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【完結】キミと手を繋ぎたい。オリーブの香る島で。  作者: 咲山けんたろー
第4章 最終章。私が選んだのは――
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最終話 キミと手を繋ぎたい。


 夕方。海に浮かぶ夕日は、非常に幻想的で、まるで絵本の世界にいるような気分だった。




 心臓が、しつこいくらいにうるさく鳴り響いている。頭に血がのぼって、どうにかなりそうだった。




 まだ、何も起きていないのに、もう目頭が熱くなって、また泣きたくなっていく。





 砂浜を歩く音。波の音。穏やかな風。燃え上がる夕日。




 その情景1つ1つが、今の私をさらに緊張させていく。





 中余島に、1人の男性が近づいてくる。




 見間違えるわけがない。






 私が、ずっと会いたかった人だから。





 目を合わせて、彼は、静かに呟いた。





「雛子………。」





 数ヶ月ぶりの、陽樹(はるき)くんの声。




 その色気ある声に、私は、今すぐにでも抱きつきたいくらいだった。




 声が震える。




「どうして……。」




 彼は、小さなショルダーバックしか持っていなかった。一体、何をいたのだろうか。真相は分からない。





「俺は、ここの場所が落ち着くから。雛子は?」




「この時間になったら、道ができるって知って、それで…」





「……そうか。」






 無言の時間が流れる。




 目も合わせられない。彼のその姿を、ずっと待ちわびいていたのに。いざ目の前にされると、どうしたらいいのかわからず、おかしくなっていく。




 頭の中がずっとパニックで、今にも倒れそうだ。




 いや、落ち着こう。聞きたいことを1つ1つ、彼に聞こう。しっかり、向き合おう。




 私は、その空気を壊すように口を開く。





「……ねえ、陽樹くん。」








 最初は優しく聞くつもりだった。






 なのに―――






「どうして、連絡返さなかったの!? 私が送ったLINE、全部無視したでしょ!」




 ついつい言い方が荒くなってしまう。今までの不安や寂しさが思いに溜まって、そのまま爆発してしまったのだろう。




 こんなに、異性に対して強く言ったのは、生まれて初めてだったと思う。




 感情が高ぶって、また胸が痛くなっていく。






 私の感情とは裏腹に、彼は冷静に呟く。






「……ごめん。」





「修学旅行の日からそう! 私のこと避けてた!? 今日のことだって、翔月くんから聞いたよ!? 私が来るのわかってて、店に来なかったって。」





「……翔月と付き合ってるなら、2人にさせてやりたいだろ。」




 彼は予想外の言葉を放った。私はその言葉に、口をぽかんと開け、その場でフリーズする。




 誰から翔月くんと私が付き合ってるなんて聞いたんだろう。共通の知り合いは居ないはず。




 でも、そのおかげで、私も、やっと冷静になれた気がした。




「 付き合ってないけど……」




「…は?」




 彼もまたフリーズする。やっぱり、どこかで勘違いをしていたようだ。いつすれ違ったかは分からないけど、お互い気付かずに今日までやり過ごしていたのだろう。





「断ったよ。翔月くんとはそういうんじゃないから。」





「そっか……そうなのか。俺、てっきり……」





「2人が付き合ったなら、距離置こうと思って、意識的にやってた……」




「まじで何やってんだ……俺。」







「…悪かった。俺の誤解で、雛子を傷つけてしまった。」





 必死に謝る彼に、私はなぜか安堵し、笑みを浮かべる。




「ほんと。私、嫌われたかと思ったよ。」







「嫌いになれるわけ、ないだろ。」








 すると、急に彼の雰囲気がガラッと変わる。




 さっきよりも真剣な表情。私を見つめるその瞳が真っ直ぐで、綺麗で、どんどん魅了されていくようだった。






 もう、前みたいには、戻れない。






「ボトルメールでやりとりするようになって、俺の気持ちはどんどん大きくなっていった。」






「手紙が来るたびに嬉しくて、初めて、俺らしくいられると思えた。」






「もっと知りたくなっていった。」






「だけど、これは、翔月から始まったから縁だから。俺は身を引くべきだと思ったんだ。」







「雛子は、ずっと翔月の方を見ていたし。」







『そんなことないよ。』そう思ったけど、私はぐっと堪えた。





 彼の今の気持ちを、ありのまま、ちゃんと聞こうと思ったから。






「弟が幸せになっててくれれば、兄としてこれ以上幸せなことは、何もねぇよ。」







「だけど、そう思うたび辛かったんだ。何かやってねえと思い出して、気分が下がって。」







「今だってそう。俺ずっと、苦しいんだ。雛子のことを想うたび……」






 彼の顔が真っ赤だ。こんな顔、初めてみた。いつもは冷静な彼なのに、その意外な一面に、さらにドキドキさせられてしまう。






 やだな。私、さっきからずっと陽樹くんにドキドキさせられてるよ。






 私だって、ずっと苦しいよ。苦しかったよ。今も、ずっと。






 側にいるのに、陽樹くんのことを想うたびに、どんどん苦しくなっていくの。







「だから、素直になろうと思う。このエンジェルロードで、再び出会えたから。」






「翔月がどうとか、双子だからどうとか……もう、そんなのどうだっていい。」








「………ありのままの俺を見てくれる人に、出会ったから。」








「散々傷つけてごめん。避けるような真似してごめん。」







「でも、もう、そんなこと、絶対2度とさせない。約束するよ。」











「雛子。」











 名前を呼ばれて、また、心臓が跳ねる。













「好きだ。」










 その3文字が、私をまた混乱させていく。まさか、両思いだったということに、驚きが隠せなかった。





 彼の瞳。海風に揺れるさらさらな髪の毛。私より一回り大きい、その身体。







 私は、彼ともっと進んでいきたい。迷いもせず、そう思えた。






 これからは、2人でずっと―――







 私は、彼の前に手を差し伸ばす。








「雛子……?」








「これが私の答え。」







 その手は震えていた。彼が手を取ってくれるまでは。





 本当は、気持ちを言いたい。好きって、私も大好きだよ。って、だけど、まだ高校3年生の私にとっては、それを口にするのは恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだった。




