第3話 私と貴方と①
『都会に住む女子高校生へ
良ければだけど、今度会いに来てほしい。受験生だし、遠いから、よければの話だけど…。
一応住所を書いておくから、気が向いたときにでも遊びに来て。
俺は、君に会いたい。
君は、どう?
田舎に住む男子高校生より』
今日届いたボトルメールを、私はまだ自分の部屋で悶々としている。
彼とメッセージを交わして約3ヶ月。不思議なことに途切れることなく、数週間おきにボトルが届いていた。
窓の外を見つめると、木々が緑に生い茂っていて、若いセミの微かな鳴き声が聞こえてくる。
もうすぐ、夏休み。
今年は受験生だから、予備校に籠りきりの日々。…のつもりだったが、今年はそれだけじゃないかもしれない。
『俺は、君に会いたい。』
メッセージの文字をもう1度見つめては、心臓が跳ねる。
なんだか以前よりも、彼は一段と男らしくなったような気がする。今までは、どちらかと言うとふわふわとした少年を想像していたが、今は、大人びいた凛々しい姿なのかと思ったりする。
彼のイメージがわからない。
だから、私も彼の姿をみてみたい。
会ってみたい。
この数ヶ月、海を通じて繋がった彼はどんな人なのか。
どんな想いで、私にメッセージを送ってくれたのか。
見てみたいと思った。
※ ※ ※
8月中旬。私はこの日、初めて親に大きな嘘をついた。
予備校に行くという嘘。
行き先はもちろん――――
羽田空港から高松空港まで約1時間ほど。思ったよりも近い。そこからタクシーで、高松港まで向かい、フェリーで小豆島まで向かうのだ。
ざっと片道3時間くらい。もちろん、家からの時間はもっとかかる。
遠いことは分かっていたが、思ったよりも近くて安心した。早朝からいけば、日帰りでもいけるかもしれない。
太陽がまだ顔を出していない時間に、私は家を飛び出し、必要な荷物を入れて秘密の旅が始まった。
数ヶ月前までの私は、まさかこんなことが起こるなんて想像できただろうか。青春なんて、自分には遠すぎる存在だと思い込み、目をつむっていた当たり前の日常から。
飛行機に乗って、私はメイク道具を取り出す。
もちろん、いつもはメイクなんてするわけない。クラスメイトはしてる人が多いが、一応、校則違反のため守っていた。
私はこの日のために、メイク動画でやり方を必死に勉強し、自分の顔に合った化粧品を購入した。少しでも彼にいいなって思ってもらいたいから。
ボブヘアの毛先を一生懸命内側へとかし、広がらないように携帯型のヘアオイルで固めたり。
苦手だった飛行機も、彼に会えるなら、何も怖くなかった。独特の浮遊感も、私の興奮と共に消え去っていった。
肌を綺麗にして、アイライナーを長く引いて、桜色のチークを塗って、少しずつ乙女になっていく姿に、思わず笑みがこぼれる。
あともう少し。もう少しだよ。
会えるんだ。海の向こうにいる彼に。
※ ※ ※
高松空港から高松港までタクシーで向かい、いよいよフェリーへ。
考えてみれば、フェリーなんて初めて乗ったかもしれない。想像以上に大きくて、何台の車が、すっぽり入ってしまうくらいの大きさで驚いた。
チケットを乗務員に渡し、いざ、小豆島へ。
フェリーの中はかなり広い。座席だけはなく、くつろぎスペースや、香川名物 • 讃岐うどん屋さんがあった。
気になったのでオリーブ讃岐うどんを注文。
啜ると、意外と麺のコシが凄い。普段、母親が買ってくるスーパーのうどんとは段違いだった。噛み応えがあって、お腹が膨れやすい。つゆも、程よく優しく、暑いこの日には、もってこいの味だった。
そうこうしているうちに、アナウンスがなり、ついに小豆島についた。
フェリーを降りると、緩やかな波が迎え入れてくれる。当たり前だが、鎌倉の海とは全然違う。荒くなく、こんなに緩やかなら、映えるだろうなとも思った。
ここが、彼が住んでいる場所か――――
着いて最初に思ったことが、意外と栄えていて、離島なのに、離島っぽくないということだ。あまり下調べしてこなかったもんだから、森だらけの世界だと思っていた。しかし、そんなこともなくて、普通にアパレルショップもスーパーも、小さな飲食店もあった。
ついに、来てしまった。
急に来てしまって、驚かれてしまうだろうか。私の見た目に幻滅してしまうだろうか。
そんな事を頭のなかでぐるぐる巡っては、心臓のことが先ほどよりも早くなっていく。
彼が教えてくれた住所を調べ、Googleマップで向かう。
歩きながら、ついついいい方向に考えちゃったけど、やっぱりずっと不安だった。スマホで見た目を確認しては、独り言のように、『どうしよう』と呟く。
街の風景は鎌倉とそんなに変わらない。でも、瀬戸内の海だけあって、波は穏やかで、日ごろの疲れが浄化される。あと、こっちのほうがすこし高齢者が多いくらいだろうか。交通量もそこそこあるし、高校生たちも普通に歩いている。
ここを右を曲がれば着くな。
いよいよ、『彼』とご対面だ。
ここまで来たら、くよくよ考えるだけ時間の無駄だ。当たって砕けろという言葉が今の状況にぴったりである。
Googleマップの到着完了という知らせに、私はまた、ドキン、と心臓が跳ね、目の前の景色を目にする。
そこには、『食事処 • ウェーヴ』と看板に書かれている。
間違いない。ここだ。
『OPEN』と書かれた看板を見てから、私はゆっくりとそのアンティークなドアを開けた。




