第二章(六) 事件の始まり
聖火祭が終わってから、ジンは王都へ出発することになった。
その理由は国王との謁見があるためである。レティシアは勿論どのような用件であるとか、詳細は知らない。そして、特に自分も付いて行く必要がないし、ジンからも留守を頼まれたので、大人しく旅立つジン達を見送った。
数週間は戻って来ない予定であるらしい。つまり、その間、レティシアは留守を任されたことになる。
と言っても、侍女長や侍従数人がいるし、侍女達もいつも通りのため、普段と何も変わらないのであるが。
しかしながら、普段より人の数が少なくなった時を見計らって、その時はやってきたのである。
「まぁ、お花見?」
ジンが出発して、数日が経った頃。
相変わらず、部屋で授業を受けたり、復習したり、もしくはのんびりしていたレティシアは、侍女から花見の誘いを受けていた。
「はい、侍女数名でお花見をしようと計画しておりまして、レティシア様も宜しければ。」
「是非行きたいわ。」
「準備もありますので、三日後の午後に行きましょう。けれど、侍女長にバレてしまったら、行くのを止められてしまうと思いますので、どうかご内密にお願い致します。あと、他の侍女達にも。誘われなかったと悲しませてしまうかもしれませんので。」
「分かったわ。」
基本的に城に引きこもっているレティシアは、外に出掛けることはあまり無い。
そのため、お花見というイベントはレティシアにとっては一大イベントとなった。
侍女のレベッカに言われた通り、お花見の話はしないようにして、三日後の昼を迎えた。
レティシアが一人で部屋にいるタイミングで、レベッカがやって来た。
「お待たせ致しました。ご案内します。」
「レベッカ一人なの?他の侍女は?」
「既にお花見をする場所で準備しております。」
「そう、では行きましょう。」
レティシアは全く疑わなかった。
レベッカ以外の侍女からお花見の話を聞かないのも。
お花見とは言え、外に出掛けるのに護衛がいないことも。
何処でお花見を行うかも聞かされていないことも。
レベッカに案内された道が、裏道や、道とは呼べない隙間であったことも。
そう、全く疑っていなかったである。
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
城の外に出たところに見知らぬ馬車が止まっているかと思うと、いきなり中にいた男性に連れ込まれ、あっさりとレティシアは誘拐されたのである。
その男性によって、あっという間に目隠し、猿轡をされてしまった。
そして、馬車が動き出す。
訳も分からないレティシアではあるが、これでは不味いと思い、動こうとするとすぐに牽制された。
「暴れれば、拘束する。」
拘束されるのは嫌だったため、なんとか馬車から出ようと動きかけてた体を止める。
そして、馬車に大人しく座り直すことにした。
(これって、誘拐⋯⋯⋯⋯?)
レティシアは、ようやく気が付いた。
一方、その頃。
城では、レティシアがいないことに侍女達が気付き始めた頃だった。
初めは「お散歩に行かれたのかしら?」と呑気に、庭へ探しに行ったりしたのだが、思いつく場所をいくつか探してもレティシアはいない。
そのあたりで、侍女達は異変に気付き、侍女長へ報告をした。
すぐさま侍女長は城中の捜索の指示と、見張りの衛兵達に確認を始めるが、時すでに遅し。
それは、レティシアが誘拐されてから三十分後の時点であった。
「そういえば⋯!」
侍女の一人であるエミリーが発言した。
「私、少し前にレベッカとレティシア様が廊下を歩いているところを見ました!てっきりお散歩かと思い、何処に向かったかまでは見ておりませんが⋯!」
侍女長と侍従達は顔を見合わせて、すぐさまレベッカも捜索をする。
しかし、レティシアが拐われるのを見届けたレベッカはその後速やかに逃げていたため、もう城にはいなかったのである。
侍従達は、レベッカも拐われたか、もしくはレベッカが共犯である両方の可能性を考えた上で、レティシアとレベッカの捜索を城外へと範囲を広げた。
ざわつく城内で、侍女長は顔を青くさせながら、唇を戦慄かせた。
「やられた⋯⋯!」
ジン・ダンドアの妻、レティシア・ダンドアは誘拐されたのである。