 気持ちを口に出すことは、思っている以上に、難しいことだと痛感させられる。






 そして、優しく、彼の目をみて、言葉を放った。








「私と、この道を歩いてください。」








 陽樹くんの地元の有名観光地・エンジェルロード。




 1日に2回に道ができるこの魔法の通りは、大切な人と手をつなぐと、願いが叶うと言われている場所。







 私が、今思う『願い』は、


 大好きな陽樹くんと、これからもずっと一緒にいられること。







 それを、このエンジェルロードで約束しようと、そういう意味で言った。






 私の誘いに、彼は大人の笑みを浮かべる。






「もちろん。」






 彼の手を取り、私たちは帰り道を歩いた。




 行きの時とは違う、私にとってはときめき溢れるこの時間。




 隣には、大好きな彼が隣を歩いていて。




 この手をずっと離したくない。そう思ってしまう程に、私の感情は高鳴っていった。






 ※ ※ ※



 帰りの時間はあっという間。私たちは天使の散歩道を渡り終えた。




 もちろん、手はまだ繫いだまま。




 歩きながら、私はなにか物珍しいものを見つけた。道のようなものが続いている。




「みて!なにかあそこに通り道がある!この先に何かあるの?」




「あー。約束の丘展望台だな。階段を登ると鐘がある。」




「行ってみたい! 行こう!」




 彼らクスッと笑いながら、静かにエスコートをする。どこかぎこちないけど、私のためにリードしてくれている、その健気さが、愛おしかった。




 階段を登り終えると、先ほど私たちが渡ったエンジェルロードが上から見え、先ほどとは違う良さがあった。





「あ!そうだ!キーホルダー!!」




 私は、思い出したかのように声をあげる。袋から『おりーぶしまちゃん』と書かれたキーホルダーを手に取る。




「これ…俺に?」




「うん。フェリーの売店で買ってきたの。このキャラクター知ってる?」




 私はもう1つのキーホルダーも手に取る。このピンクのキャラクターは、ミモザのりくちゃんだ。





「ああ。これは、おりーぶしまちゃんのガールフレンドだな。」




 即座に答えたから、私、思わずわらっちゃった。




「さすが、詳しいね!」




「地元民なら当然のことだろ。」




 彼は少し照れくさそうに苦笑する。




 そして、静かに、呟いた。




「ありがとな。絶対、大事にする。」




「ふふ。私とペアキーホルダーだね。」






 そして、私たちはお互いのキーホルダーを見つめ合って、笑い合った。







 しまちゃんとりくちゃんが笑い合っているように、ずっと―――。







 そして、鐘をよく見ると、『恋人の聖地』と彫られていた。




『恋人』か。




 私たち、恋人になれたんだよね。




 なんだか、実感が全然わからないや。


 まさか、陽樹くんと、両思いだったんだなんて。




 ドキドキしちゃって、ついチラッと彼の方を見てしまう。私と同じ気持ちだったな、なんて、そう思うの。






 目が合って、彼は目を丸くする。






「どうかしたか?」




「ううん! なんでもない! あ、鐘、鳴らしてみようよ!」




「………ああ。」








 私たちは手を重ね、その鐘を揺らした。







 カーン、カーン…と音がなる。






 まるで、2人の幸せを祝福するような、そんな鐘の音に聞こえた。







 陽樹くんとの恋の物語は、まだまだ続いていく。ここからがスタート。そんな気がした。






 夕暮れの空へ、澄んだ鐘の音が響いていく。




 オレンジ色に染まった海。 エンジェルロード。 穏やかな春の風。




 まるで夢の中みたいだった。







 鳴らしながら、私は彼の顔を見つめる。









「ねえ! 綺麗な鐘の音だね――」









 そう言いかけた瞬間。





 彼との顔が近づく。至近距離で、何が起きているのか、理解が追いつかなくて。






 ドキン、とまた心臓が跳ねる。






 年下の彼に、私は混乱させられてばかりだ。








 鐘を引っ張る手は、繋がったまま。








 そして、そのまま―――








 私たちは、唇を重ねた。







 初めて会ったときは、陽樹くんと翔月くんが私の頬にキスをしていた。







 だけど、今は違う。






 陽樹くんとの、初めてのキス。








 その事実がなんだか嬉しくて、この時間が止まってほしいとさえ、思ってしまう。









 鐘の音が、夕暮れの海へ溶けていく。


 1日に2度だけ現れる、奇跡の道。





 夕暮れの風が、そっと私たちの間を通り抜けた。





 繋いだ手は、もう2度と離れない。









 あの日、海へ流したボトルメールは―――









 いつしか、私を、大好きな人のもとへ連れてきてくれたんだ。



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