体へと入れた。その善良そうな魂は、レティシア・ダンドアと同じタイミングで魂が身体から抜けたものの、世界に未練があったのか、ゆっくりと旅立とうとしていたので、ちょうど神が掬える範囲にいたのである。
フワリと、魂が身体に入ったのを確認して、また見守った。
魂がレティシア・ダンドアの身体に入ったことにより、水面のように世界に少しの変化をもたらした。
まず、消えかかっていた男性は元に戻り、王女と結婚する運命が消えずに済んだのを、神は確認した。
この消えかかっていた男性は、西から侵略してくる帝国軍から第一線で王国を守り、その武功から英雄と呼ばれる運命にある。その者がいなくなってしまうと、王国衰退のきっかけになってしまうため、少し危ないところであった。
また、元々の運命ではレティシア・ダンドアの子供は一人だけであったが、善良そうな魂は夫であるジン・ダンドアと良い仲を築いたのであろう。子供が五人へと、変化していた。元々の運命と違うルートになったが、この変化は王国の衰退となんら関わりが無いため、神は気にしなかった。
それから二百年もすれば、王国は衰退する運命にある。
しかし、その時まで神は慈愛の心で見守り続けるのだ。
愛しい娘が残した子孫達と王国を。




