第三章(四) コーレスト公爵家との対面
その日、城は物々しい雰囲気となっていた。
コーレスト公爵家の当主が来るということで、騎士団の者達はいつも以上に緊張感を持ちながら、警備にあたっている。警備隊にも協力を要請しており、城下町などの治安維持に尽力してもらっている。
そのような雰囲気の中、厳重に警備されながら一台の馬車が城外に止まった。警備隊だけではなく、コーレスト公爵家が派遣している警備の者も揃っており、物々しい雰囲気は一層高まった。
その馬車から降りた二人の男性は、真っ直ぐに城へと歩いて行く。
すぐそばでコーレスト公爵家当主の到着を待っていたジンとレティシアは、敬意を込めた礼をした。
「おお、ダンドア辺境伯殿。久しぶりです。」
一人の男性がジンに挨拶をして、握手を交わした。
「久しぶりです。わざわざ此方にまで来て頂き、ありがとうございます。そちらの方は⋯?」
「あぁ、こちらは私の甥です。久しぶりにレティシアに会いたいと言いまして。」
「そうですか。さ、どうぞ。ご案内致します。」
ジンのエスコートに合わせて、レティシアもまた二人を案内するために歩く。
(⋯⋯この方が、私の、レティシアの父親。ネヤフ・コーレスト。)
レティシアはドキドキと緊張しながら、横目で男性をチラッと見た。
コーレスト公爵家の当主であるネヤフ・コーレスト。
貫禄のある佇まいに、けれど柔和な印象もある男性。堂々とした雰囲気にレティシアは少し圧倒されていた。
そして、ネヤフが紹介した甥だという男は、深く帽子を被っていてあまり顔は見えないが、二十代ぐらいの男性に思われた。
応接間に到着した一行は、ネヤフ、ネヤフの甥、ジン、レティシアの順番に席へ座った。それと同時にメイド達が無駄のない動きでお茶を差し出し、すぐに部屋を後にした。
人払いをしてほしいとネヤフに頼まれたため、部屋には四人のみである。扉の向こうには、厳重に警備の者達が並んでいるであろう。
まず最初に、ネヤフが口を開いた。
「いや、急に会いたいと連絡して、申し訳ありません。さぞ、驚かれたでしょう。」
「たしかに驚きましたが、娘が記憶喪失ともなれば、納得できます。レティシアの様子が色々と心配でしょう。」
「ふむ⋯⋯。」
ネヤフはレティシアをじっと眺め出した。レティシアはどうすれば良いのか悩んだが、曖昧に微笑むことにした。
「おお、たしかに我が娘とは思えない雰囲気ですな!いえ、これは悪い意味ではなく、⋯⋯以前のレティシアとはまるで別人のようだ⋯⋯。」
「申し訳ございません。私、その、今も記憶喪失のままで、何も思い出せないのです。」
「ふーむ。」
腕を組み、しみじみと見つめ続けるネヤフに、レティシアは冷や汗を感じ始める。
ジンは最初からずっと気になっていたことを口にした。
「ネヤフ様。確認したいことがあります。」
「なんですかな?」
「その、甥でいらっしゃる、そちらの方ですが⋯⋯。」
そこまで言いかけて、ジンは黙り込んだ。
レティシアがそれを不思議に思っていると、ネヤフはにんまりとした笑顔で答える。
「お分かりですか?」
「⋯⋯はい。そのような言い方をされるということは、やはりですか。」
ジンは慎重に言葉を選びながらも、戸惑いを見せていた。その意味をレティシアが考える前に、ネヤフの甥が帽子を取った。その下には、金髪に、青い瞳。冷たさを感じる顔。
そして、その者はポツリと呟く。
「すぐにバレてしまったか。」
臣下の礼をとったジンは尋ねる。
「⋯⋯⋯アルカ王子。何故、此方にいらっしゃるのでしょうか?」
レティシアは驚きのあまり、手を口にあてる。
(王子!? それは、つまり⋯⋯。)
静まり返った部屋。
四人しかいない空間で、ジンとレティシアは戸惑い、ネヤフはにんまりと笑っており、そしてアルカは冷静に告げた。
「どうか、非礼を許してほしい。色々と事情があるのだ。」




