第三章(二) レティシアの落ち着かない日々
実はこのところ、レティシアは落ち着かない日々を過ごしていた。
それを説明すると少し長くなる。
まず、誘拐(?)されて、無事に城に戻ってきてからは、誘拐について色々と聞かれつつも、またのんびりとした暮らしを送っていた。
普通であれば、誘拐されてしまったら怖くて外に出れなかったりするかもしれない。しかし、善良な人による誘拐だったため、レティシアは途中からは全く怖い思いはしていなかった。そのため、これまでのように散歩もするし、遠出を誘われれば行くつもりである。
ここまでは全く問題がない。
問題なのはここからである。それは、ジンとの距離感が一気に縮まったことであった。
過保護になったジンはどういう訳か、少し空いた時間さえあればレティシアに会いに来るようになった。
しかし、それだけではなく、手を繋いだり、たまに抱き締めたりするようになったのである。
基本的には侍女がいない隙に、抱き締められたりするのだが、先日は侍女がいる前で行われた。
レティシアは手を繋いでいることさえ、少し恥ずかしいのに、ましてや抱き締められるなど、気持ちが追いついていない。
ただただ顔を真っ赤にして棒立ちになる他なく、侍女のニヤニヤした笑顔を見る余裕はなかったのである。
そのため、レティシアはこの忙しない感情を整理して落ち着かせるべく、日記を書くことにした。
『最近、少し落ち着かない。』
悩んでから、正直に書くことにした。手を動かしていく。
『手を繋いだり、抱き締められたり。以前もあったのかしら?話を聞いた限りは想像つかないけど⋯⋯。
どう対応していいのか、分からない。
それに、昨日は』
そこまで書いて、レティシアは頬を赤らめた。
というのも、昨日はついにキスをしたからである。
抱き締められた後。
いつも通りであれば、お互いの体が離れるはずなのに、昨日はそれが無かった。
不思議に思って見上げた時、ジンと目が合って、そこでもうレティシアは動けなかったのである。
気がつけば、唇と唇が合わさっていた。
嫌だと思う気持ちはないが、緊張で心臓の心拍数が大変なことになってしまうため、なんとかしたいとレティシアは思っていた。
さすがにキスしたことまで書くのは憚られるので、そこは曖昧な表現にしつつ、自分の思いを文字にする。
『それに、昨日は少し驚くことがあった。それで、すごく緊張したし、落ち着かない。どうしたら、落ち着けるかしら?
気持ちを整理すると、嫌だと思ってないし、苦手とも思ってない。ただ、恥ずかしいのと、心臓がすごく早くなって落ち着かない気持ちになる。
侍女の皆さんに聞いてみようか悩むけれど、聞くことすら恥ずかしいと思ってしまう。
皆はどうやって、これを乗り越えたんだろう?』
そこまで書いて、一旦止めることにした。
レティシアがもし侍女に今の悩みを聞いた場合、それはもうニヤニヤニヤニヤするのは確実なのであるが、恥ずかしいと思っているレティシアは中々聞くのを躊躇っている。
「レティシア様、昼食⋯⋯なのですが。」
侍女からの声かけに、思わずレティシアは勢いよく日記を閉じた。
少しどきまぎしつつも、平静を装って、テーブルと椅子の方へと歩いて座る。しかし、侍女のエミリーがいつも持っているトレーは無く、手ぶらの状態のままレティシアへと駆け寄る。
「あの、旦那様より、一緒に食べたいとの仰せです。」
「そ、そうなの⋯。では、一緒に食べるわ。」
まだ気持ちが落ち着いていないレティシアは、少し躊躇いがありつつも、そのように返事した。
だが、いつも接しているエミリーにはレティシアの動揺が分かった。
「レティシア様?いかがされましたか?今はお一人になりたい気分であれば、そのようにお伝えしましょうか?」
「え? いえ、そんな大丈夫よ。」
そして、レティシアはどちらに行けばいいの?と聞き、その話を終わらせた。
エミリーは気になりつつも、ジンから言われた通りに、ジンの執務室へと案内した。
レティシアは知らない。
ジンの執務室で共に昼食を食べた後、気がつけば侍従などの者達はいなくなり、ジンと二人っきりの状態になることを。
そして、また気がつけばお互いの体が密着し、何度も唇が合わさることを。
信じられない程にまで顔が真っ赤になってしまうことを、レティシアは今はまだ知らない。




