第三章(一) 深まる仲と行き詰まり
レティシアが誘拐された事件以降、ジンは過保護になった。
騎士団の警備体制の見直しを指示し、大幅な体制の変化があった。特にレティシアの周りの警備を強化したにも関わらず、ちょっとした時間があれば、心配なのかレティシアの様子を見に行くようになった。
今まではお互いの好きなタイミングで食べていた食事も、朝食と夕食に関しては共に食べるようになった。
また、今までは定期的に話す機会を設ける程度であったが、今現在はある程度まとまった時間が空けば、すぐにレティシアとお茶をしながら話すようになった。
そのような行動をとるようになったのには、ジンが自覚したことが影響している。
以前から、レティシアに対しての気持ちが芽生えていた。しかし、それに自覚がないままであった。
そんな時に、レティシアの誘拐を知った。
誘拐を知った時に、心臓がヒヤリとするような緊張感と喪失感を感じ、そこでジンは思い至ったのである。
正直、いつ記憶が戻るか分からない。
ある日急にまた以前のレティシアに戻り、気持ちが冷めるかもしれない。
けれど。
今のレティシアが大切だと思うのであれば、その気持ちのままに行動しよう。
そのような思いでジンは、レティシアと接していた。
その一方で、まだ自覚がないレティシアは、過保護になっているジンに対して苦笑していた。
(とても心配させてしまったのね。これは、素直に保護されていたほうが良さそう。)
誘拐されたから過保護になっているのだろうと、半分当たりで半分外れていることを思っていた。
そうして、二人で散歩したり、ちょっとした時間にお茶をしながら話したりする日々を過ごしていた。
そのような姿を見て、侍女長が感動の涙を流すことは勿論、侍女や侍従達など周りの者達は温かく見守っていた。
特に、あくまでノーサレア地方の発展、ダンドア家のためだけに『悪女』と結婚すると決めたジンを見守っていた侍従達は「良かった」としみじみと喜んでいた。
侍女達もまた「もうお子様の洋服をご用意した方が良いかしら?」と少し下世話な話をコソコソと楽しそうに話していた。
そのような少し浮かれた城内で、警備隊からの報告があった。
「手掛かり無し⋯⋯。」
「場所の絞り込みが難しく、犯人の人相も不明、馬車の特定も難しいとなると、捜索も限界です。」
ジンの前にいるのは、警備隊の隊長であった。
誘拐事件以降、警備隊は犯人の捜索を行ってきたが、なにせ情報があまりにも少ない。
城付近を中心に、不審な馬車についての聞き込みを行っていたが、今ひとつ成果は無かった。
つまるところ、何かしらの情報がなければ、これ以上の捜索は難しい。それを伝えるための報告でもあった。
「たしかにレティシアの証言だけでは、情報が少なすぎる。この状態で捜索と言われても、難しいことは理解出来るが、続けて欲しい。」
「はい、勿論こちらで行える事は今後も続けますが、もう聞き込みが限界です。もし、何かしらの証拠や情報が出てくれば、より出来る事は増えますが⋯⋯。」
「分かった。その時はすぐに連絡しよう。」
帰って行く警備隊隊長を見送り、ジンは険しい顔で椅子に座り直した。侍従達もまた、難しい顔をしている。
「警備隊も情報無し。厳しいですね。」
「侍女長から新たなことは報告あったか?」
「いいえ。以前にも話しましたが、レベッカだけではなく、アルティまで行方不明になったのみです。」
「⋯⋯そうか。」
レベッカはレティシアを外に連れ出した後に行方不明となった。これは共犯者と断言してほぼ間違いないだろうと判断している。
そして、侍女長に、侍女の中で他に共犯者がいないかの確認を指示した次の日に、侍女のアルティもまた行方不明となった。
出勤の時間になっても姿が見えないためアルティの部屋に向かったら、鍵はかかっておらず、部屋からは貴重品等が無くなっていたという。そのため、アルティもまた共犯者ではないのか?という疑いのもと、捜索を始めていた。
しかし、アルティの行方も分からないままであった。
「行き詰まったな。」
ジンはそう呟き、悩んだ。
少し前から抱いている『ある考え』を言うには、責任と覚悟と確固たる証拠が必要である。
『記憶喪失か、フリなのか』
頑なにそれを執着していた誘拐犯。
そして、王との謁見した時の会話。
しかし、それを口にするのは畏れ多いことでもあり、もし違った場合は、自分だけではなく周りも罰されるかもしれない。
それを危惧しているジンは結局、誰にも言わずに沈黙を選んでいた。




