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悪女の引きこもり生活  作者: sano


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閑話 侍女の不満




ダンドア辺境伯の城で働くアルティは、実のところ、スパイである。

上司に潜入を依頼され、レベッカと共に侍女として潜伏している。


ターゲットは、レティシア・ダンドア。

記憶喪失であるか、それともフリをしているだけか。

それを見極めるだけの、ただそれだけの任務である。

初めにそれを聞いた時、楽勝じゃん、とアルティは思った。


「そんなの私を派遣するほどのことかしら?」

「それを判断するのは俺だ、お前じゃない。」

「あっそ。」


商人の装いをしている上司にアルティは悪態をついた。

全くいけ好かない男である。

そうした経緯で、アルティはノーサレア地方へ行った。

偽造した紹介状で、あっさりと侍女として採用され、計画通りにダンドア辺境伯の城で働くようになった。



働くうちに、レティシアとの接点はあった。彼女は、大人しい性格で、侍女の視点からすると、とても仕えやすい人であった。

他の侍女から教えてもらったが、記憶喪失になる前はそれはもう怖かったらしい。無視は当たり前で、嫌味ったらしく文句を言われ続けたこともあるらしい。

たしかに、その情報を聞く限り、本当に記憶喪失になったらしいとアルティは思った。



しばらくは何もない平和な日々を過ごしていたが、もうすぐで春という頃合いに、上司からの命令が下った。

それは、レティシアの部屋を荒らすというものである。



「本当、人遣いが荒いわよね。簡単に言ってくれるんだから。」

「ほんとよね。じゃ、私は扉の前で見張りしているから、宜しく。」

「ちょっと、大変な方が私なの?」


レベッカが悪戯っぽく笑う。

こうして、アルティは手間がかかる方ーーー部屋を荒らす実行犯役になった。




(ったく、部屋を荒らすのはいいけど、手掛かりなんてまた曖昧な事言って⋯⋯、ん?日記?)


テキパキと静かに、それでいて大胆に部屋を荒らしていたアルティは、机の引き出しからノートを見つけた。

サラリと見て、日記だと目星をつけると、それは盗むことにした。


(何か書いてるかもしれないし、これは回収っと。ふぅ、部屋荒らすの面倒だな⋯⋯。)


全てが完了した後、ドアをノックする。

誰もいないことを確認したレベッカがすぐにドアを開け、素知らぬ顔で二人は仕事へと戻った。

勿論、誰かに見られるというヘマを、アルティとレベッカはしていない。





その後、部屋が荒らされたことで城中が騒ぎになり、アルティとレベッカを含めた侍女達は、その時何をしていたのか事情徴収がされた。

しかし、レベッカと共通のアリバイを作っていたアルティはやはり実行犯だとバレることなかった。

アルティは余裕だと内心笑いながら、周りの侍女達と怖がるフリをする。




そして、上司からの命令がまた来るまで、のんびりと侍女生活を楽しんでいた。


「はい、ステップ!そうです、リズム良く!」


うっかり。そう、うっかり。

レティシアがダンスが出来ないから聖火祭には参加しないと聞いてしまい、ダンスが大好きなアルティは我慢できず、『うっかり』ダンス指導をしてしまっていた。


しかし、それ以外は至って平穏な日々を過ごしていた。











それは、ある日の午後であった。

急に平和な日々が崩れたのである。


「レティシア様がいないわ!」

「侍女長に報告は!?」

「しました!」

「まだ探してない場所も見なければ。」

「侍女長が指示するまで待機だと言っていたわ。」

「最後にレティシア様を見たのは誰?」


ザワザワと侍女達が騒いでいるなか、アルティは珍しく顔を強張らせていた。


(⋯⋯⋯そんなの、知らない。)


おそらく上司からの命令により、レティシアは消えたのだろうとすぐに気が付いた。

けれど、アルティは知らなかった。そう、自分には何も命令がきていなかったのである。


レティシアがいないと騒ぎになり、侍女長の指示通りに城の中を捜索しながら、考えていた。


(おそらく、レベッカに命令が⋯⋯。誘拐しちゃうって、一体どういうこと?)


アルティは末端の立場であるため、何故そういう命令が下されるのかを知らない。

しかし、レベッカがそれに関わっているのは確信していた。




その後、エミリーの証言により、レベッカが直前まで一緒にいたであろうことが判明した。

そして、レベッカもまた消えたということが分かり、アルティはやっぱり、と心の中で思った。


(レベッカはもう逃げたはず、ヘマしてなきゃね。それにしても、最初は楽な仕事だと思っていたのに、変なことになってきたわね⋯⋯⋯。アイツ、どういうつもりよ?)


(ちょっとくらい、私に言ってくれてもいいじゃない。)


動揺している侍女を演技しながら、アルティは心の中で不満を感じていた。




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