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悪女の引きこもり生活  作者: sano


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第二章(五) 聖火祭



雪解けをしたノーサレア地方では、人々がこれから訪れる春と夏を心待ちにしている。

子供達は雪の無い地面を走り回り、流通を担う仕事をしている者達は荷物をまとめ、各地方への出発準備を進めている。


レティシアは冬を過ごすうちに、雪が好きになった。荘厳とした雪景色は美しいと思っているが、こうして人々が賑わいを見せるこの時期もまた美しいと感じていた。


今日は、聖火祭の日である。


人々が朝から準備に勤しんでおり、城の中でさえも浮足立った雰囲気が流れていた。

城下町の広場にて、火を灯す聖火台と、世界を創り上げたと信じられている太陽神の銅像を中心に、様々な屋台が出来つつあった。




レティシアは、自室の化粧台の前に座っていた。

⋯⋯⋯いや、立ちたくても立てない状況が続いていた。


「あの⋯⋯、」

ずっと座っているのも疲れたので立ちたいという台詞は、いつになく真剣な侍女達によって、何も言えずに終わってしまう。


「さて、髪型ですが⋯⋯、」

「ハーフアップにするか、まとめるか、それとも下ろすか⋯⋯。」

「難題です。」

「どれも似合いそうですね。」

「一番似合う髪型にしてみます⋯!」


「⋯⋯⋯⋯⋯。」

化粧と髪型の前には、ドレスの選定の時間があった。同じような内容で、どのドレスにしようか長時間かかったのである。


(⋯⋯⋯これは長丁場になりそうね。)


黙るしかないレティシアは、じっとして終わりが来るのをひたすらに待った。








ジンもまた、この日ばかりは仕事で部屋に引きこもる訳にはいかない。

領主として参加をしなければいけないため、正装に着替えていた。


元々はレティシアを聖火祭に参加させるつもりはなかった。

しかし、記憶喪失になり⋯⋯、つまるところ以前よりも、人前に出しても問題ない今のレティシアだからこそ、今回参加してもらうことになった。

先日聞いた際にダンスを練習中だと言っていたので、ダンスも参加するつもりなのだろう。


ジンは侍従に聞いてみる。

「トム、レティシアのダンスは大丈夫なのか?」

「はい、基本の型に沿ってダンスをすれば大丈夫です。」


ダンスの練習を付き合わされていたトムは、遠い目をしながら回顧した。


(中々帰らせてもらえなかったなぁ⋯⋯。)


ダンスの鬼と化した侍女アルティから逃れることができず、彼女の許しを得るまで、トムは仕事に戻れない日々を過ごしていた。

遠い目になったトムに疑問を持ちながらも、ジンはダンスは久しぶりだと思った。


「事前に一回くらい練習したかったが、アルティに断られた。何故だ?」

「あー⋯⋯⋯。ロマンティックじゃないとか色々言ってました。」

「⋯⋯⋯なんだそれ。」








全ての準備を終えたレティシアは、ようやく立つことが出来た。

そのまま、城下町の聖火台と銅像のところへ移動することになった。


夫であるジンや侍従達と合流をして、馬車に乗って移動をする。

馬車に乗る際に、ジンがレティシアをエスコートをする光景を見た侍女長は、ようやく夫婦らしい姿を見ることが出来たことに、こっそり涙を拭いていた。

ジンが『悪女』と結婚すると決まった時からずっと心配していた侍女長は、このまま良い夫婦になってくれないかと密かに思っているのである。


城下町まで移動する馬車の中、ジンはレティシアの姿に内心驚いていた。

着飾ったレティシアはまるで御伽噺に出てくる姫のような美しさと華やかさがあった。

こうして見ると、普段から思ってはいたが、レティシアはやはり美人である。


(もし、悪女じゃなかったら、第二王子と結婚されていたお方だ⋯⋯。惜しいことを。)


そのようなことを思った。






城下町にある聖火の台。

そこには、火が灯されている。

そして、それと並ぶように神々しく太陽神の銅像がそびえ立っている。


人々は着飾った装いで、領主とその妻のダンスを見ようと待っていた。

もちろん『悪女』という噂は知っていたので、どんな女性か見てやろうという考えでいる者も少なくない。

しかし、家族や知り合いが城で働いている者は「どうやら記憶喪失で人が変わった」という情報を既に知っていた。

脇には音楽隊も準備をして、待ち構えている。


そして、馬車が到着し、護衛の者達が続々と登場した。人々は領主様達が来たと噂する。

その一つの馬車から、領主であるジン・ダンドアと、エスコートされている女性レティシア・ダンドアは皆の視線を浴びた。


「えっ⋯⋯」

「お姫さまみたい!ママ、絵本に出てくるお姫さま!」

レティシアの姿を見て、人々は言葉を失った。

その姿を見た少女は絵本に出てくるお姫さまだと母親に言う。

人々はザワザワと、各々に思ったことを噂する。




「領主が最初にダンスしてから、皆もダンスする。やるぞ。」

「はい。」


皆が見てる中、ジンとレティシアは手を重ね、ダンスを始めるポーズをした。

それに合わせて、音楽隊が演奏を始める。


(大丈夫。大丈夫。いつも通りにやれば、ちゃんと出来る。)


そう思いつつも、レティシアは緊張で手が震えていた。

それでも、表情だけは余裕があるように取り繕っていた。

彼女の緊張に気が付いたジンは、一度手を強く握ってから、ダンスの第一歩を始めた。


(⋯⋯⋯⋯?)


手を強く握ってくれた時に、レティシアは変な感覚になったことを不思議に思う。

心臓あたりが、なんだか変な感じがしたのである。


しかし、それについて考える余裕はなかったため、変な感覚を感じながらも、ダンスに集中した。

ジンが上手くリードしたこともあり、レティシアは無事に大きなミスも無く、終えることが出来た。


ダンスが終わると、拍手が周りから起こる。

そして、人々が徐々に広場でダンスを始めた。

賑やかな音楽。

人々が笑いながらダンスを楽しんでいる。



「聖火祭を皆さん、心待ちにしていたんですね。」

「あぁ。」


ダンスが終わってから、広場の奥の方へと戻り、人々がダンスをする活気ある風景を見ることにした。

二人は手を握ったままだった。


レティシアは、先程の胸騒ぎのような感覚を思い出して、隣の男性をそっと見上げた。

彼は、人々が楽しんでいるのを、領主として見守っていた。

その瞳に、優しさの色があるのを見た時に、レティシアはまた変な感覚になった。





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