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悪女の引きこもり生活  作者: sano


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第三章(七) それぞれの未来へ




話を終えたネヤフとアルカは城で一泊してから、次の日の朝に去って行った。

アルカ王子がいるというのは極秘のため、帰りも帽子を深く被り、ネヤフの甥という設定で王都まで戻るようであった。


レティシアは、最後に父親であるネヤフになんと言えば良いか迷っていたが、ネヤフは少し笑ってからこう言った。


「記憶がないんだろう?無理に父親と思わなくて良い。元々、もう会うつもりはなかったんだ。今のレティシアなら此処で静かに暮らせるだろう。このままでいてくれることを祈っている。」


その言葉の裏には、レティシアへの愛情が含まれていた。その少しだけ分かりにくい愛情に、レティシアは頭を下げた。それを見て、ネヤフはそのまま馬車へ乗る。

そうして離れて行く馬車を、ジンとレティシアは見えなくなるまで見送った。












「すまなかったな、ネヤフ。酷なことをさせた。」

「とんでもございません。」


馬車の中で、アルカはそう声をかけた。


昨日ほどよく喋るアルカをネヤフは見たことは無かった。いつもは、無口な人物であるからだ。

そんな寡黙な王子が、わざわざ自分に気をかけてくれていることにネヤフは微笑んだ。


「正直なところ、良かったですよ。もう会えないと思っていた娘と会うことが出来ました。」

「⋯⋯そうか。」



もし、娘が昔からあのような性格であれば。

ネヤフの心の中には、拭いきれない後悔があった。

自分の育て方が間違えたのかもしれないと何度も思った。もっと早くに色々な決断をしていれば、とも。


今になって、色々と思うところがある。しかし、全てはもう遅かった。事実として、ネヤフはレティシアという娘を一人失ってしまったからだ。


命だけはなんとか見逃してもらえたが、もう公爵家令嬢としての普通の生き方は到底無理であった。ただ家においておくことも、王家としては面白くないだろう。そうなると、もう会えないと分かった上で、修道院に送るしかなかった。

とても幸運なことに、ダンドア辺境伯へ嫁がせることはできたが、もう自分を含め家族全員がレティシアと関わらない方がいいだろうと思っていた。だからこそ、もう会うつもりはなかったのである。


もうどうしようもない後悔を抱えたまま、ネヤフはアルカと共に王都へ帰る。












「はぁ⋯⋯⋯。疲れた⋯⋯。」


机に突っ伏したセムルは、すぐ側に立っている新しい侍従によってすぐに起こされた。


「まだ仕事は終わっておりません。」

「はいはい⋯⋯。」


昔から側にいてくれた侍従は、兄であるアルカ専属の侍従になってしまった。随分世話になった騎士も同様である。


アルカによって、セムルが裏で色々やっていたことが、バレてしまい、久しぶりにこってりと叱られた。国王陛下に王妃、さらには兄の順番で、それぞれの長時間に及ぶ叱責を受けたセムルはそれだけでもう疲労困憊だというのに、さらなる罰として、執務量を大幅に増やされた。

大臣達は嬉々として、様々な書類や案件をセムルへ持ってくる。「次の王としての良い訓練です。」と数日前に言われた時には、一瞬殺意が芽生えてしまった。



「あのー、そろそろ、休憩したいんだけど⋯⋯。」

「⋯⋯仕方ありません。では、この書類が片付いたら、一度休憩を挟みましょう。休憩時間は十分にします。」

「⋯⋯⋯はい。」


宰相を父親にもつ青年に、有無も言わせない圧でそう言われたら従うしかない。



(書類仕事するぐらいなら、レティシアに謝罪した方が楽だったのに。身の安全のためっていう一点張りで、外に出してもらえないしな〜。)


当初はレティシアに会って謝罪すると言ったセムルであるが、兄から楽をしたいだけと見透かされてしまい、こうして執務室に閉じ込められてしまった。

周りの侍従から見張られている中、セムルは大人しく書類と格闘するしかない日々であった。












「ふむ。」


手紙を受け取り、シェイドはそれをしっかり読んだ上で、すぐに燃やして灰にした。


手紙には、セムル王子の近状が書かれており、今後しばらくは呼ばれる事がほぼ無さそうであるとシェイドは思った。

しかし、きっと。

また必要なタイミングで声がかかるであろうとも分かっていた。


「しばらくは商人の仕事に集中するか。」


裕福な家に産まれ育ち、実は働かなくても生活には問題ない暮らしをしているのであるが、彼は仕事が好きであった。


両親や兄妹と共に住んでいる豪邸。その中の、ある豪華な部屋で、ベテランの侍女が淹れた美味しく高価な紅茶を一口飲み、高級フルーツを一口つまみ、ふかふかの椅子に座りながら、商人は次の仕事を優雅に考えていた。















『昨日は、とても長い一日だった。』


レティシアは、夜に部屋で一人、日記を書いていた。


『色々なことを知った。前に、レティシアは孤独な人だったのかもしれないと思っていたけれど、やっぱりそうだったと今改めて思う。

あんなにも愛情深い父親がいて⋯⋯きっと家族皆そうだったのだと思うと、それらの愛情を素直に受け取れなかったレティシアが悲しい。』


『どうか、今まで辛い思いをした人が、少しでも報われますように。幸せな日々をこれからは過ごせますように。』



日記を書き終えたレティシアは、ベッドへと入る。





こうして様々な者達の思惑があった一連の出来事は、終幕を迎えた。

一度交わった線は、それぞれにまた違う方向へと進んでいく。

これからの未来へ向けて。



第三章 完



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