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悪女の引きこもり生活  作者: sano


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第二章(四) コーレスト公爵家とダンス




臨時的に自分の部屋となっている客間で、レティシアはノートを確認していた。

それは、家庭教師から授業で習ったことをメモしているものである。


(あ、あった。)


以前に色んな家門について、ざっくりと教えてもらったことがあったため、記載している箇所があった。


(コーレスト公爵家。)


(王国において、名門の家門であり、過去に、コーレスト公爵家の者が王妃になったこともある。⋯⋯⋯レティシアは、そんな家に生まれ育ったのね⋯⋯。)


コーレスト公爵家に関する情報を眺めた。全体的に把握することを主要とした話だったため、このぐらいの情報しか彼女のノートには書かれていなかった。


レティシアは前々からなんとなく疑問に思っていた。

侍女や周りの人々は、自分が記憶を取り戻してほしくないと思っているのではないか?

そう思っていた。

彼らは、やんわりと、しかし頑なに、以前のレティシアについて教えようとしない。色々と聞いてみると、最終的には無理せず今のままでも良いと言われるのである。

まるで、記憶喪失のままで良いかのようであった。


だから、レティシアは、ジンがその疑問を認めてくれたことに安心した。

レティシアにはあまり良くない過去があること。

恨まれるような人物であったこと。

故に、今のままでも良いと思われていること。

それが分かるだけでも、レティシアとしてはすっきりしたのである。

さらには、コーレスト公爵家を教えてくれたことに感謝していた。



(反対に、私は旦那様に本当のことを言っていない。でも、言っても信じてもらえない⋯⋯よね。)


本当は自分がレティシアではないと、正直に言いたくなる事はある。しかし、この嘘みたいな本当の話を、誰が信じられるだろうか。

これは自分の胸に秘めた方がいいのだと、レティシアもまた話せないでいた。



(何があって、家族とほぼ絶縁状態になって、此処に嫁ぎに来たんだろう⋯⋯?)


ノートに記載していたコーレスト公爵家、という文字を眺めながら、レティシアは考えても仕方ないことを、それでも考えずにはいられなかった。








「レティシア様、ダンスの練習をしましょう!」

「え?」


客間で過ごすようになり、だいぶ慣れてきた頃。

侍女のアルティから、唐突にダンスを提案されたレティシアは、首を傾げた。


「ダンスの練習?急にどうしたの?」

「急ではありません!先程仰っていたではありませんか!聖火祭には出ないと。」

「あぁ、その話ね。」


レティシアはおっとりと頷いた。


先日侍女から、ノーサレア地方では『聖火祭』と呼ばれる、春の訪れを祝う日があるのだと教わった。

しかし、ダンスを踊らなければいけないようであり、レティシアはあっさりと諦めたのである。

その話を世間話として、侍女のアルティにたまたま話しただけであった。



「ダンスを理由に出ないなんて勿体ないです!私、こう見えてダンスが得意なので、是非レティシア様に教えたいのです!」

「えぇ、出来る、かしら⋯⋯?」

「ダンスが出来ない人などいません。今から練習すれば、きっと間に合いますよ。お任せ下さい!」



こうして、二週間後の聖火祭に向けて、侍女アルティによるレッスンが始まった。

最初はステップから始まり、徐々にダンスの基本の型を覚えていく。

さらには、ジンの侍従を巻き込んで、男性と一緒にダンスすることを練習していくようになった。


そして、レティシアはなんとか形にはなる程度にはダンスが踊れるようになったのである。


その頃には、レティシアは客間から元の自分の部屋に戻っており、事件のことはすっかり頭から無くなっていた。



何故、レティシアの部屋から、日記のみが盗まれたのか。

何故、部屋は荒らされたのか。

そして、犯人は誰なのか。何が目的だったのか。


よくよく考えておかなければならない事は、すっかり忘れ去られ、聖火祭の日を迎えるのである。






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